13.出来ることと2人
駆けだしたケアラの腕を、シュウは掴んで止める。
「ケアラ、落ち着け!」
「離してください! お父さんが……! 街の人が……!」
「このまま行けばケアラも倒れてしまう! だから、まずは加護をかけてくれ!」
「そんな暇は……! そう、ですね……。その通りです」
シュウの言葉に、ケアラは小さく深呼吸して、加護をかけ始めた。
「はじめますね。ミアズマ……、プロテクト……」
ケアラがそう言えば、光がゼツ以外の3人を包んだ。けれども、先ほど毒や麻痺の加護をかけた時よりも光は弱く、すぐに消えてしまった。
「駄目、です……。かけられるぐらいの魔力は残っている……、ですのに……」
ケアラはそう言いながら、その場にしゃがみ込んだ。
「なんで……。集中力が、続かない……。お父さん、助けなきゃ……、ですのに……」
そう言って、ケアラはポロポロと涙を流した。その涙は、地面を濡らして消える。
けれども、シュウもミランも立っているのもやっとのようだった。ゼツだけが動くことができた。ならば自分がなんとかしなければいけない。そう思って、ゼツは口を開く。
「瘴気は、花を散らせば消えるの?」
「はい……。花が増えてきた時は、爆薬で消していましたので、衝撃を与えれば……」
確かに、触れるだけで簡単に消えた。けれども、一つ一つ蹴散らしていくなんて、気の遠くなる作業だ。ゼツはそう思った時だった。
「あたしがやるわ」
ミランが顔を青くしたまま、そう言った。
「いけますか?」
「遠くまで行く気力は、あたしにもないわ。でも……」
ミランは、少しだけ恥ずかしそうに、ゼツの服の裾を掴んだ。
「ゼツがいれば……」
その言葉に、ゼツはミランの言葉の意図を理解した。
「わかった。任せて」
ゼツはそう言って、両腕でミランを持ち上げた。その瞬間、ミランは慌ててバランスを取るためにゼツの首に腕を巻き付ける。
「ま、待って! このやり方、ゼツはしんどいんじゃ……」
「軽いよ。それに、俺の体質、知ってるでしょ?」
そう言いながらミランが周りを見やすいように体制を整えれば、ミランもゼツに体を預けてくれた。細くて柔らかい肌の感触に、少しだけ胸が高鳴ってしまう。
ミランはゼツに体重をあけながら、赤い花に向かって手を伸ばした。
「ブラスト!」
ミランが爆発の魔法を放てば、赤い花だけが灰のように散った。胸の高鳴りが聞こえていないことを祈りながら、ゼツも花の咲く方にミランを運ぶ。
そうして、見渡す限りでは赤がほぼ無くなった頃、後ろからケアラが叫んだ。
「お二人とも、ありがとうございます! もう大丈夫てす! ミアズマ プロテクト!」
先程とは違うしっかりとしたケアラの声に、今度は強くミランやシュウの体が光る。
「無事、加護が付きました!」
その声に、ゼツとミランはお互いを見て笑った。
「ありがとう。ゼツのおかげで安心して魔法を使えたわ」
「どういたしまして。少しでも役に立てる場面があって良かったよ」
ゼツがそう言えば、どうしてかミランは恥ずかしそうに目を逸らした。
「もっ、もう大丈夫だから下ろしなさいよ!」
「えーっ、なんで?」
「なんでって、もう必要ないでしょうが!」
ミランの言葉はその通りで、けれどもどうしてか離したくないと思ってしまった。
「ここは危険な植物があるから、あっち行くまで大人しくしてて」
適当に言い訳を連ね、ミランを抱きかかえたまま安全な場所まで戻る。
自分がいて良かった。皆の役に立てた。その事実が、ミランの言葉と共に温かい感情となってゼツの中に流れ込む。けれども、いつまでもこの余韻に浸っているわけにもいかなかった。
「お二人とも、行くですよ!」
ケアラの声に、ゼツはケアラの背を追った。




