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6.再会と隠し事

「どこをほっつき歩いてたんだ!」


 家に帰った瞬間、ゼツの耳に聞こえてきたのは、聞きなれた父親の罵声。

 想定通りの反応。けれども現実に引き戻されたような気持ちになった。


「今日は勇者様がお見えになる重要な日だと言っていただろう! 忘れたのか!」

「いや……」

「じゃあ何をしていた!」

「ケガした女の子を助けてて……」


 そう言えば、父親はそばにあった机をドンと叩いた。


「嘘を付くならもっとまともな嘘を付け! 人からの信頼を無くして困るのはおまえなのだぞ!」


 そう言って父親は、嘘を付くことに対しての説教を始めた。深刻な顔をして聞いているフリをしながら、ゼツは内心ほっとしていた。

 話はそれたから、後は嘘を付いたことに対して謝ればいい。それで、父親は満足する。


「お、お取込み中申し訳ありません!」


 と、店の従業員が慌てて父親の元にやってきた。こんな機嫌の悪い日は下手に話しかけず遠巻きに見ているはずが、珍しいなとゼツは思う。


「なんだ」

「勇者様とそのご一行様がお見えになっておりまして……」

「なんだと!? すぐ行こう!」


 父親は一瞬で上機嫌になり、ゼツに言っていたことなど忘れたように店の方へと向かう支度を始めた。一方で、ゼツはどうしてここにと頭を抱える。

 ゼツの家が営む商店は、確かに色々なものが揃っていて、街では3番手ぐらいの売上を誇っている。が、それでも3番手。父親は来ると信じ込んでいるたが、別に予約を受けているわけでもない。国から支援金も貰っている勇者パーティーであれば、1番人気の店に行くだろうと思っていた。


「何をぼーっとしている! お前も身なりを整えて来い! 勇者様はお前と歳が近いと噂だから、お前と話して親近感を持ってもらうという計画だっただろう!」


 父親の言葉に、ゼツは内心ため息をつく。面倒な事になりそうで、少し不安だった。それに、さっき出会ったあの子に、父親とのやり取りを見せたくなかった。


「ただし余計な事など言うなよ! 勇者様の性格を見極めなければならん! 上の者が対応した方が気を良くしてくれることもあるからな! お前は商売の事など一切わかっとらんのだから、紹介されるまでは従業員として振る舞え!」


 それだけ言って、父親は店の表へと消えていった。ゼツは近くで聞いていた母親の方をチラリと見る。母親は、ずっと不機嫌そうに俯いていた。

 けれども、どうせ後で今日の父親に関する愚痴を聞かされるのだろう。そんな日々はもう慣れていた。


 ゼツは服を着替え、店へと降りる。そして、バレないように、隅の方へと向かおうとした。


「あー!! いた!!」


 と、大きな声が店内に響きわたった。ちょっと前、散々聞いていた声。その声は、また父親とのやり取りで疲弊した気持ちを一瞬で消してくれた。


「あなた、急にいなくなっちゃうんだから!」


 そう言ってミランは、まっすぐゼツの方へ詰め寄った。


「えっと、だって無事仲間の二人と出会えたわけだし……」

「二人にも紹介しようと思ってたのよ!」


 そんなゼツとミランのやりとりに、従業員も、そして父親も目を丸くして二人を見た。


「えっと、どうしてうちのゼツが……」

「タイミングを見てお尋ねしようと思っていたのですが、彼女、ミランが怪我をして道に迷っていた所を、ゼツ君に助けられたと聞きました。実はお礼を言いたくこちらにお伺いしまして……」


 剣士の、ミランがシュウと呼んでいた男が、父親にそう伝える。その言葉に、父親はより上機嫌な顔になった。


「おや、そうでしたか! 全く、あの子も街ぐらい案内すれば良いものを……。本当に気が利かない奴で申し訳ございません」

「いえそんな、こちらとしては助けられた身ですから。改めて、お礼申し上げます」


 シュウがそう言えば、ミランもまっすぐゼツを見て、口を開いた。けれども、恥ずかしそうに目を逸らす。


「あたしからも、ほんとありがと。もうケアラに治してもらって、足は平気よ」

「それは良かった!」


 ゼツが笑顔でそう言えば、一瞬こちらを見たが、再び恥ずかしそうに目を逸らした。それがなんだか可愛らしくて、思わず笑ってしまう。


「なっ、なによ……」

「いや、別に?」

「そ、それよりも、よ! いや、お礼も大事なんだけど……」


 ミランは、シュウをちらりと見た。シュウも、ミランを見て頷く。


「あの、ゼツさんの能力なのですが……」

「あー!!」


 と、ゼツは可能な限り大きな声を出して、父親とシュウの間に割り込んだ。恐らく、能力とは死なない体質になった事だろう。けれども、それを父親に知られたくなかった。疲れない、なんて知られれば、休み無く働かされる気がした。


「アレ、のことですね!! アレはその、別の所でお話を……!」

「おい、ゼツ! 勇者様が話しておられるのだぞ! あっ、申し訳ございません! とんだご無礼を……」

「ゼツさん、そうなのです!」


 と、隣で聞いていたケアラが、ポンと手を叩く。


「丁度お礼もしたいと思っていたのです! よろしければ、お食事でもご一緒しながら話をしませんか?」


 その言葉に、恐らく父親は頭の中で何かを計算したのだろう。再び上機嫌な顔に変わった。


「よろしければ、良いお店を紹介いたしましょう! こちらから連絡しておきますので、よろしければ品物でもご覧になってお待ちください!」


 そんな声を聞きながら、ゼツはケアラの方をチラリと見た。恐らく、なにかを察してくれたのだろう。


 ありがと


 そう声に出さずにゼツは口パクでケアラに伝えた。ケアラもグッと指を上に立てた。

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