21.信念と揺らぎ
視界が開けた先にあったのは、イエルバの街だった。見慣れた光景に、少しだけ安堵する。
「やり遂げた……、ですね……?」
「……だな。欠片は……」
「あるよ。はい、欠片」
ゼツは、シュウに欠片を渡す。紫色の欠片は、剣の柄のくぼみに綺麗にはまった。
「とりあえず、一つ、か」
そう言ったシュウは、欠片を一つ手に入れたはずなのに表情は暗いままだった。
「俺の、せいなのか?」
シュウはポツリと呟く。
「俺のせいで、ここの人たちは危険な目にあったのか?」
「そんな事を言ったら……!」
ケアラはそう言って、そして力無く肩を落とした。
「お母さんが危険な目にあったのも、ここの人たちが危険な目にあったのも、全部、全部、イエルバのご先祖さんがここに街を作ったから……」
「だ、だが、こちらを惑わせる嘘かもしれない……!」
シュウもそう言いはしたが、寧ろそうであって欲しいというシュウの願望でしかなかった。
誰もがわかっていた。アビュの発言が、魔力が暴走するほどの本心だったことも。その言葉に矛盾が無かったということも。
「知識があるからこそわかるのです。毒は時には薬になる。薬草だって、そのまま使えば毒なのです。でも……、それでも……!」
ケアラは、植えられていた薬草に触れる。
「誰かを助けたかっただけなのです。きっとご先祖様も……」
「そうだ! 知らずにそこに街を作ったとしても、彼らは何もしていない! そうだろう⁉ 魔王を守りたいなら、俺達だけを襲えば良かった!」
シュウは縋るような目でケアラとゼツを見た。
「その通りです! イエルバの人なら、ちゃんと話せばわかってくれたはずです! 住まないで欲しいなら、無理やり住もうだなんて……」
「そうだ! そもそも魔王は、俺の村の人たちだって全員殺した! そういう奴なんだ!」
そう言ってシュウは、拳を握りしめた。
「……だから、魔王は殺さなければいけないんだ。俺はずっと、そのために生きてきた。そして二度と同じ悲劇が起こらないために……。だから、俺は間違ってなんか、いない」
そう言うシュウに、ゼツはどう声をかけて良いのかわからなかった。思うことは沢山あった。けれども言えなかった。また自分の言葉が不快にさせるのではと怖かった。
「……シュウ、ケアラ。ミランも目を覚ましたみたいだし、そろそろ街を出よう? イエルバの人たちが、皆の無事を祈ってるよ」
なんとかそれだけ言えば、二人とも黙って頷いた。
ミランに状況を説明し、イエルバに背を向け歩き出す。
『皆はいいじゃん! 色んな人に愛されてたからそれでいいじゃん!』
ずっと、ゼツの頭にアビュの言葉がこびりついて離れなかった。アビュもまた、誰にも愛されなかったのだろうか。どうしても、自分をアビュと重ねてしまった。
敵なのに。人殺しなのに。そう思ってしまう自分はきっとおかしいのだろう。誰にも愛されなかったのだって、自業自得なのだ。出来損ないの自分のせいなのだ。
「ゼツ。無理してない?」
隣で歩くミランが、心配そうにゼツを見た。隠していたはずなのに、また気を遣わせてしまったのだろうか。その事実に申し訳なくなる。
「大丈夫だよ。それより、シュウとケアラの方が……」
そう言いかけて、口をつぐむ。聞いていないだけで、ミランもまた2人のように辛い経験をしてきたのかもしれない。そう思ってゼツはミランに尋ねた。
「ミラン。ミランも過去に何かあって、勇者のメンバーに入ったの?」
ゼツの言葉に、ミランは少し気まずそうに目を逸らした。
「……残念ながら、2人みたいに立派な理由はないわ。あたしは、ただ逃げたかっただけ」
「何か逃げたい事でもあったの?」
「魔力の暴走で、ある人を傷付けたことがあったの。運よく死にはしなかったわ。けれどもそれ以降、皆から避けられるようになった。当然よね」
そう言ってミランは、力なく笑った。
「パパとママだけは、一緒にいてくれたのよ? でもあたしのせいで沢山迷惑かけた。そんな時、勇者と一緒に旅をする魔術師を探してるって聞いたわ。あたし、魔力だけは人より多いから、こんなあたしでも世界の役に立てて、そしてパパやママの迷惑にならずに済むのなら、って、思ったの。2人と比べたら不純な動機でしょ?」
一緒だ。そう言いかけて、ゼツは口をつぐんだ。こんなにも優しいミランが、自分と同じはずがない。けれども、あまりにもミランが無理して笑うから、大丈夫だと伝えたくなった。
「俺なんて、もっと不純だよ? 商人の仕事が面倒になって、逃げたかったんだよね」
ゼツがそう言えば、ミランは意外そうな顔をしてゼツを見た。
「そんな理由で決めたの? ちょっと意外ね」
「そう? まっ、こんな人間もいるわけだし、世界の役に立とうって思って自ら一歩踏み出せるなんて、ミランは凄いよ」
「そう、かしら」
まだ少し不安そうなミランに、ゼツは笑いかける。
「そうだよ。俺なんてシュウ達から話を聞くまで他人事だったし。ミランはほんと凄い」
「そんなこと言ったらゼツの方が……。ううん。でもありがと。自身持てたわ」
そう言ったミランの顔には笑顔が戻っていて、ゼツはホッとした。
同時に改めて凄いと思う。今の体質になってやっと役に立てた出来損ないの自分とは違って、魔力の暴走というハンデを持っても、自分のやれることを見つけて前に進んでいるのだ。自分にはできないことだった。
それだけじゃない。こんな自分にも気にかけてくれる優しい人。そんなミランが幸せになれる未来がくればいいのにと、ゼツは願った。




