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73.不老不死と死に場所

 ちょっとここまでは想定外。そう思いながらも、壊れた壁から現れたスイ達をゼツは見た。壁に穴が開いた衝撃で立っていられず座り込んでしまったが、持っていた剣を手放さなかったことに安堵する。


「えっ、なっ、なんで……」


 狼狽えるロウに、スイは言う。


「あいつが場所を教えてくれたので」

「え、いや、そうだけど、そうじゃなくて! せっかく皆で作ったお城を……」

「二人を引き離すには、これが手っ取り早かったものですから。これから、皆で遠くに逃げるのですよね? もうこのお城はいらないでしょう。もし必要なら、また作ればいい」


 そう言って、スイ達3人はまるでゼツを守るようにゼツとロウの間に立つ。そして大きくため息をつきながら、ロウを見た。


「勇者から聞きましたよ。このお人好しを使って死のうとしたってどういうことですか?」

「ゼツを巻き込むの、駄目。いくらロウ様でも、許さない」


 ロウを睨むスイとアビュの隣で、ラスが優しくゼツを見る。


「大丈夫よ。ちゃんとわかっているわ。あなたがロウ様の馬鹿げた作戦に、巻き込まれただけってこと」


 スイ達は最初、シュウの言葉を信じることができなかった。けれども胸騒ぎがして、死の花だけは散らして話を聞いた。話を聞いても信じ切れないスイ達を見て、シュウはケアラに全員の加護を解くよう指示した。そして、シュウ自身は持っていた剣すら投げ捨て敵対していない事を示した。そこまでされてしまえば、信じざるを得なかった。それでも念の為アビュの魔法でシュウ達を眠らせ、ここに来た。

 スイ達の唯一の勘違いは、ゼツはロウにそそのかされてこんな行動を取ったのだと思った事だろう。けれどもロウを殺すことができず、スイ達に助けを求めたのだと思った。

 だからこそ、説得すべきはロウの方なのだと、スイ達はロウの方をまっすぐ見た。


「さて、説明してもらいましょうか。あなたが何も言わずに死のうとした理由を」

「酷いわね。私たちを助けておいて、あなたは勝手にいなくなろうとするのですもの」

「アビュ、いつの間にかさよならなんて、嫌だよ」

「いや、えっと……」


 口ごもるロウの手を、スイは優しく握る。


「俺達はロウ様に救われました。だから、俺達はロウ様に意味もなく死んで欲しくないのです」

「み、皆は僕のこと、誤解してる!」


 ロウはスイ達に向かって叫ぶ。


「本当はね、僕が君たちを助けた理由も、沢山の人を殺してきた僕が、天国に行くためなんだ。そして、昔僕を助けてくれた大切な人に、天国で会うため。そのために、僕は皆を利用して……。だけど、僕がズルズル生きちゃったから、皆まで人間たちに狙われて……。だから、僕さえ死ねば……」

「どんな理由でも、私たちが救われたことに変わりはないわ。だからこそ、ロウ様を守りたくて動いていたの。そうね。ロウ様がその人に会うために死を望むのであれば」


 ラスもまた、小さなロウの手に、自分の手を重ねる。


「いつ、死にますか? 私達、いつでもお供するわ」

「えっ……」


 ラスの発言に、ロウの目は大きく見開いた。


「ま、待って! そんな、僕の都合に皆を巻き込むわけには……」

「ロウ様。俺達は、不老不死です。だから、いつかは自分達で終わらせなければいけません。俺達は無事幸せになれました。復讐したかった相手も……。幸せな居場所のおかげで、過去のものになりました。心残りなどありません。あとは、ロウ様に付いて行くだけです。だから、一人で逝こうとするのは、やめてください」


 それを聞いていたアビュも、ロウに抱きついた。


「ロウ様を救った人、アビュも会ってみたい! だからアビュも一緒に行く! アビュを置いて行くの、許さない!」


 そんな3人の言葉に、いつの間にかロウの目から涙が流れていた。

 覚悟は決めたはずなのに、どうしてかずっと震えが止まらなかった。ずっと死にたかったはずなのに、スイ達が来てホッとした。そして、一緒に死のうと言われたとき、死に対する恐怖は消えた。


「ありがとう。なんだか不思議。さっきまでずっと寂しかったのに、もう全然、寂しくない」


 ロウの言葉に、3人も優しくロウを抱きしめた。


 もし、無事天国に行けたならば。その時はあの人に、幸せになれたと言わなくちゃ。そして、皆を紹介して5人で幸せな話をするんだ。ロウは心の中で、そう思った。




 暫くして、3人はそっとロウの体から離れた。けれどもロウの中では、まだ皆の温もりが消えなかった。

 どうして最初から3人に相談しなかったんだろう。ロウは少しだけ、後悔していた。もしそうだったら、彼を巻き込まなくても済んだのに……。

 そう思った瞬間、ロウは巻き込んでしまった彼の存在を思い出した。辺りを見渡しても謁見の間には4人だけ。ゼツの姿はどこにもなかった。


「待って。ゼツは……」

「いない、ですね……。あのお人好しは、気でも遣ったか……」

「違う……」


 ロウは、血の気がさっと引くのを感じた。

 ロウは知っていた。死に震えるしかなかった自分とは違って、ゼツは震えもせず、ただ魅入られるように剣に殺されようとしていたことを。そして気付いていた。生きてもいいとロウが言った時、ゼツが怒りを滲ませたことを。


「死に魅入られているのは、ゼツの方だ!」


 その言葉に、3人の目も大きく見開いた。ロウの問題が解決すれば、優しいゼツは良かったねと、まるで自分の事のように喜んでくれるのだと、そう思っていた。


『もう全部、バレちゃったから』


 バレたのは、剣を盗む計画だと思っていた。けれども勇者は、ロウと一緒に死ぬ計画まで知っていた。そこまでバレてもなお、ゼツが強引に計画を実行した理由に、ようやく気付く。


「早く、あいつを探さないと……」


 そう言ってスイは城を飛び出そうとした。スイは、ゼツの姿が自分の父親の姿と重なったことを思い出す。ロウを見ても、そんな事は一度も思わなかった。けれどもどうしてか、ゼツだけは自分の父親と重なった。あの日のことを思い出していて、焦りでスイの心臓が煩く鳴る。

 けれども、ロウはスイの手を引っ張った。


「何故止めるのですか! 早くしないとあいつは……!」

「僕の力で探す! 闇雲に探しても見つからない! 皆はゼツの姿を見てないか聞いて来て!」


 そう言ってロウは目を閉じる。そして、魔法の力で城の中、城の外を必死に探した。けれども、ロウの魔法も万能ではない。ゼツの場所をピンポイントで探すことはできない。


「ロウ様! ゼツが、城の裏口の方に向かったのを見た子がいたわ!」

「裏口だね! それならだいぶ絞れる!」


 そう言って、ロウは謁見の間から裏口への最短ルートを辿り、その先の森を見る。森しかない、魔族ですらあまり行かない場所に、剣を持って走るゼツの姿があった。


「いた! まだ生きてる! 急ごう!」


 ロウの言葉に、4人は城を飛び出した。

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