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19.避難と対峙

 準備が整えばすぐに避難は開始された。老若男女、体調が戻っていない人から高齢者、子どもを含む何百人を10人もいない者たちだけで護衛しながら移動する。

 作戦として、4人は二組にわかれることとなった。ゼツとミランは列の前を歩き、死の花が無いか確認しながら歩く。あればミランが散らし、住民たちに影響が出ないようにする。列の後ろはシュウとケアラが担当し、足の遅い人をフォローしつつ怪我をした人たちを直していく。もちろん散らばるように、国から派遣された治癒師がフォローをする。

 けれども実際は何百人もの人を守り切れるはずもなく、無理のある計画ではあった。しかし同時に、誰もがその避難を楽観的に考えていた。ゼツ達が来て、死の花が無くなってから、再度死の花が溢れることも、魔物や魔族が大量に現れることも何もなかった。だからきっと、何も無いだろうと誰もが思っていた。


「この避難が終わったら、とうとう神珠を取りに行くのね。緊張するわ」

「三傑の一人もいるんだっけ?」

「恐らくね。どういう形で出てくるかわからないわ。勿論、伝説には残っているけれども、神珠がどのように保管されているかわからない。取れたらいいけど、まずは情報だけでも持って生きて帰ってこれたらいいわね」


 そんなこれからの話を、ゼツとミランも話していた。

 あの声が聞こえるまでは。


「あははっ! やっとここからいなくなってくれたあ! もう戻ってきちゃだめだからねえ」


 ゼツとミランはその声の方がした空を見上げ、そして目を見開いた。そこには、空に浮かぶピンクの髪をした幼い少女がいた。


「三傑……」


 ミランがぽつりと呟く。ゼツも、三傑の情報はシュウ達から聞いて知っていた。自由に空を飛んで移動でき、普通の人には使えない闇魔法が使える。


「そーでーす! アビュだよお! あっ、もしかして、おまえがロウ様を奪いに来た、いやなやつー? じゃあ、殺さなきゃ」

「……っ。みんな、逃げて!」


 ミラン言葉に、住民たちは一斉に逃げ出す。けれども後ろの方にいた人たちは、何が起こったのかわかっていない。前に進もうとする者と後ろに進む者で、パニックが起こる。


「だからー、そっちに行っちゃ駄目って! エリア ドルミール」


 魔法の呪文であろうそれを聞いたとき、ゼツは思わずミランの方へ駆け出していた。何の呪文か、ゼツは知らなかった。だからこそ、ゼツはミランを守りたかった。


「あははっ! むだむだあ! アビュはあ、面倒くさい戦闘は嫌いなのー」


 その言葉と共に、白い靄が全体にかかる。なんとかミランの体をかばったはいいものの、何の衝撃もないままミランは目を閉じ、そしてだらんと腕を垂らした。その様子に、ゼツは声を出せないまま心臓だけが煩く鳴り響いた。


「あははっ! アビュちゃんかしこいからー、眠らせるやつだけは植えなかったんだよねー。そしたら嫌な奴たちも、眠りの対策はしないでしょー? って、聞こえてないかあ!」


 その言葉に、ミランは眠っただけかとゼツはホッとする。けれども、眠ってしまったという事は、無防備で危険な事には違いなかった。


「あとはあ、ここを真っ赤なお花畑にしてえ」


 白い靄が晴れる前に、ゼツは一枚の紙を懐から取り出し、状況を簡単に書く。幸い、向こうもこちらに気付いていない。ゼツはミランの手にその紙を握らせ、立ち上がった。


「させない!」


 敢えてゼツが出した大きな声に、アビュと自分を呼んでいたピンク髪の少女も、ようやくゼツに気付いた。


「はああっ!? なんで眠ってないの!?」

「俺は勇者だから! だから全部の加護をかけてもらってるってわけ」


 そう言って、ゼツは住民たちのいる方とは反対の方へ走り出した。ある意味賭けだった。けれども戦闘などできないゼツには、そのやり方しかなかった。


「殺す! 殺してやる!」


 アビュの体がゼツの方へ向き、そして追ってくる。やっぱり、と、ゼツは思った。なんとなく、彼女は短気な性格で、煽ればこっちを殺しにかかってくるとゼツは思っていた。

 自分が勇者であることも、加護をかけてもらっていることも、全部嘘。けれども、完全無敵でない加護のおかげとした方が、そして勇者として狙われる方が、今は都合が良いとゼツは判断した。


「あははっ、とうせんぼう! いくら勇者でも、アビュのスピードには敵わないでしょー?」


 空から、アビュがゼツの前に降りてきて、行き先を防ぐ。けれども、それも想定内だった。

 アビュは今まで、攻撃魔法は一切出してこない。だから恐らく使えないのだろう。となれば、攻撃手段は死の花だ。そう思ってゼツは森の中に入る。


「あははっ! アビュと戦うより、仲間から引き離そうとしてるの? でも、アビュはおまえを殺せればいいからあ」


 森の奥へと走れば、目に入ってきたのは赤い花。こんな森の奥まで、ゼツとミランは来る時に花を散らしていなかった。


「アビュ、知ってるんだあ。加護って、完全に防ぐわけじゃないんでしょお?」


 その事実を知ってくれていたことに、ゼツは心の中でニヤリと笑う。けれども表に出してはいけない。まるで疲れたように、少しずつ足を遅くしていく。

 そして、1つの場所を見つけた時、ゼツはそこにうずくまった。そして激しく息をする。まるで死の花にやられたように。


「あははっ! もっともっと苦しませてあげる! エナジードレイン!」


 赤い沢山の花が、ゼツを中心に咲き乱れる。アビュがどこかに降り立つ音がした。


「せっかくならあ! 勇者の苦しむ顔、アビュが見てあげる!」


 そう言って、アビュが近づいてきた瞬間だった。ゼツはアビュの腕をひっぱり、押さえつけた。


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