2.無敵とヌシ
きっと先程みたいに少女を守り切ることはできない。せめてなんとかヌシの注意を自分だけに向けることはできないか。そうゼツが思考を巡らせていた時だった。少女がゼツの服の袖を掴む。
「……一度だけ、爆発魔法を使えるぐらいの魔力は回復したわ。あたしが目くらませをするから、その間にあなただけでも逃げて」
一度捨てようとした命だった。そんなゼツに、少女を見捨てて逃げてまで生きたいという思いは生まれなかった。
けれども、今にも襲い掛かろうとするヌシに、相談する時間が無い事はわかっていた。
「とりあえず、その魔法、お願い!」
「わかったわ! ブラスト!」
その瞬間、大きな爆発が起こり、砂煙が舞い上がる。その隙を見て、ゼツは少女の体を持ち上げ走り出した。
不思議な感覚だった。成長した女性の体を抱えているというのに、疲れ一つ感じない。これも体質の一つかと理解した瞬間、ゼツに少しの希望が見えた。
「ちょっと、あたしのことは……!」
「いいから! 素直に守られて!」
ゼツはそう言いながら、目星をつけていた大きな茂みに飛び込む。けれどもそれは鼻が利くウルフルに対して一時しのぎでしかないことを、ゼツは理解していた。だから、その後すぐに飛び出して注意を引けばいい。そんなことを思っていた。
「君はここ、に……」
と、ゼツはとある場所に視線が奪われる。
地面に軽く投げ出す形となってしまった少女のスカートはめくれ、見えてはいけないものが見えてしまっていた。しかもそれが、スタイルの良い少女の体には似つかわしくないものだったからこそ、考えるより先に口を開いてしまった。
「うさぎの……、白パン……」
そう言った瞬間、しまったとゼツは口を抑える。けれども少女の顔はゆでタコのように真っ赤に染まり、手遅れであることを証明していた。
「見ないで‼ 変態‼」
突然の出来事だった。少女がそう言った瞬間、強く凄まじい風にゼツは吹き飛ばされた。勿論、痛みはない。けれども少女の状況が気になって、ゼツは慌てて起き上がる。
「えっ……」
ゼツの目に入ったのは、木が折れ、吹き飛ばされ、更地となった、少し前まで森であったはずの場所だった。その中心に、少女は倒れていた。
「ちょっと、大丈夫……⁉」
そう言って慌てて駆けよれば、少女は気を失っていながらも息はしていた。そんな少女の様子に安堵しながら、ゼツは改めて周囲を見渡す。そして、少し離れた場所に倒れ動かなくなったヌシの姿も目に入った。
「とりあえず、助かった……?」
それならば、少女をより安全な場所へ。そうゼツが思った時だった。
「こっちだ! こっちから音がしたぞ!」
と、男性の声が、ゼツの耳に届く。
「ミランさんでしょうか⁉ とりあえず、行ってみましょう!」
次に聞こえた女性の声に、きっと彼らはこの少女を探しに来た仲間なのだろうとゼツは察する。それなら、もうここから離れていいだろう。本当は少女の仲間に状況を説明するべきなのだろうが、これ以上人と関わりたいとも思えなかった。
ゼツは逃げるように、この場から離れた。
けれども、ゼツに行く宛があるわけでもなかった。死のうとしたら、まだ時ではないと声がして、死ねない体になってしまった。じゃあ、いつになったら死ねるのだろうか。本当は、今すぐ死にたかった。
ゼツが死にたいと思うようになったのは、いつの頃だったのか、ゼツ自身も覚えてはいない。ただ、死にたいと思う度に、思い出す記憶があった。
それはまだ10歳の頃のこと。親から頼まれた買い物を終え、家に戻るまでの帰り道に、痩せ細って今にも死にそうな犬を見つけた。
その犬は黒く醜く、お世辞にも可愛いとはいえなかった。けれどもゼツはその犬を、自分が汚れることも気にせず抱きかかえた。
けれども幼いゼツが次にとれる選択肢は、家に連れて帰ることのみ。ただその時のゼツは、大人なら助けてくれるのだと信じて疑わなかった。
「なんてものを拾って来たんだ!」
第一声、聞こえてきたのは父親の怒鳴り声だった。




