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18.次と目標

 4人がイエルバに着いてから丁度一週間。自分で歩いて自由に過ごせる人もかなり増えていた。勿論まだ思うように体を動かせない人もいたが、街の人同士でお互い助け合えるようにもなっていた。


「もう余裕あるんだから、ゼツもちょっとは休みなさいよ!」

「えー、大丈夫だって! 俺、無敵だし」

「そうだけど! そうなんだけど! それでも心配なの!」


 そんな会話を、ゼツとミランは毎日のようにしていた。もう見慣れたはずなのに、ミランは毎朝ゼツの顔を覗きに来る。けれどもゼツ自身、毎朝のそれが楽しみで敢えて休みたくないと思ってしまっていた。

 イエルバの街の人達も、最初はゼツの体質に驚き心配してくれる人もいたが、ここ最近はゼツの不純な動機がバレたのか『ミランちゃん来たよー』と教えてくれることもあった。それを少し恥ずかしく思いながらも、ゼツはやめられなかった。


 けれども、そんな日々ももうすぐ終わる。ようやく国と連絡が繋がり、イエルバの対応をしてもらえる事になった。ただしイエルバに来るのは加護の魔法を使える治癒師が数人だけ。彼らに連れられ森の外に避難してもらい、騎士達がそれを保護するという流れらしい。


「あいつらは危険な場所に行きたくないだけだ。それに、故郷を捨てる辛さを何もわかっていない」


 シュウは悔しそうに拳を握りしめていた。それでもシュウが合意したのは、街の人たちが危険に晒される可能性もあるからだ。

 今回の死の花の件が魔王や三傑が関係していると仮定すると、再び死の花が街の人たちを襲う可能性もあった。今後神珠の欠片を取りに行く必要があることも考えると、一時避難は必要な事だった。


 そうして数日後、街の人達のイエルバからの避難の日を迎えた。ゼツ達も一緒に街の人達を外へ送り届けた後、イエルバに再び戻る。一番近い森の入口からは、2時間程歩けばよかった。

 と、イエルバから出るそのタイミングで、一人の声が響いた。


「いーやーでーすー! 絶対に加護は解きません!」

「少しでも使える魔力が多い方がいいだろう! それに私だけ特別扱いしてもらうわけにもいかない!」

「一度かけたら使う魔力はほんのちょっとなんです! だから大丈夫です!」

「その僅かな差が命取りになったらどうするんだ!」


 言い合いしているのは、ケアラとケアラの父親だ。ケアラの父親は、元気になってからずっと、ケアラとその件で言い合いをしていた。


「せめて森から出るまではいいじゃないですか!」

「せめてせめてって、ここ数日で何度も聞いたぞ! ……わかった。森を出ても解かなかったら、私はイエルバに戻ろう」

「なっ、なんでなんですか! 危険なんですよ!?」

「約束を守ればいい話だろう!」


 そんなやり取りを、ゼツは少しだけ羨ましいと思って見ていた。

 お互い、自分が危険になるかもしれないのに、相手の事を優先していた。そんな経験なんて、ゼツの記憶には無かった。聞こえの良い言葉は沢山言われたけれども、本当に助けて欲しい時にですら助けてはくれなかった。


 ふと、ゼツは、数日前のケアラとケアラの父親の会話を思い出す。その会話も、愛に溢れていた。


『ケアラ、どうしてここにいる』

『魔王を倒すためです』


 父親の質問に、ケアラは隠すことなく答えた。そしてここに神珠があることも、死の花が三傑に関係する可能性があることも。

 けれどもケアラの父親は、怒りを滲ませた目でケアラを見た。


『そんな危険な事のために、ケアラを王都に行かせたわけではない! ずっとお母さんの看病で学ぶ時間なんてなかったケアラに、好きな事を学んで自分の人生を生きてもらうためだ!』

『でも、これは私がやりたいと思った事なのです! 私が決めた道なのです!』


 そう言ってしばらく二人は言い合いをしていた。暫くして、ケアラの父親が折れたのか、大きくため息をついた。


『わかった。ただ一つだけ教えて欲しい。ケアラ。魔王を倒したら、ケアラはどうしたい』

『それは……』


 父親の質問に、ケアラはすぐに答えられなかった。恐らくずっと、母親のような人が増えないために、そして敵討ちの思いもあって生きてきたのだろう。

 けれども、魔王を倒せば全てが終わる。終わらせるのが、ケアラの目標のはずだった。


『考えた事なんて、無かったです……』

『それならば、考えなさい。やりたいことがあれば、生きられる。私も、ケアラにもう一度会いたくて、必死に意識を保っていた。きっとお母さんも……』


 ケアラの父親がそう言えば、ケアラの目には涙が滲んでいた。


『またここで、お父さんと一緒に薬草を育てて、色んな調合を研究したい。それでは、ダメですか……?』


 そうケアラが言えば、ケアラの父親もまた涙を滲ませた。


『……今はそれでもいい。私と、じゃなくてもいいんだぞ?』

『それだと、別のやりたいことになっちゃいそうです』

『なるほど。それも、いつか聞かせておくれ』

『そうですね。今は、秘密です』


 そんなやり取りを、微笑ましく眺めるのがきっと“普通”なのだろう。ミランもシュウも、微笑ましいと呟いていた。

 人の家族と自分の家族を勝手に比べて勝手に落ち込んでいる自分に、ゼツは呆れていた。だからゼツは、必死に隠した。ちゃんと二人の真似をして、上手く隠せているだろうか。

 だから自分は欠陥品。ずっと心の中で、羨ましいという感情が消えない。元々いらない子だから、そんな愛情なんて手になんて入らない。そうゼツは自分に言い聞かせていた。

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