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44.一番と証明

 それから、ゼツはケアラに改めて色々な所を検査され、問題が無い事を確認された。シュウには色々な事を土下座で謝られ、ミランにはずっと泣かれ、寧ろ平和に過ごしてきたことにゼツは申し訳なくなった。こんな優しい三人を裏切る事に心が痛まないわけではなかったが、皆を守るためだとゼツは自分に言い聞かせた。


「ゼツさん。言いたくなければ良いのですが、連れて行かれた先で何をされたか教えてもらえますか?」


 ケアラにそう問われれば、作戦通り色々自分の体質で実験されたと答えた。


「猛毒沢山浴びせられたりとか……、って、そんな顔しないでよ! この通り無事なんだしさ!」


 ゼツの発言に、どうしてか三人とも悲痛な顔をした。猛毒を沢山浴びたのだけは事実であるが、別に本当に実験だったとしても、毒の効かないこの体であればただの液体だ。ゼツにとって何のダメージもなく、それを三人とも知っているはずだった。


「無事じゃないわよ! 幻覚魔法にかかってたじゃない!」

「あはは。確かに。でもちゃんと解けたわけだしさ」


 ミランの少し怒った声を聞いて、自分から魔法をかけることを提案したなんて絶対に言えないなとゼツは思う。三傑の三人にも引かれたのだ。多分きっと、自分の感覚が何かおかしいのだろうとゼツは思う。


「ゼツさん、笑い事ではないですよ! ゼツさんの受けた魔法は、解けても精神がおかしくなってしまうこともあるんです! 何かトラウマとか残ってないか……」

「ほんとに大丈夫だって! 幻覚で見てたのは、皆が死んじゃったって世界で、皆が生きてくれてる限りは……」


 ゼツの言葉に、三人は驚いたように顔を見合わせた。何かおかしな事でも言っただろうかと改めて自分の言葉にを思い返すが、理解ができなかった。


「おまえ、一番の絶望が俺達の死って……」

「何としても生きなきゃいけないですね。私達」


 シュウとケアラの言葉に、ようやくゼツも意味を理解した。この幻覚で見た内容は、ただの絶望ではない。自分にとって、一番の絶望なのだ。それだけ三人が大事な存在であると伝えた気がして、ゼツもなんだか恥ずかしくなる。


「まあそうですよねえ。特に魔法を解いた時のことを考えると……」

「知ってるか? 幻覚魔法は加護や回復魔法は効かない。解くには大切なものや、希望を思い出すきっかけになるものが必要らしいぞ」

「えっ、ちょっと、何!? えっ、どういう……」


 あまりにもニヤニヤとゼツを見る二人に、ゼツも混乱しながらその時の事を思い出した。そして、思わず自分の口を手で塞ぐ。目が覚める直前、確かに感じたのは何かに包まれたような温もり。そして目が覚めた直後に見たのは、泣きながら自分を抱きしめるミランの姿。

 確かに、なんとなくスイからも聞いていた解除方法で、ミランの顔は浮かんでいた。けれども、つまりはミランのことがそこまで大切だと、本人も含めた三人に示す事になるとは思ってもいなかった。


「あの、その……。それは……」


 ゼツは、恐る恐るミランをチラリと見る。ミランもまた、真っ赤な顔をしてゼツを見た。


「な、なによ……」

「あっ、いや、別に……」


 ミランもまた顔を赤くした反応に、少し嬉しくなってしまうゼツがいた。もしかしたら、もしかしたらなのかもしれないと考えてしまう。死ななきゃいけないのに、ずっと死にたかったはずなのに、そんな事を考えると死にたくないと思ってしまう。

 だって仕方がないじゃないか。ミランは自分にとっての希望の光なのだから。


 そうして顔を真っ赤にしながらお互いから目を逸らすゼツとミランを、ニヤニヤと笑いながらケアラは見る。


「ゼツさんがこれから幻覚魔法にかかったら、ミランさんからハグ、ですね!」


 その言葉が恥ずかしすぎて、ゼツは叫ぶ。


「もうその話はいいでしょ!? それより皆はどうやって解除するのさ!! 俺のはわかったんだから、そっちの方が重要でしょ!!」


 ゼツの言葉に、ケアラはまだ面白そうに笑いながら、今度はミランを見た。


「仕方ないですねえ! それでは、私達が幻覚魔法を解く対策を考えましょうか! ミランさんが幻覚魔法にかかったら、今度はゼツさんがハグしてみます? もしかしたら解けるかも……」

「な、な、何言ってるのよ!?」

「そ、そうだって! ミランは他に大切なものあるかもしれないし! ねっ!? ミラン!!」

「えっ!? いや、それは、その……」


 ミランは何て言えばいいのかわからなくなって口ごもる。ずっと人と距離を取って過ごさないといけなかったミランにとって、傷一つ負わないゼツがミランの希望となっていたことを、ゼツだけが知らなかった。ずっとミランは、ゼツへの想いは一方通行だと思っていた。けれども、ゼツもまたミランが大切なものや希望だと知って、どう反応していいのかわならなかった。


「だ、抱きつけるものなら抱きついてみなさいよ!」

「な、なんで喧嘩腰!?」

「わかったわね!? 約束よ!! 破ったら許さないから!!」

「何を約束!?」


 ミランの言葉に、ゼツは何が約束なのか、わからないようでわかって、けれどもわかるのはまだ少し恥ずかしかった。そんな二人のやり取りを、シュウとケアラは相変わらずニヤけながら眺めていた。

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