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40.当たり前とわからないこと

「勇者君達の行き先がわかったよ!」


 魔王城での穏やかな日も、ロウの一言で終わりを告げた。元気になったアビュと、ラスとスイ、そしてゼツを呼び出し、ロウはそう告げた。


「魔王城の方に向かってる。多分、ゼツを助けようとしてる」

「えっ……」


 ロウの言葉に、一番動揺したのはゼツだった。ゼツは3人がアリストに行くと信じて疑っていなかった。


「なんで、わざわざ……」

「勇者達にとっては、おまえはまだ仲間だ。別に不思議でもなんでもないだろう?」

「えっ、でも、シュウ達……、勇者にとって大切なことは欠片を集めることだし、俺を助けるメリットなんて……。いや、アリストでの作戦に俺が何か影響してるのかな。とりあえず、ここに皆が来ないようにしないと……」


 そうブツブツ呟くゼツを見て、ラスはふっと笑った。


「あら。あなたは勇者達を体を張って助けたでしょう? だから、メリット関係なく、あなたを助けたいんじゃないかしら」

「メリット関係なく……? なんで……?」


 演技ではない、本気でわからないという顔をしたゼツを、皆驚いて見た。


「まっ、待て。おまえは勇者達を、メリットがあるから助けたのか?」

「えっ、だって、三人には生きてて欲しいし、俺は死なないし……。あっ、でも、魔族の人達も生きて欲しいってちゃんと思ってるよ! ここに来て、皆の事好きになったし! だから、魔族を裏切りたいわけじゃ……」

「おまえやっぱり馬鹿! そんなの皆わかってる!」


 アビュの言葉で、ゼツはようやくロウ以外の三人が困惑した顔をしていることに気が付いた。何かまた、間違えただろうかとゼツは不安になる。


「ゼツ。私が勇者達と同じ立場だったら、自分たちを守ってくれたあなたを助けに行くと思うわよ。だって、心配ですもの」

「心配……?」


 確かに、シュウ達はいつも大丈夫なのに自分の事を心配してくれていた。特にミランは、何度も何度も自分の状態を確認してくれていた。だから、なるほどとゼツの中で腑に落ちた。


「確かに、皆優しい人ばかりだったな。ラスもそんなこと言ってくれるなんて、やっぱり優しいね」


 ゼツにとって、自分が後回しにされるのは当たり前の日常だった。それに心が痛まなかったわけではない。けれども、家族からすら与えられなかったものを、血の繋がりのない他人から貰えるなんて思ってもいなかった。そして自分は出来損ないだから、それは当然なのだと思っていた。

 だからこそゼツは、出来損ないの自分を気にかけてくれる人は皆優しい人だと思っていた。そうして心からラスのことを優しいと言ったゼツを、ラスは少し困ったように見つめて言った。


「なかなかに、根深そうね」

「……こいつがとんでもないお人好しの馬鹿だということは理解した」


 スイも頭を抱えて、小さくため息をついた。そんな二人を、ゼツは理解できなかった。ゼツにとっては、役立たずの自分がなんとか役に立とうと必死に頑張っているだけだった。

 そんな4人のやり取りを黙って話を聞いていたロウが口を開いた。


「とりあえず、作戦会議を始めようか。ゼツにはこれを渡しとくね」


 ゼツはロウから、何かを渡された。それは、ロウの目と同じ赤い雫の形をしたペンダント。


「これを握って強く念じれば、皆に自分の場所と状況を伝えることができるよ。ちなみに、僕達4人はその近くに転移もできる。ゼツは僕の魔力を与えてないから転移だけはできないけどね。でも、僕達4人の場所はわかる。試しにやってみるね」


 そう言ってロウは、目を閉じて自分が付けていたペンダントを握る。すると、ゼツの頭にロウ目線の光景が一瞬広がった。

 なるほど、だから急にスイが現れたのかとゼツは納得した。離れた場所でそれぞれ守っているはずの三人が、あまりにも連携し過ぎていると不思議に思っていた。


「凄いね、これ。ちなみに、ポケットの中とかでも大丈夫?」

「問題ないと思うよ」

「良かった。急にこんなの付けてたら、怪しまれちゃうしね」


 そう言ってゼツはポケットに仕舞う。ゼツの服は首元が見えるため、赤いペンダントは目立つ不安があった。


「それで、これからどうするのかしら。私達はゼツの動きを何もせず待っていればいいの?」


 ラスの言葉に、ロウは首を振る。


「流石にそれは何か罠があると怪しまれると思う。そうなると、ゼツが剣を盗むのも難しくなるしね。だから、ある程度は戦う必要があると思う」

「ちなみに、スイの闇魔法って何なの? 氷魔法は特殊じゃないよね?」


 ゼツはスイにそう尋ねた。スイの魔法は他の二人と違って、人間でも使える魔法だった。そしてロウは三人に力を与えたと言っていたから、スイにも何かあるはずだった。


「そう言えばまだ使っていなかったか。俺の使う魔法は“トリップ”。幻覚を見せる魔法だ。くらったやつが、一番絶望を感じる幻覚を見せる。……まあ、これで誰も殺せないが」


 スイはつまらなさそうに自分の手を見た。そんなスイを見て、ラスはふふっと笑った。


「あら? なかなかに強力な魔法なのよ? 抜け出せなければ勝手に狂っていく。しかもそれを防ぐ加護は無いのよ?」

「防ぐ加護が無い!?」


 ゼツは驚いてラスを見た。アビュの死の花に対抗する加護があったのだから、スイに対抗する加護もあるのだと思っていた。

 そんなゼツを見て、スイは口を開いた。


「精神に作用する魔法は特殊らしいからな。ただ、自分にとって大切なもの、希望を思い出すきっかけがあれば抜け出せる。勇者のような正義を原動に動けるようなやつらとは相性が悪い」

「そっか」


 だから確実な氷魔法で対抗していたのかとゼツは納得した。そして、加護の作れない魔法ということにゼツは少しだけ惹かれた。死ねない事は残念だけれども。


「ねっ、その魔法って、俺でも効くのかな」


 キラキラとした目で言ったゼツの言葉に、再び全員が固まった。

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