45.四葉と未来
「まあ、ゼツさんがお変わりなくて安心しました。それに、本当にアリストでの作戦を立てなければいけないですね」
ケアラの言葉で、本当にラス達の言う通り、純粋に三人がゼツを助けるためにここまで来てくれたのだとゼツは理解した。流石にわざわざ助けに来てくれた事に対して、なんでとは聞けないが、自分のために動いてくれた事に対して少し心がポカポカと暖かくなる。
「その前に、改めて。皆、助けに来てくれて本当にありがとう」
ゼツの言葉に、三人も嬉しそうに笑う。
「当然ですよ。そもそもゼツさんが体を張って私達を助けてくれたから私達の今があるのですから」
「寧ろ感謝すべきは俺の方だ。ゼツがいなければ、俺は死んでいた」
「あたしもよ。何されるかわかんないのに、あたし達のために自分を犠牲にするなんて、ほんと、優しすぎるのよ」
そんな三人の言葉に、ゼツの心の中から温かいものが溢れてきそうで、必死に抑えた。ああ、ちゃんと必要としてもらえて、こんなにも幸せな事はないとゼツは思う。
けれどもこれは、きっとロウも言った“ぬるま湯”なのだろう。しかも三人は魔族でもないから、生きれば生きるほど寂しい世界が待っている。だからこそ、皆を守って終わらせなければいけないと、ゼツは思った。こんなに幸せな世界で、皆の幸せと未来を守って幸せなまま死ねるなら、こんなに幸せな事はないだろう。
「俺も、幸せな未来のために頑張るよ」
ゼツも心からの笑顔で、そう言った。
それから、4人は少し安全な所に移動して、これからの事を話した。幻覚魔法対策でシュウとケアラはどうするかという話になった時、シュウは首元から家族写真の入ったペンダントを取り出した。
「俺はこれだろうな。俺の原動力であり、大切なもの」
その言葉に、ケアラは少し拗ねた顔をしてシュウから目を逸らした。
「ん? ケアラ、どうかしたか?」
「別に何でもありません! ……これからゆっくり一番になればいいですし」
「ケアラ……? 何を言っているのか聞こえな……」
「シュウさんには関係ないです!!」
シュウとケアラのやり取りに、ゼツとミランはお互いの顔を見た。
「ゼツ……。あたし、さっきの仕返しをしたい気分だわ……」
「俺も……。でも、特にケアラからの報復が怖い」
「そうなのよね……」
そんなやり取りが聞こえたのかはわからないが、ケアラはギロリと二人を見た。そんなケアラの様子に、ゼツもミランも思わず姿勢を正す。
「まあ、とりあえず。私もどれが最適か考えないとですね……。あっ……」
と、ケアラは一つの場所を見つめた。三人もその方向を見ると、四葉のクローバーが地面に生えていた。
「おお。四葉のクローバーは幸運の象徴ともいうし、縁起がいいな」
「摘んで押花にでもする?」
「……すいません。幸運を独り占めするようであれですが、これ、私用に頂いてもいいですか?」
ケアラの質問に、断る理由をもなく皆頷いた。その様子に、ケアラは立ち上がり、鞄の中からハサミを取り出して四葉のクローバーを根本の方から切る。そうして、ケアラら再び鞄から何かを取り出し、三人に背を向けて何か作業を始めた。
「出来ました!」
そう言ってケアラはシュウの目の前に座った。
「これ、シュウさんが付けて頂けませんか?」
「えっ!?」
ケアラがシュウに渡したのは、四葉のクローバーで作った指輪だった。
「これを、私の希望にします!」
「ちょ、ちょっと待て! こんなの、すぐにボロボロに……」
「特別な薬品で固めたので問題ないのです! ほら、触っても全く崩れませんし、枯れることもありません!」
そう言いながらケアラが四葉のクローバーの指輪を触っても、確かに全く崩れなかった。だから問題無いでしょうと言わんばかりに、ケアラはシュウに左手を差し出す。
「はっ!? ちょ、何を!?」
「ほら、シュウさんが付けてくれないと、私の希望になりません!」
ケアラの言葉に、シュウは顔を真っ赤にしながら指輪を右手で取った。そして左手で、ケアラの手を持つ。
「付ける代わりに、一つだけ俺からの願いを聞いてくれ」
「なんですか?」
「いつか、二人で写真を取りに行きたい。そして、その写真で新しいペンダントを作りたい」
シュウの言葉に、ケアラは満面の笑みをシュウに見せた。
「勿論です! 約束ですよ!」
そうして、ケアラの左手の薬指には、四葉のクローバーで作った指輪がはめられた。けれども二人は、これで恋人同士だとは言わなかった。きっと全てが終わるまで、ハッキリとは何も言わないのだろう。それでも二人は、確かに将来を約束していた。
ふと、ゼツは自分とミランの事を思う。ゼツには未来がない。未来を消すことで、皆の幸せが約束される。だから、自分は死ななければならない。
ミランのことが大好きだ。自分なんかを何度も何度も心配してくれて、自分なんかのために泣いてくれて、そして自分なんかの事を希望だと思ってくれる、優しいミランが大好きだ。だからこそ、笑っていて欲しい。だからこそ、幸せな未来を歩んで欲しい。その未来の隣に自分がいる事を、ゼツは想像ができなかった。もし例え自分が生きたとしても、きっと出来損ないな自分だから、一緒にいればミランに迷惑ばかりかけて不幸にしてしまう。
きっとミランなら、自分よりも幸せにしてくれる人を見つけられる。ミランの隣に自分がいない方が、ミランはきっと幸せだ。けれども今、ミランの希望が“ゼツ”だと言ってくれるのならば。
ゼツはミランをチラリと見た。
「……何よ」
「別に? なんとなく」
そう言った後、ゼツも、そしてミランも思わず笑った。そんなミランの笑顔を、今だけは一番の隣で見ていたかった。