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24.叶えたいことと約束

 日も完全に暮れた頃、ゼツ達がもうすぐ森を出ると気付いたのは、オレンジ色のいくつもの小さな光のおかげだった。最初、なんの光かはわからなかった。本当は住民の人達は安全な所に避難して、いるのは情報確認のための国から派遣された一人が二人ぐらいのはずだった。

 けれどもその光の奥に沢山の人影が見えた頃、向こうもゼツ達に気付いたのか、歓声が上がった。そこにいたのは、避難したはずのイエルバの人達。彼らは、ゼツ達の帰りをずっと待っていた。


「ケアラ!!」


 まずゼツ達の元へやってきたのは、ケアラの父親だった。ケアラの父親は、まっすぐケアラの元へ来て、そして抱きしめた。


「無事で良かった……。怪我はないかい? 何か体に違和感はないかい?」

「おとう……、さん……?」


 ケアラは考え事をしていたのか、抱きしめられてようやくケアラの父親の存在に気付いた。


「お父さん……!? どうしてここに!?」

「無理言ってここで待たせてもらったよ。街の人達も一緒だ」


 街の人達は、笑顔でケアラに手を振った。その様子に、ケアラの目から涙が溢れだす。


「どうした? 何かあったのかい?」

「いえ、なんだか安心して……」

「そうか。そうか。頑張ったな」


 そう言って、ケアラの父親はケアラの頭を優しく撫でた。そんな父親の胸に顔をうずめ、ケアラは暫く泣いていた。

 そうしてケアラの涙が落ち着いたころ、ケアラの父親はケアラに尋ねた。


「神珠は、無事取れたのかい?」

「……はい」

「けれどもそんな顔をしているということは、何か気になる事でもあるのかな?」


 父親の言葉に、ケアラは驚いて父親の顔を見た。そして、ぽつりぽつりと、先ほどのことを話した。初めて聞く話に、ケアラの父親も驚いた顔をしていたが、何も言わずにケアラの言葉を聞いていた。


「……そうか。難しい話だね」


 ケアラの言葉を聞き終わった後、ケアラの父親はそれだけを言った。


「でも……! 少なくともイエルバの人は何もしていなくて……! それに、お母さんのこと、誰が悪いのかわかんなくなっちゃって……。私はただ、お母さんと同じ目に誰もあってほしくなくて……」


 そう言うケアラを、ケアラの父親は優しく撫でた。


「ケアラが、一番叶えたいことはなんだい?」

「……お母さんと同じ目に、誰もあわないこと、です……」

「そうだね。決して誰かを責めるために頑張ってきたわけではないよね」


 父親がそう言えば、ケアラはハッとした顔をした。


「勿論、誰かを恨みたくなる気持ちは分かるよ。お父さんも、色んな人を心の中では責めた。その気持ちは否定しない」

「お父さんも……?」

「ああそうさ。それに、今の話を聞いてモヤモヤしてしまう。もしああしていれば、こうしてくれれば、ってね。だって、私たちには感情がある。でも、それとケアラのやりたいことは別だよね。そのために、時には新しい情報を知って、考えていた方法を変えたりしなければいけないこともある。けれどもその情報だって、ケアラが進んだからこそ手に入れられた情報だ」

「そう……、ですね。その通り、です」


 ケアラは、父親の言葉を一つ一つ飲み込むように、ゆっくりと頷いた。


「まだ、どうしたらいいのか、何が最善なのか、わかりません。でも、お母さんみたいな人が二度と出ないような世の中を作る。そのために、とりあえず今私が正しいと思った道を進んでみます」

「その道を、お父さんも応援しているよ。そして」


 ケアラの父親は、優しくケアラに笑いかけた。


「どんな時でもいい。“感情”が溢れそうになった時は、いつでも帰っておいで。そして、どんな感情でもいい。全部受け止めてあげるから、甘えにおいで」

「……っ。はい……!」


 ケアラは、また泣いていた。けれども笑っていた。ケアラは、先程とはまったく違う、晴れやかな顔をしていた。

 そしてケアラの涙が落ち着いたころ、ケアラの父親は立ち上がった。そして、少し離れて見ていた3人の元へとやってくる。


「シュウ君、ミランさん、ゼツ君。君たちも、改めてお礼を言いたい。ありがとう。少なくとも、私にとってイエルバは、妻や娘との沢山の思い出のある大切な場所だ。私は、いや、きっと街の人たちも、イエルバを取り戻してくれたことに感謝しているよ」

「そう言って頂けるのであれば、俺も心が救われます」


 シュウはケアラの父親の言葉に、深く礼をした。シュウもまた、ケアラと父親の会話に少しだけ気持ちが軽くなったのか、晴れやかな顔をしていた。


「そうだ。シュウ君」


 と、ケアラの父親は、シュウを近くに呼び寄せた。


「君の事は、ケアラがイエルバに帰って来てから一番話を聞いていてね。……甘える人がいないのであれば、君もケアラと一緒に甘えに来なさい。なんたって、私の息子になるかもしれないからね」

「は? え?」


 ケアラの父親の言葉に、シュウは動揺したようにきょろきょろと周りを見た。そんなシュウを見て、笑いながらケアラの父親は、シュウの肩をぽんと叩いた。


「そのかわり、必ずケアラを守ると約束して欲しい。そして、ケアラも君も、生きて帰って来なさい。そうでないと、娘を託すことすらできない」

「……はい! 必ず! 約束します!」


 まるで誓いのようなシュウの言葉に、ケアラの父親も満足そうに頷いた。


「それに、ケアラは中々に強情な子だ。暴走しないように、見守ってやってくれ」

「わかりました。ただ、ケアラさんの意志の強い所も、素敵だと思っています」

「ははっ。将来的には苦労するかもしれないけどね。ケアラの性格は妻に似ている。経験した私が言うのだから間違いない」


 そう言ってケアラの父親は、愛おしそうにケアラを見た。ケアラもその視線に気づく。


「お父さん! シュウさんに何か変な事言ってないですよね!?」

「言ってないよ。ただ、大切な話をしていただけだ」

「なんですか! 大切な話って! 私にも教えてください!」


 ケアラの少し怒ったような声と、ケアラの父親の笑い声が響く。それは、子供のはしゃぐ声や、これからどうしようかと話す大人たちの声と交じり合って、風に乗って流れて行った。

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