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43.絶望と光

 シュウ達は、これまでの旅で沢山の話をしてきたつもりだった。好きなことや嫌だったこと、ちょっとした昔話など、自分の事も沢山話したし、他の三人の話も沢山聞いていたつもりだった。記憶の中ではゼツも楽しそうに話していて、お互いの事を分かり合えたつもりでいた。


「シュウやケアラはわかるのよ。何を大切に思ってるのか、なんとなく想像がつくわ。それだけじゃない。シュウはお肉に目がなかったり、ケアラは意外と辛いものが好きだったり、そんな些細な事も知ってる。だけど、ゼツの事だけは、何もわかんない」

「私もです。お二人の事はわかるのですが……」

「俺もだ……。あれ、ゼツとどんな話をしてたっけ」


 実際、ゼツは聞かれない限り、自分の事を話さなかった。聞かれたとしても、質問以上の事は話さなかった。そして、気が付けば他の人の話に流れて盛り上がる。そんな会話が当たり前だった。


「なんで、どうすればいいの……」

「俺達以外だと、やっぱり詳しいのはゼツのご両親……」

「でも、ここからかなり距離があるですよ? トリップは、人を狂わせるです。時間が経てば経つほど……」


 まるで人形のようだとゼツのことを表現したラスの言葉を思い出し、皆震えた。実際、魔法が解けるのが遅ければ遅いほど、解けても精神がおかしくなってしまう。トリップは、その人にとっての一番の絶望を見せる魔法。だからこそ、時間が経てば経つほどその絶望に狂ってしまう。


「嫌よ……。生きているならそれでいいって言ったけど、やっぱりあたし、元気なゼツに会いたいわ……」


 そう言ってミランは、ゼツの手をぎゅっと握る。その時だった。


「ミラ……、ン……」


 まだ目が虚ろだったが、ゼツの口は確かにそう言った。


「ゼツ! どうしたの!? わかるの!? あたしよ!! ミランよ!!」


 そう言ってミランはゼツを揺する。


「ごめ……、なさ……」


 ゼツはミランの言葉には反応せず、ただうわ言のようにそう呟いた。ゼツにひたすら呼びかけるミランの後ろで、シュウとケアラは顔を見合わせる。

 二人は、同じことを思い出していた。ゼツと出会った街を出てすぐの、恋人はいないのかと聞いたあの会話の時の、全員の印象を話したゼツのこと。それだけじゃない。ゼツがラスに来るように脅された時も、珍しくゼツは感情的になっていた時があった。


「ミランさん!!」

「えっ、何……?」

「試してみて欲しいことがあるんです!!」


 その後言ったケアラの言葉に、ミランは目を見開いた。




 その頃のゼツは、まだ闇の中にいた。ゼツが魔法を受けてすぐ、ゼツの目の前は暗転した。そして再び目に入った光景に、ゼツは動揺を隠せなかった。


「あははっ。絶望って、そういう……」


 地獄とでも言うのだから、永遠に串刺しにされ続けるとか、そういった類のものかと思っていた。けれども、実際は違った。目の前に見えたのは、シュウやケアラ、そしてミランが血を流して倒れている姿だった。


「確かに、きっつ。わかってる。これは、偽物なんだって」


 スイに言われた通り、心の中で何度もこれは偽物だと呟いた。呟いて、それを見ないようにと顔を背けようとする。けれども、ゼツの体は動かなかった。目を閉じたくても、閉じることすらできない。ただ三人の死体を、ゼツはずっと眺めるしかなかった。


「これは偽物。本当は皆生きてる。だから大丈夫」


 そう呟いた瞬間、また別の死体が三人の奥に見えた。それはアビュやラス、スイにロウの死体。4人もまた、血を流して倒れていた。


『偽物じゃないでしょう? ちゃんと見ないとダメじゃない』


 と、聞いたことがあるようなないような、そんな声がゼツの後ろから聞えた。


『全部あなたが悪いのよ。あなたが上手くやらないから。だから全員死んだのよ』


 気付けばゼツの周りには、無数の死体が転がっていた。魔族かも人間かもわからない。そんな世界で、目を逸らすことすらできなかった。


『あなたのせいで、作戦は失敗。全員死んで、あなただけが生き残った。全部全部、あなたのせい』


 耳を塞ぎたくても、体は動かせなかった。ただただ、誰かもわからない声がゼツを責め続けた。そのうちに、ゼツの中でも不安が沸き起こる。本当に、自分のせいで失敗したのではないかと。これは幻覚なんかじゃなく、現実何じゃないかと。


 と、ゼツの手に何かが触れた。突然体は動くようになり、咄嗟に手の方を見る。すると、死んだはずのミランが手を握っていた。


「ミラ……、ン……?」


 ミランは、今まで見たこともないような憎しみのこもった目でゼツを見た。


「あなたのせいよ。全部、あなたのせい」


 そんなミランの姿に、とうとうゼツは現実と区別がつかなくなった。


「ごめ、んなさ……」

「ほんとずっと、迷惑だったわ。早く死んでくれたら良かったのに、どうしてあなたは生きてるの?」


 その瞬間、ミランはどうしてかゼツに向かって倒れ込んだ。支えようとすれば、背中に無数の氷の槍が突き刺さっていた。


「ミラン!? 嘘……、ミラン……!? ……あれ?」


 目の前に広がる光景は悲惨なのに、どうしてか体は心地良い何かに包まれていた。それは暖かくて、目に映る光景なんて全て忘れ去らせてくれた。


「ゼツ……! 目を覚まして……! ゼツ……!」


 泣きそうになりながらゼツを呼ぶ聞き慣れたその声に、ああなんだ、目を覚まさなきゃとゼツは思う。だってこれは夢だから。全部全部偽物だから。

 そうしてゼツは、再び目を開く。


 瞬間、目に入ったのは、泣きながらゼツに抱きつくミランの姿。ゼツは咄嗟に、ちゃんとミランが生きているか確認するために、両手で顔に触れ、ミランの顔を見つめた。


「良かった。生きてる。皆も。良かった」


 その言葉に、一瞬驚いて涙が止まったはずのミランは顔を歪ませ、再び大粒の涙を流し始めた。


「なんで、まずあたし達の心配なのよ。馬鹿」

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