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35.同じと違い

 それから、ロウとゼツは三傑の三人に説明をするために部屋を出ようとした。部屋の前ではアビュを含めた三人が待っているのか、ドアの前に行くと話し声が聞えた。


「うー、やっぱりアビュも行きたかったあ。勇者やっつけたかったあ」

「ごめんなさいね。お詫びにクッキー焼いてあげるから。何味がいいかしら?」

「アビュ、ラスのクッキー大好き! イチゴ味がいい!」

「わかったわ」


 そんな穏やかな会話も、ロウが扉を開けばピタリと止まる。アビュはゼツを見た瞬間、すぐにスイの背中に隠れ、ゼツを睨んだ。


「アビュ、あいつ嫌い。アビュに痛いことしたし、アビュの魔法効かない」


 確かに、一番ゼツが傷付けたのはアビュだった。しかも物理で押す魔法が無いので、アビュは力ですら押し切れない。あの時は仕方がなかっただろうが、それでも少し申し訳なく思っていた。


 ゼツはチラリとロウを見る。ロウは、自分が三人を説得すると言っていた。ロウと話した作戦は、目の前にいる三人の納得が必要不可欠だろう。けれども、一度敵対してしまった自分を簡単に信じて貰えるとも思わなかった。

 ロウは、3人を順番に見て、ニコリと笑う。


「今日からゼツは、僕たちの仲間になったから! だから皆、ゼツとも仲良くしてね!」


 ロウの言葉に、三人も、そしてゼツも固まった。ゼツは勝手に、説得と言うぐらいだからそれっぽい説明でもするのかと思っていた。けれども、そんな回りくどいことなどせずにド直球。けれども何か考えがあるのかもしれないと、ゼツは何も言わず三人の方をチラリと見た。


「お、お待ちください! こいつはつい先ほどまで勇者の仲間だったのですよ! そんな簡単に仲間になるなど信じるわけには……」

「アビュ、嫌だ。こいつと仲間したくない」

「……私も、彼のことは嫌いじゃないけど、仲間にするのは不安が残るわ。ロウ様、理由をお聞かせいただいても?」


 ですよねとゼツは思う。三人とロウの関係を見る限り、ロウの命令は絶対の世界ではない。そもそもそんな関係であれば、今の状況は起こっていないだろう。

 そんな三人を、ロウは目を細めて見て優しく微笑んだ。


「ゼツも、君たちと同じだったって言えば、伝わる?」


 何が三人と同じなのか、ゼツにはわからなかった。けれどもロウの言葉の意味を理解したのか、三人は驚いたようにゼツを見た。


「正式には、ちょっとだけ違うけどね。ねえ、ゼツ。どうして僕達の仲間になってくれることを承諾したんだっけ。正直に言ってくれていいよ」


 正直に、と言っても、魔王と二人で死ぬためとは言ってはいけないということはゼツにも理解できた。もしそれを言ってしまえば、それこそ計画が全て台無しになる。

 それならばと、ゼツはロウの言葉を思い出しながら口を開いた。


「魔族の人たちがここにいる理由を、ロウから聞いたんだ。俺は、魔族も、そして人間も、誰も傷ついて欲しくない」

「……そう。ゼツは、ロウ様と似てるのね」


 ラスは、少し警戒心が解けたようにゼツに向かって微笑んだ。アビュとスイはまだ少し警戒しているようにも見えたが、肩の力は抜けていた。

 そんな三人を、ロウは少し頬を膨らませて見た。


「そもそも三人が悪いんだよ! 今回みたいな状況になったら、神珠の欠片だけ持って遠くへ逃げれば良かったのに、神珠は自分達でも取れないような保管の仕方するし、アビュとラスはダメって言ったのに人間を襲うし、スイに限ってはそもそも欠片を人の沢山住んでいるところに置くし!」

「うっ……、だってえ……」

「ちょ、ちょっと頭に血が上っちゃったのよ……」

「自分達でも取れると人間たちにも簡単に取られる気がしまして……。そっ、それに、もともと人間側の動向を早めに察知することが目的だったので、一つぐらい人間の近くに置いても、と……」


 あっ、自分たちで取れないんだとゼツは心の中で少し笑ってしまった。そんな表情を出せば、せっかくロウが作ってくれた空気が台無しになる気もしてこらえたが、確かによくよく考えたら、わざわざ神珠の欠片をその場所で守る必要などないはずだった。

 しどろもどろ言い訳をする三人を見て、ロウは大きくため息をついた。


「剣は人間側にあるんだから、欠片も取られて余計にヤバい状態になってるじゃん! 強い炎魔法使える人、魔族にはいないんだよ!? ……まあ、変にここに乗り込まれても、力を与えてない子達が危険な目に合っちゃうから、別の所に置くのは僕も認めたんだけどね。ってことで、ゼツに頼むことにしました。勇者側にいる魔法使いの子の炎魔法で欠片を取ってもらって、完成した所でゼツに盗んできてもらう。ゼツなら勇者君達の仲間のフリもしやすいしね。そして、そのまま遠くに逃げよう」

「……彼が裏切った場合は」


 スイが、ギロリとゼツを睨む。


「僕、見る目はあるはずだから、信じて欲しいんだけどなあ。大丈夫。ちゃんと僕が見とくから、そうなったら君たちに伝えるよ。それに勇者君達が僕たちに攻撃されれば勝てない事、ゼツも含めてわかっているはずだよ」


 そうロウが言えば、スイは大きくため息をついた。


「……一先ずは、ロウ様の作戦に乗りましょう。ただし、その作戦を認めただけで、俺は彼を認めたわけではありませんから」


 そう言って、スイはくるりと背を向け去っていく。ラスも、何かを考えるようにロウとゼツを見ていた。

 と、ずっと俯いていたアビュが、ゼツをキッと睨んだ。


「アビュだって認めない! 絶対絶対認めない! おまえのこと、大嫌いだもん!」


 そう言って泣きそうになりながら叫んで、そして廊下を走っていった。

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