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58.シナリオ通りと完了

 いくらチームを束ねる長の性格が悪いと言っても、流石は国に属する騎士達だった。スイめがけて、炎や雷の魔法が飛び交い、スイを押していた。人数もあってか、スイの方が避けて守ってばかりのようにも見えた。


「ハッ、三傑とでもいうからどれほどまでかと思ったが、やっぱ大したことねえじゃねえか」


 そうシットが言う。けれども、この状況も想定内。そもそもスイは防御魔法中心で、攻撃のための上級魔法すら出していない。

 そんな様子を、ゼツはこっそりと建物の陰から眺めていた。丁度上空から見えにくいと言い訳もしやすい、屋根のある場所に無事潜り込むことができた。

 そろそろだろうとゼツはぼんやりとスイを見ながら思う。そろそろ次のターンに入る。もうゼツができることは何もない。作戦が全て上手くいくことを、ただゼツは祈るしかなかった。


 スイが、胸に揺れるペンダントを掴む。すると、それに呼び寄せられ、アビュが現れる。


「スイー! やっぱアビュがいないと駄目だった?」

「勇者の方は?」

「知らない! アビュの魔法、すぐ回復されるからほんとやだ!」


 それは、シュウ達がある程度元気で動ける合図。それに、ゼツも安堵する。恐らくシュウ達は、スイの作った氷の壁を破壊し、こちらに向かおうとしている所だろう。


「一気に行くぞ。アイスウォール」


 スイは、地面から生えるように氷の壁をいくつも作っていく。それにより、舗装は剥がれ、地面が見えてくる。


「チッ、何をする気だ」

「アビュの番だ! エナジードレイン!」


 その瞬間、広場に赤い花が咲き乱れる。アリストには、花が咲く地面が無い。けれども、地面をむき出しにしてしまえば、関係ない。

 シット達は、思わず膝を付いた。恐らく耐瘴気の加護はかけていただろう。けれども、シュウとまともな作戦会議をしていないシット達は、花を散らす方法すら知らなかった。


「アイス レイン」


 スイが、広場全体に氷の雨を降らせようとする。つまりは、きっと皆が来るという事なのだろう。


「ファイア ストーム!」


 ミランの声が広場に響いた。氷の雨が炎にのまれて消えていく。


「オーバーブラスト!」

「エリア ヒール!」


 ミランの爆発で死の花は散り、同時にミランの攻撃に巻き込まれた騎士団をケアラが回復する。その後ろからシュウが飛び出し、スイに切りかかる。そんな攻撃を、スイは辛うじて避けた。

