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31.交渉と選択

「シュウさん!!」


 真っ先にシュウの状況に気付いたのはケアラだった。ケアラは持っていた爆薬をウルフルに投げつけ、シュウの元に向かう。そして、ラスと、そして上から下りて来たスイに見下ろされ苦しそうにうずくまるシュウの上に覆い被さった。


「ヒール!!」


 ケアラはそう言いながら、目に涙を浮かべ、威嚇するようにラスとスイを睨む。けれども、シュウに回復魔法をかけながら三傑の二人を相手する術は無かった。シュウの地面には血の海が広がり、回復魔法を受けながらもシュウは荒く息をしていた。


「ねえ、スイ。どうする? 余裕があればあの剣も取っちゃおうかって言ってたけど」

「そうしたいところだが、ロウ様の命令が優先だ」

「そうね。この子みたいに目先の事にとらわれて、自分のやるべき事を忘れる馬鹿にはなりたくないわ」


 ラスの言葉に、シュウの体はピクリと動き、そしてシュウの手は悔しそうに地面の土を握りしめた。けれども、荒く息をするだけで、シュウは言葉を発することすらできなかった。

 と、どうしてかラスとスイはゼツの方を見た。ゼツもなんとかシュウを助けに行きたかったが、レッドベアからの攻撃を受けることに精一杯で、シュウやケアラの方に向かわないようにすることしかできなかった。


「ベアちゃん、ストップ」


 と、ラスがレッドベアにそう言った。すると、レッドベアのゼツへの攻撃が止まる。そして、ラスはふわりと浮き上がり、再びレッドベアの肩に乗った。そして、ゼツの方をじっと見つめる。


「あなた、お名前は?」

「なんでそんな事……」

「ふふっ。まあ後で聞くわ。ねえ、あなた。私たちに付いてきてくれないかしら。ロウ様が、あなたを望んでいるの」


 ラスの言葉に、ゼツの目は大きく見開いた。突然の事に、頭が追いつかなかった。


「勿論、あなたにとってもメリットはあるわ。あなたが付いて来てくれたら、あの子たちを見逃してあげる。その代わり」


 シュウとケアラに向けて、スイが手を伸ばす。


「来なかったら、今すぐあの子たちを殺すわ」

「インフェルノ」


 と、ミランの声と共に、ウルフルが炎で燃え上がる。その痛みによって、ウルフルは大きく吠えた。


「ゼツ、行っちゃダメ!!」


 そう言ってミランがゼツの方へ駆け寄ろうとする。


「ウルちゃんをいじめないで。ウルちゃん、ハウス。スイ、あの子を足止めして」

「仕方ないな。アイス メイク」


 炎に包まれたウルフルは、裂け目の中に消えて行った。それと同時に、ミランの足と地面が氷で固まり、ミランの身動きが取れなくなる。


「ミラン!!」


 ゼツも慌ててミランの元に駆け寄ろうとするが、ラスの指示でゼツの体はレッドベアに止められ、押さえつけられた。ゼツがどれだけ暴れても、ビクともしなかった。


「そう。ゼツと言うのね。良い名前。そして、あの子があなたの一番大切な子かしら」

「……っ! ミラン!! 逃げろ!!」

「……っ。ファイア」


 ミランは自分の足に向かって、炎を放つ。けれどもそれはある意味自殺行為。氷は溶けても、炎の痛みで、ミランもうずくまる。


「スイ」

「わかっている。アイス レイン」


 痛みで中々動けないミランの上に、鋭い氷の雨が降り注ごうとする。そんな様子に、ゼツは叫んだ。


「やめろっ!! 行くから!! だからお願いだからやめて!!」


 寸前の所で、氷の雨は止まった。けれども消えることなく、ミランのすぐ上で止まり続けている。


「そう。来てくれるのね。良い子」

「駄目……! 駄目よ、ゼツ……! あたしは大丈夫だから……! だから行っちゃ駄目……!」


 そう言って、ミランはラスに向かって手を伸ばす。けれども、ゼツはわかっていた。ウルフルとずっと戦って時間を稼ぎ、そして最上級魔法のインフェルノを撃った後のミランは、ほとんど弱い魔法しかできないことを。そして、そんなミランにずっとスイが狙いを定めているということを。


「……ラス、……さん」


 ゼツは、震える声で近くにいるラスを呼んだ。


「あら、名前を呼んでくれるのね。なあに?」


 その時、ゼツが言った言葉にラスはほほ笑んだ。そしてふわりと浮き上がって、ケアラの所へ降り立つ。そして、ケアラの鞄に手を伸ばした。


「なっ、何をするんです!」

「ほら、ヒールに集中しないと。その子本当に死ぬわよ。それに、あなたには何もしないわ」


 ラスの言葉に何もできないまま、ケアラはラスを睨んだ。そんなケアラを気にもせず、ラスはケアラの鞄から薄ピンク色の液体の入った小瓶を取り出した。

 それは、睡眠薬。ラスはそれを、持っていた自分のハンカチにしみ込ませる。そんなラスを、ミランは睨む。


「絶対に……、ゼツを行かせない……! ファイアボール」


 なんとかミランが出した火の玉を、ラスは華麗に避けてミランの元へ降りる。ラスが何をするつもりかミランもわかったのか、ミランもなんとか逃げようとするが、足が動かない。


「ミラン!」


 そんなミランに向かって、ゼツは叫ぶ。


「大丈夫! 俺、無敵だから!」

「……っ。馬鹿」


 ラスはミランの口と鼻を防ぐように、薬のしみ込んだハンカチを当てる。


「ふふっ。彼、本当に優しい子ね。あなたが傷付くのが嫌みたい」


 ラスの言葉を聞きながら、ミランはゆっくりと目を閉じた。


「スイ、もういいわ」

「わかった」


 そう言ってスイも、氷の雨を消した。そうして、ラスとスイは、ゼツの元へと来る。ゼツも、もう暴れることなく二人をまっすぐ見た。


「剣だけは置いて行ってちょうだい。私のお友達を傷つけられたくないの」

「わかった」


 そう言って、ゼツはシュウからもらった剣を地面に落とす。そんなゼツを見て、ラスは笑う。


「ふふっ。良い子。もう行きましょう? サモン」


 そうラスが言えば、鷲を大きくしたような魔物が現れる。ゼツはそこに乗るように指示された。

 ゼツは最後に、今まで旅をしてきた3人を見た。ミランは眠っているだけ。シュウはきっと、ケアラが助けてくれる。だからきっと、大丈夫なはず。

 そう心の中で呟いて、ゼツはその魔物に乗った。

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