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25.異常な体と不確定

 その日はイエルバの人たちと、森の外で夜を越した。シュウは国から派遣された者達へ報告など少し慌ただしくしていたが、それ以外には平和に過ぎて行った。


 そして次の日、ゼツ達はイエルバの人たちと別れ、再び旅立つこととなった。イエルバをどうするかは、イエルバの人たちで考えていくという。神珠をゼツ達が手に入れたことで魔族からの脅威は無くなっただろう。けれどもアビュの言った言葉が街の人たちにも広まり、本当に住み続けて良いのかと疑問に思う者も出て来ていた。それに再び住むとしても、荒れてしまった状態を整備することも必要だった。

 けれどもイエルバの事は自分たちに任せてと、4人は送り出された。ケアラは少し不満そうだったが、それでも確かにイエルバにずっといるわけにもいかなかった。イエルバにいれば、勇者を憎む三傑達がまたやってきて、イエルバの人たちを危険に再び晒す可能性もあった。


「そうだ、ゼツ」


 と、シュウは立ち止まって、ゼツの方を見た。


「これを渡しておく」


 そうして渡されたのは、シュウの持っているものより細くて軽い剣だった。


「えっと……」

「流石に何も武器を持っていないのは不味いなと、ヒトクイソウの時から思っていた。だから、国の奴らに頼んでいたんだ。流石にその体質の件は、ゼツが面倒なことに巻き込まれそうで言っていない。ただ、ゼツも正式にパーティに入れたことも伝えておいたから、全てが終わった後もスムーズだと思う」

「そっか。ありがとう」


 確かに、攻撃手段が一つもないのは不便だとゼツは思っていた。刃物があれば、シュウみたいに戦えなくてもこの体質を生かして切り抜けられる場面も出てくるだろう。


「でも、せっかくならある程度はちゃんと戦えるようになりたいな」

「ふふふ。そうだと思って、師匠である俺が時間のある時に稽古をするつもりだ!」

「そういえば、そんな話をしてて結局できてなかったね。師匠、頼りにしてるよ」

「任せておけ!」


 そう言ってシュウは嬉しそうに威張る。そんなシュウに笑いながら、ゼツは剣を鞘から抜いた。この重さなら、ゼツでもある程度振り回されるだろう。


「せっかくなら昨日の夜とかも簡単に訓練してみたかったな」


 深く考えず、ゼツはぽつりとそう呟いた。


「……やっぱり、今日渡して正解だったな」


 シュウの言葉に、どうしてかミランやケアラも何度も頷いていた。


「えっ、なんで? 俺は平気……、あっ、勿論シュウを練習に巻き込むとかそんな意味じゃなくて、ちょっと振ったりして自分なりに色々試してみたいなって思っただけで」

「俺の心配じゃない。ゼツの心配をしている」


 シュウの言葉に、ゼツは首を傾げる。疲れないなら、起きて訓練していても全く問題ないはずだ。そんな事を考えながらぽかんとしているゼツを見て、シュウはため息をつく。


「ゼツ、おまえ、イエルバに来てから一切休んでいないだろう」

「えっ、うん。だって……」

「身体は平気かもしれない。けれども、精神的にはしんどくないか?」


 寧ろ家にいる時よりは楽。なんて思ってしまうのは、きっと自分の感覚が狂っているのだろうとゼツは思う。寧ろ何かしていない方が、嫌な思考になってしんどかった。

 ゼツは笑顔でシュウを見る。


「心配してくれてありがと。でも、今の所大丈夫。それに、ただでさえ戦闘では足手まといなんだから、やれることはやらないと」

「足手まといなんかじゃないわよ! ゼツがいなかったら、間違いなく皆死んでたわ」


 隣で聞いていたミランが、ゼツの腕をひっぱって真剣な顔で言った。


「それはたまたまこの体質と相手の魔法の相性が良かっただけで……」

「そんなこと……! ……でも、話がズレるから今その話は良いわ。……あたし、怖いの。ゼツが急にその体質になったのなら、急に元の体質に戻って、そしたら蓄積されてたのが全部一気に身体の負担になって、それで死んじゃったらって。だから……」

「そうてすよ! イエルバでも調べていましたが、ゼツさんの身体はやはり前例がなかったです。何もかもが不確定なのですから、大丈夫だと思ってても大丈夫だとは限らないのですよ! ゼツさんは少し楽観的過ぎます!」


 ケアラも加勢して、ゼツを叱るように言った。どうしてゼツにそこまで言うのか、最初ゼツは理解できなかった。けれども情報を持ち帰るという目的を考えれば、死なれては困るのだろうとゼツは一人納得した。

 一方で、そうやって死ぬのも良いなとゼツはぼんやりと思った。剣で死ぬのは痛そうだし、勇気がいる。けれども突然死ねるのなら、それはそれでありだ。


「ゼツ、聞いてるの!?」


 と、ぼんやりと考え事をしてきたら、怒ったようにミランがゼツの服の裾を掴んだ。


「あっ、ごめん。聞いてる聞いてる。とりあえず、適当に休むよ」

「夜の見張り中、ずっと剣の練習をしてる、何てことはするなよ」

「わっ、わかった! わかったって!」


 実際、暇な夜の時間はそのつもりだったが、変に否定するとまた責められそうで、ゼツは適当に誤魔化した。何とか話を変えようと、頭を回す。


「それよりさ! 今度休憩した時にさっそく剣教えてよ! 昨晩はちゃんと休んだからいいでしょ? 早く使ってみたいしさ! ねっ、師匠!」

「ふっ、仕方ないな。俺の秘伝の技を教えてやろう」


 そんなやり取りに、ミランやケアラも少し呆れた顔をしながらも、笑っていた。そうして会話が逸れたことに、ゼツは少しだけほっとした。

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