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17.他人事と復讐

 それから数時間。無事倒れていた人達全員を集会所へと運ぶことができた。

 残念なことに、体の弱い高齢者を中心に既に亡くなっている人もいた。けれども、大半は意識も戻り、水やスープを口にしていた。ただし、体の衰弱は、怪我などと違い回復魔法で治すことはできない。恐らく元通りになるには時間がかかるだろう。

 勿論ここでずっと対応しているわけにもいかなかった。話せるようになった人に話を聞けば、死の花の出現は急だったらしい。イエルバには加護魔法を使える者もいたが、加護も間に合わず、気づいたころには瘴気にのみ込まれていたらしい。


「国に助けを呼べないの?」


 日は暮れ、少し落ち着いたころ、ゼツはこっそりシュウに尋ねた。けれどもシュウは、首を横に振った。


「実は魔道具を使って救援要請は出している。でも返事はない」

「そんな……、なんで!?」


 そうゼツが言うと、シュウは悔しそうに拳を握りしめた。その拳を緩めたと思えば、ふっと呆れたように笑った。


「どうせ議会か何かで検討会でも開いているのだろう。国とはそういうものだ。そして結論を出す頃には、もう間に合わない」

「そんな……」

「どうせ他人事なんだ。王都は。それほどまでにあそこは、魔族や魔物と離れて平和だ。こうして魔族や魔物の問題に自ら向き合おうとするのは、そいつらを恨み復讐に人生をかけている者か、正義感に溢れた物好きだけだ」


 その言葉に、ゼツはハッとする。ケアラは、魔族が影響するとされる死の花によって母親を亡くしたと言っていた。シュウもまた、両親を亡くしたと言っていた。


「もしかして、シュウの両親って……」

「そうだ。魔物の群れに殺された。いや、両親だけじゃない。村の人のほとんどが殺された。そこもまた、神珠の隠し場所だったらしい」


 そう言いながら、シュウは唇を噛む。


「村長は、国に助けを求めていたんだ。けれども来なかった。俺が助かったのは、村の外、神珠がある場所と丁度反対側に逃げて、運よく保護されたからだ」


 シュウの言葉に、ゼツはなんて声をかけて良いのかわからなかった。ゼツの街も、比較的平和な場所だった。だからこそ、魔王や魔物の危険性は遠い場所の話だった。寧ろ魔物といえば素材の一つで商品としてしか見ていなかった。


「ごめん」


 思わずゼツの口からは、そんな言葉が出ていた。


「俺も、ずっと他人事のように思ってた」

「でも、知って、しかも今助けてくれている。それで十分だ。国のやつらは、知ってても何もしてくれない」


 シュウは困ったように笑った。


「本当は、もっと知ってもらおうとするべきだったのだろうな。そしたら、ゼツみたいな人ももっといたのかもしれない。ケアラと出会うまでは、ずっと誰も理解してくれないと思ってた。ケアラと出会ってからは、同じ境遇のやつだけにしかわからないと思ってた。けど違う。ゼツみたいな……、ううん、ミランもだろうな。知って、助けてくれる人がいる」


 ミランは復讐のために旅を始めたわけではないのだろうか。そこだけ、ゼツは少し気になった。けれども、今聞くべき事ではないだろう。


「いやあ、聞いてくれてありがとなあ! ほんとゼツってば聞き上手だなあ! つい愚痴ってしまった!」


 と、シュウは突然、人が変わったようにゼツに絡み始めた。肩に手をかけ、激しく揺する。


「ケアラもミランも、最初は真面目に聞いてくれたんだ! でも、最近じゃ……。はっ、もしかしてゼツもウザいと思っているのか!? それなら言ってくれ! でも、俺はただ、皆に状況を知ってほしくて……」


 煩くなったと思ったら、急にシュウは遠くを見つめるような顔をした。なるほど、これがケアラの言った『すぐセンチメンタルになる』ということで、ミランの言う『本当に落ち込んだ時は絶対に分かる』ということなのだろう。


「ウザくないよ。寧ろ知れて良かった」

「本当か!? そう言ってくれるのはゼツだけだ!!」


 ただ聞くだけでシュウの心が少しでも楽になってくれるなら、ゼツはそれで良かった。それほどまでに、ゼツは平和な中で生きていた。自分が悩んでいる事自体、申し訳なるぐらいに。

 けれども、ずっとこうして話しているわけにはいかないだろう。ゼツは話を逸らすために、口を開く。


「ちなみに、ケアラを好きになった理由って……」

「ちょ、待て!! あまり大声で言うな! ……その、全てが終わるまで気持ちは伝えないと決めているから」

「でも、それなら今のうちに、ポイントを稼いでおくのはありでは? ……今なら、勇者でいなくてもいいんじゃない?」


 シュウは、ハッとゼツを見る。けれどもすぐに眉間にしわを寄せた。


「でも、そんな下心のあるような優しさなんてだな……」

「でも、ケアラが心配なのは本心」

「そうだけど! そうだけれども!」


 変な所で真面目になるシュウに、ゼツは笑う。


「まっ、勇者としても、仲間の体調を気遣い、話を聞くのは重要な仕事だと思うよ。ずっと休まずに動いてるケアラ、シュウも心配でしょ?」

「そうか……! そうだ、これは勇者としての役割……」


 そうぶつぶつ言いながら、シュウはケアラの方にまっすぐ向かっていった。けれどもすぐに、ケアラの声が響く。


「いやです! 休みません! 私はまだ大丈夫です!」

「いやしかし……」


 助け舟を出そうかと、ゼツが二人の方に歩いていこうとした瞬間だった。


「ケアラ、休みなさい」


 少しかすれた、男の人の声がした。


「お父さん……! だって、お父さんが……」

「そんな疲れた顔で看病されても、私も心配でゆっくり眠れやしない。一人で休ませておくれ」

「はい……、です……」


 恐らくケアラの父親はそう言って、ケアラを無理やり休ませようとしたのだろう。ケアラもそれを察しているのかいないのか、大人しくうなずいた。

 そうして、ケアラはシュウに連れられ、奥へと消えていく。ずっと死の花に近づいて散らしていたミランも、先に休んでいた。けれどもそれは、ゼツが休まなくていいから。


「み、水を……」


 その声の方に、ゼツは一人走って行った。

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