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7.提案と誘い

 暫くして、ゼツは店を案内するために3人と歩いていた。


「店はここの角を曲がってすぐにあります」

「俺とも気軽に接してくれ。ミランと同い年なのだろう? 俺と一つぐらいしか変わらないはずだ」

「シュウさんが18歳、ミランさんが17歳、そして私が18歳なのです!」


 ケアラが年上だったことに驚いたということは黙っておこうとゼツは心の中で思った。そもそも瞬時に察して気を回してくれたのはケアラだ。案外見た目以上にお姉さんなのかもしれなかった。

 と、ゼツは一つの店の前で立ち止まった。


「んじゃ、遠慮なく。店はここ!」

「おお、なかなかに良さげな店だ」

「この近辺の街の特産品も使ってるから、初めてこの街に来た人にはおススメの店だよ」

「ゼツも何度か来たことがあるのか?」

「うん。何度か」


 実際、お客様をもてなす時に何度か連れられて入ったことはあった。ゆっくり味わって食べた記憶はないが、それでも美味しいお店なのは間違いなかった。


 店に入れば、話を通してあったからかゼツの顔を見て、すぐに案内された。完全個室のこの店では、隣の部屋の会話も聞こえない。商談の多いこの街は、そのような形式が多かった。


「すまないな。お礼と言いつつ、ゼツのお父上におごってもらうことになって」


 シュウが、申し訳なさそうに言った。


「ううん。その分色々と沢山うちの店で買ってくれて喜んでたよ」

「どうせ買おうと思っていたものばかりだ。問題ない」


 そう言いながらも、どうしてか寂しそうな目をしながらゼツを見た。


「最初は少し厳しそうだとも思ったけど、いい父親だな」


 その言葉に、ゼツは一瞬言葉に詰まった。寧ろ、大嫌いな父親だった。

 けれども、特に客相手には評判の良い父親の事を、そう言われることも多かった。そんな時、返す言葉は決めていた。


「そうかな? うちではただのガミガミ親父だから、嫌になっちゃうよ」


 少しばかりの謙遜。けれども今までの経験上、これが“普通”の人がする回答だろうと、ゼツは結論付けていた。下手に否定し過ぎても話がややこしくなり、けれども変に褒めるのもおかしな話だ。そしてガミガミ親父だとか言えば、自分の所もと共感を得て話が弾むのだ。

 けれども、シュウはそっと目を逸らした。


「ははっ。実際の所はそうなのだろうな。俺は小さいころ親を亡くしているから、あんなふうに叱ってもらえるのは羨ましくなってしまう」


 シュウの言葉に、ゼツはドキリとした。あの返答は良くなかっただろうか。そう思って、ゼツは少し焦った。


「そうなの!? えっと、ごめん……」

「いや、元々は俺が勝手に話したことだ」

「そうなのです! シュウさんはすぐにセンチメンタルになるです!」


 と、話に割り込んできたのはケアラだった。


「でも……」

「ゼツ、シュウの言葉はほんと気にしなくていいわ。本当に落ち込んだ時は、絶対にわかるもの」


 ミランも何度も頷きながら、ゼツに言う。


「それでもシュウは、きっと色々苦労してきたんだろうし……」

「ゼツ、おまえいいやつだなあ! 二人ってば酷いんだぞ!」


 シュウも、お酒も飲んでいないのにまるで酔っぱらったかのように、ゼツの肩に絡んできた。父親の前ではかなりしっかりとした印象だったが、これが本来のシュウなのだろう。なかなかに、賑やかなメンバーだとゼツは笑う。


 叱ってもらえて羨ましい。

 そう言われたときにチクリとした胸の痛みを、ゼツは気付かないフリをした。両親を早くに亡くしたシュウの方が、苦労してきたのだ。だから自分の痛みなんて、きっとほんの僅かなものなのだ。


「もう、いつまでふざけてるですか? そろそろ本題に入りますですよ」


 と、ケアラがポンと手を叩いた。

 ケアラの言葉に、ゼツも姿勢を正す。恐らく死なない体質のことではあるだろうが、何を言われるのか想像が付かなかった。


「す、すまん。そうだった。ゼツ。おまえのその、傷もつかない無敵の体と言うのは、何かの魔法による加護か、道具や薬によるものだったりするのか?」

「あっ、いや。多分体質。それに、俺も急に最近なったから、何がなんだか……」


 ゼツは魔法など使えない。確かにゼツの店には対魔物のための薬や道具も売っているが、傷もつかない無敵の体になれるものなど見たことも聞いたことも無かった。そんなものがあれば、誰もが使いたがるだろう。


「生まれ持ってのものでもないのか!?」

「うん。……数日前に突然」

「なるほど。きっかけなどは無かったのか?」


 死のうとした時。

 なんて話は言えないだろうとゼツは思う。そんな話をしてしまえば、きっと反応に困ってしまう。会ったばかりの人たちに、そんな迷惑はかけられなかった。数日前と嘘を付いたのも、それを隠したかったからだった。


「うーん。なんか突然、力を与える、みたいな声が聞こえたんだよね」

「声、か……」


 間違ってはいない。恐らく今の話の流れで重要なのは「声」なはずだ。そして彼らの目的は、この体質になることだろう。そのために崖から飛び降りられても困るとゼツは思った。

 ゼツはその時、三人はこの体質に興味があるだけだろうと思っていた。だから純粋に、役に立てずに申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。

 シュウは、まっすぐゼツを見る。


「なるほど、理解した。……頼む。俺達のパーティーに入って、一緒に魔王を倒してくれないか?」

「へっ?」


 それは予想外の提案で、ゼツは大きく目を見開いた。


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