 改めて見ると3人の実力は凄い。騎士達は数で圧倒していたが、個人の実力で言えば3人が圧倒的に上だった。


「ミラン、おまえ……」

「ゼツは!? ゼツがこっちに来たんでしょ!?」

「ハッ、見てねえよ。あいつより俺の方が、魔族としては気になるみたいだぜ?」


 シットの言葉に、ミランは興味を無くしたようにシットに背を向け、スイを睨みつけた。


「スイ……! ゼツをどうしたの……!」

「さあな。それよりも俺は、こいつを殺さなければならない」


 スイは、シットに向かって手を伸ばす。


「アイス ウォール」


 スイの放った魔法は防御魔法。だから一瞬、誰もがスイの意図がわからず反応が遅れた。生まれた氷の壁は、シットを巻き込み分厚い壁が作られた。


「アイス スピア」

「……っ。ファイア!」


 低級魔法なのに高威力のミランの魔法が、スイの放った氷の槍を溶かす。けれども完全には溶けきらず、ミランを貫こうとする。思わずゼツは飛び出しそうになる。


「ミラン! 伏せろ!」


 と、シュウの声と共にミランは体制を低く取る。その瞬間、シュウの剣が氷の槍を叩き切った。

 他の騎士たちは、恐怖で誰も戦えていなかった。そんな様子に、ゼツは飛び出しそうになった足を必死に抑えていた。

 わかっている。今飛び出したら、全てが駄目になる。スイにも作戦の時に言われていた。3人は殺さないから、絶対に飛び出すなと。

 自分にもっと力があったら良かったのだろうか。今のゼツは、何もできなかった。攻撃だけは受けても死なずに皆を守れるのに、それすらできない今の状況が一番怖かった。


「どけ」


 スイが、攻撃でミランとシュウをシットから遠ざける。きっと傷つかないようにしてくれたのだろうとゼツは思った。

 そうして、もう一度シットに向かって、氷の槍を向け、そして心臓の前で止める。


「お、おい! おまえら! 俺を助けろ!」

「少しでも動けばこいつの命は無い」

「……っ! 絶対誰も動くなよ! 絶対だ!」


 長がそう言ってしまえば、少なくとも騎士は誰も動くことは無いだろう。そんなシットを見て、スイは馬鹿にしたように笑った。


「代々性格は変わらないのだな。俺の母を殺し、父を自殺へ追いやった、ニュークロスの子孫」

「ど、どういうことだ!」


 シットはスイを睨む。けれども少しスイが氷の槍を近づければ、スイは小さく悲鳴を上げて黙った。


「せっかくの機会だ。教えてやろう。俺は、スイ・リワド。アリストの墓に眠るリワド家の子孫だ」

「ちょ、ちょっと待ってよ! どうして魔族がアリストに……」

「元々は俺もただの人間だった。ロウ様、おまえたちが魔王と呼ぶ御方に、助けられ、この力を得た」


 スイの言葉に、シュウ達も、そして騎士も皆驚いた顔をした。そりゃそうだ。魔族は人間とは別の種族と皆信じていたのだから。


「助けられ、とは、どういうことだ」


 少し動揺しながら言ったシュウの言葉に、スイは憎しみを込めた目でシットを見た。


「こいつの先祖である騎士団長の息子が魔力の暴走で俺の母を殺した時、当時の騎士団長が全てをもみ消した。父が自殺したのも、その行為に絶望したからだ。俺も何度も訴えたが、聞き入れては貰えず、牢に入れられそうになった。その時に、助けてもらった。この答えで満足か」


 スイの言葉に、シュウは俯く。それを見ながら、スイは続けた。


「俺がここに欠片を置き、幻覚を見せる森を作ったのも、誰も父と母を助けてくれなかった、アリストの民への復讐。そうだな。今、この状況もニュークロス家のせい、と言ったところか」

「でたらめを言うな! 誰がそんな事を……」


 けれども、騎士の誰もが、当事者ではないシットの事を冷たい目で見ていた。血筋を大事にする貴族とは、そういうものだった。シットが真面目な好青年だったらこうはならなかったかもしれない。けれども、シットは自分の血筋を自慢し、血筋で権力を握っていた。だからこそ、先祖がやったことでさえ、シットの信頼を無くすのには十分だった。


「やめろ! 俺をそういう目でみるな! てめえら、俺に逆らえばどうなるか、わかっているだろうな!?」


 シットや騎士の様子に、スイはニヤリと笑う。


「そうだ。こうしよう」


 そう言って、スイは氷の槍を消し、そしてシットに向かって再び手を伸ばす。


「トリップ」


 スイがそう言った瞬間、シットは突然力を失ったように、ダランと腕を垂らす。


「どうせ、ここにいる者達は生きたいのだろう? ならば、真実を国中に伝えろ。こいつのようになりたくなければな。これで俺の復讐が完了するならば、欠片などどうでもいい」


 その言葉に、あるものは怯えながら、そしてあるものは深刻な顔をしながら頷いていた。そんな様子に、スイは満足そうな顔をした。そして、動かなくなったシットを見下ろす。


「まあ、こいつが信念を持って騎士になっているのであれば、すぐに戻れるだろう」


 けれどもきっと、シットの性格を考えると、戻ってこれるかはわからない。そんなシットを、スイは暫く見下ろしていた。


「アビュ。行くぞ」

「えー!? 勇者はあ!?」

「今はそんな気分にならない。文句があるなら一人で戦え」

「一人じゃ無理だもん!! 勇者!! 欠片集めてロウ様傷つけに来たら、アビュが容赦しないから!!」


 スイは、再びペンダントを掴む。恐らく魔王城にいるロウやラスに状況を伝えたのだろう。それからすぐに、二人は空から消えた。全てがスイとゼツの作戦通りだった。

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