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私にはなにもできない

 兄の姿は薄暗い部屋の中に沈み込んでいた。

 微動だにしない視線は、どこにも焦点を合わせていない。


 机には散らばる参考書と、幾度も握りしめられた答案用紙。その隣に小さな通知書が、寂しげに置かれていた。「不合格」と、その二文字が無情に彼を突き刺していた。今でも封筒を開けた兄の指の震えを覚えている。

 以来、兄の表情は石の彫像のように硬く、どこか冷たさすら感じさせるものになった。



「どうして、兄さん...」


 問いかける言葉は喉の奥で絡まり、声にならなかった。兄が感じている絶望の深さを、私では埋められない。ただただ、それを癒す術も力も持っていない自分が情けなくて悔しい。


 私の存在が兄にとってなんの慰めにもならないのだと思うと、涙が止まらなかった。




















 薄く開いたドアの隙間から漏れる光の中。

 兄はカッターナイフを持っていた。


 ドアの前で震える拳を握りしめ、私は口の中でできる唾を次から次へ飲み込む。


「兄さん、ファイト」


 兄に向かって小さな声援を送る。やっと決意してくれたのだから、是非とも兄にはここで死んで貰いたい。


 

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― 新着の感想 ―
……イヤンなリアリティ  (´;ω;`)  前段と後段の間(ま)が読ませられますネ 
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