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64.大好きと大嫌い

 本当は今すぐ死にたかった。シュウ達からおまえは不要だと言われてしまえば、生きている意味なんて無かった。けれどもシュウ達を守るためとロウと約束したことだけが、ゼツを生かした。混乱した頭のまま、ひたすらゼツは走った。


 シュウ達の事は、大好きだった。ずっと死にたくて苦しかったのに、少しだけそれを忘れさせてくれた。しかもこんな出来損ないの自分にも優しくしてくれた。感謝してもしきれなかった。

 特にミランと過ごした時間は特別だった。自分でも必要とされている気持ちにさせてくれた。だからこそ何かを返したくて、けれども迷惑を沢山かけた。頭の中で、幻覚の中で見た自分を睨むミランと、手を振り払った時の傷ついた顔のミランが交互に映る。そんなミランの顔を思い出すたびに、苦しくて今すぐ死にたくなった。


 気が付けば、ゼツはアリストの外に出ていた。そこから少し道から外れて隠れる場所を探す。そして、ラスを呼んでゼツと剣を魔王城まで運んでもらわなければいけなかった。


「あそこなら……」


 と、ゼツは丁度良い岩陰を見つけた。これなら、ラスを呼んでもなんとか隠れることができるだろう。ゼツはポケットの中から、赤いペンダントを取り出し岩陰の方へ向かう。

 ゼツの頭の中は、シュウ達に言われた事と死にたいで溢れていた。だからこそ、周りに気を配る余裕なんてなかった。静かな夜なのに、自分に近付く足音にすら気付けなかった。


「ゼツ!!」


 その声に、ゼツの心臓は大きく跳ねた。ゼツは恐る恐る振り向く。


「なん、で」


 そこにいたのは、もう寝てしまったと思っていたシュウとケアラ、そしてミラン。三人は息を切らしてゼツの元へ駆け寄った。

 三人とも、ゼツと別の部屋にいるだけで、完全には休んでいなかった。スイ達にも居場所がバレている中、ゼツの様子がおかしいという不安もあって、交互に休みながらもいつでもゼツを助けに行けるようにしていた。


 ずっと、何も聞こえない静かな夜だった。ゼツの動く音すら聞こえないその時間が、どうしてか怖かった。少しだけ物音がしたと思ったら、ドアの開く音がして、慌てて見に行けばゼツはいなくなっていた。そして真夜中に響く足音を頼りに、なんとかゼツを追いかけた。

 ようやくゼツに追いついた時、ゼツは伝説の剣を手に持っている事に気が付いた。理解ができないままゼツの名前を呼ぶと、ゼツは怯えたような目でシュウ達を見た。


「ね、ねえ。ゼツ。どうして……」


 と、ミランは声を震わせながら、ゼツの手元を指差して言った。


「スイ達も付けてた、その赤いペンダントを持ってるの……?」


 ミランの言葉に、ゼツは慌ててそのペンダントをポケットの中に隠した。けれども、三人の中でようやく繋がってしまった。ゼツがその剣を持っている理由も、スイ達がアリストで欠片が奪われる事を阻止しなかった理由も。


「ゼツ!!」


 真っ先にゼツに詰め寄ったのはシュウだった。


「あいつらに何を言われた! 何で脅された! 剣を持ってくれば俺達を殺さないとでも言われたか!」

「ち、ちがっ……」

「教えてくれ! ゼツは意味もなくそんな事をするやつじゃないだろう!?」


 そんなシュウからの信頼を理解して受け取るのは、混乱した今のゼツには難しかった。頭の中でどうしようが溢れて止まらなかった。バレてしまった、失敗してしまった。それからの事を冷静に考えられる状態ではなかった。


「ゼツ!! 教えてくれ!! 頼むから!!」

「俺は……、ただ……、皆を裏切っただけ、だから……」


 ゼツが何とか言った言葉に、三人ともショックを隠せなかった。ゼツから、裏切ったわけじゃないと否定の言葉を聞きたかった。だからこそ、ゼツからハッキリと裏切ったと言われてしまえば、心を直接殴られたような感覚に陥った。


「……わかった」


 シュウは低い声でそう言った。


「それならば剣を抜け。そして、俺を倒してみろ」

「シュウさん!?」


 ケアラが驚いたようにシュウを見た。けれども、シュウの目は本気だった。


「出来ないのか? おまえは俺達を裏切ったんだろう!?」


 シュウの言葉に、ゼツは盗んだ伝説の剣を背中に背負い、シュウから貰った自分の剣を抜いた。けれども剣を持つゼツの手は震えていた。シュウを傷付けたくなかった。

 ゼツが動けずにいると、シュウはゼツにまっすぐ剣を向けた。


「そっちから来ないなら俺から行く!」


 そう言ってシュウは、ゼツに攻撃を仕掛けた。

 シュウからの攻撃を、ゼツは受けることで精一杯だった。本当は、傷のつかない体を上手く使えば、シュウに傷を付ける程度はできただろう。けれどもゼツはそれができなかった。そんなゼツを、シュウも見抜いていた。


「なあ、ゼツ! どうして俺を攻撃してこない!? 裏切ったんだろう!? 魔王側に付いたのだろう!? 何を戸惑っている!?」

「俺、は……」

「本当の事を教えてくれ!!」


 自分の事を傷一つ付けれない癖に、何も言ってくれないゼツにシュウは苛立った。


「何故何も言ってくれない!? どうして何も言わず、おまえは一人で何でもしようとする!? 俺は……! 俺は……!」


 シュウは剣を思い切り振り上げた。


「おまえのそんな所が大嫌いだ!!」


 シュウからの攻撃を、ゼツも咄嗟に避けようと後ろに下がる。けれども完全に避けることはできなかった。ゼツは思わず剣ではなく、腕で自分をガードする。


「あっ……」


 シュウの剣でゼツの体を切り裂くことはできない。代わりに切り裂いたのは、ミランから貰った赤と緑の組紐だった。

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