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34.死にたがりと望む未来

 死にたいなんて、ゼツは誰にも言った事がなかった。そんなこと言われても、きっと言われた側が困るだけ。それに、死にたい理由は大したことないくせに、死にたい感情だけが大きすぎて、きっと呆れられてしまう。

 それに、死にたいなんて思うこの感情自体がが、悪いことだともゼツは知っていた。生きたい人が生きることができないこの世界で、つまらない理由で命を粗末にしようとするなんて、どうかんがえても悪いこと。それでも死にたいなんて思ってしまう自分は、やっぱりおかしいのだろう。


 だから、一緒に死のうと言ったロウの言葉は、まるで自分のおかしな感情が肯定されたみたいで、ゼツは惹かれてしまった。けれどもまだ不安があった。一緒に死のうと言ったロウの心の中が、自分と同じなのか不安だった。


「なん、で」

「だって、ゼツ。一回死のうとしたでしょ?」

「……見てた、の?」

「ううん。見つけてたら、その時点でここに来ないかって誘ってたよ。わかったのはね。僕も一緒だから」


 一緒と言ったロウから、ゼツは目が離せなかった。


「僕のこの体。傷つかない、歳も取らない不老不死の力。これを手に入れたのは、僕が死のうとした時だから。理由は未だにわからないけどね。声がして、気付いたらこの体になってた」


 一緒だと、ゼツは思った。そもそもどうして気付かなかったのだろうか。確かに、ゼツの体質は魔王の特徴と似ていた。それならば、ロウがその力を手に入れたのも、ゼツと同じである可能性は十分にあった。


「ちなみに、ゼツ達の言う闇魔法はその時貰ったわけじゃないよ。不死身の体になった時、色々あってね。気持ちが復讐に傾いちゃったんだ。そんな時、死のうとしたときとは別の声が聞こえた。その声に力が欲しいって言ったら、闇魔法が使えるようになったんだ。そこからスイ達と出会って過ごしてるうちに、なんとなくまだ死ぬのは良いかなってなって思うようになって。剣の存在も知ってたんだけどね。そしてぬるま湯に浸かってたら、ここまで来ちゃった」

「ぬるま湯に、浸かったままじゃ、駄目だった……?」


 ゼツは、震える声でロウにそう尋ねた。


「あはは。どうだろうね。でも、ずっと根底に、死にたいって感情はずっと残ってた。ねえ、ゼツ。想像してみて。ゼツの中にあるそれを抱えて、永遠に生きるの」


 そんなの地獄だとゼツは思った。生きているのに、まるで地獄にいるような、永遠に終わらない苦しみ。それならば、死ねた方がどれだけ楽だろうか。


「良いこと教えてあげる。僕の見た目がこれだけ幼い理由。それはね、この見た目の時に、死ねないこの体質を手に入れたから。他の魔族たちの年齢は僕がコントロールしてる。でも僕だけはできない。きっとゼツも同じ。普通に生きてたら、寿命ですら死ねない」

「それは……、嫌だ……」


 ゼツは思わず呟いた。ずっと死にたかった。死んで、それでこの苦しみが消えるなら、どれだけ楽だろうか。だから神珠を集めて剣を完成させる旅にも同行した。いつか望んだ時に死ぬために。なのに、寿命ですら待てない自分が永遠に生きるなんて、どれだけ地獄だろうか。


「そうでしょ? でもスイ達は僕が死ぬのを許してくれそうにない。そもそも、神珠を壊したのもスイ達だしね。ゼツだって、勇者君達は許してくれないでしょ?」

「……まあ、怒られそうだね。命を粗末にするなって」


 実際、シュウやケアラはそういう考えが嫌いそうだとゼツは思った。

 ふと、ミランの顔が浮かぶ。ミランはずっと、自分の事を心配してくれていた。ここに連れて来られる時ですら。もし、こんな感情を見せたら、ミランは呆れないで心配してくれるだろか。

 そう思った後、ゼツは心の中で自分を笑った。ミランにそんな迷惑をかけるくらいなら、やっぱり自分は死んだ方がいい。

 そんなゼツを見て、ロウは続ける。


「そういうことで、考えたんだ。二人で死ぬ方法」


 ロウはパッと腕を広げてみせた。


「ゼツが僕達の仲間になる。そして、スパイとして勇者君達の所に戻る。ゼツの役割は、完成した剣を盗んで僕の所に持ってくること。そんな感じでスイ達に説明すればいい。そして剣が手に入った時、僕を殺して君も死ぬ」


 一瞬、シュウ達を裏切るようで、ゼツの心は揺らいだ。けれどもそんなゼツの心を見透かしたように、ロウは笑った。


「勿論、メリットもあるよ。きっと勇者君達が僕を殺したら、スイ達は絶対に勇者君達を憎む。きっと皆殺されちゃうね。けれどもゼツが僕を殺したことにすれば、怒りはゼツに向く。そうだ、剣が近くにあればスイ達に殺してもらうこともできるよ。そして僕を殺したゼツが死ねば、スイ達の復讐も終わる。魔王である僕がいなくなったら、神珠を守る理由もなくなるし、皆誰かと争うことも無く、平和に生きてくれる。そして、勇者君達の魔王討伐という目的も達成される」


 ロウの提案は、ゼツにはとても魅力的に聞こえた。誰も傷つくことのない、素晴らしい未来。そうしてロウとゼツは、望み通り死ねるのだ。


「もう、僕のせいで皆が傷つくのは嫌なんだ。ゼツもそうでしょ? ゼツも勇者君達を守りたい。ね?」

「わかった。協力するよ」


 ゼツも笑顔でそう言った。

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