男装の皇女は三日月刀(シャムシール)を抱いて踊る
序章
砂漠の王宮に二つの産声が上がった。
一つは力強く、一つは弱々しく。
「陛下、お生まれになりました。皇子と皇女です。
おめでとうございます。
加えて、額に花形の痣を持ってお生まれです。
重ねてお祝い申し上げます。」
侍従の報告に砂漠の皇は相好を崩した。
「なんと!額に花形の痣とは。すぐに皇妃を労わねば。
会えるか?」
いそいそと皇妃のもとへと向かった皇だったが
皇妃の部屋は蜂の巣をつついたかのような騒ぎ。
しかもそれはお祝いの雰囲気はおろか、
緊迫で空気がビリビリと帯電しているかのようだった。
「あ、陛下…。」
気がついた者が皇に対して礼を取ると
さざ波のようにそれが広がり、皇妃のベッドへとざっと道が空けられた。
皇に気が付くと、皇妃は出産で疲れ果てた身体を起こし
「陛下、も、申し訳ございません。」
そう言うと、泣き伏してしまった。
「何故泣く?いかが致したのだ?皇子と皇女は?」
「それが…」
言いづらそうに医師が口を開く
「お生まれになってすぐ、皇子殿下は息を引き取られ…。」
喜びの絶頂から一転、地獄へと突き落とされ、
皇は世界がグラリと揺れて歪んだように思えた。
「バカな。そんなバカなことが。」
取り乱さないように持ちこたえるのが精一杯で
それ以上のことが口から出てこない。
もう一人の赤ん坊が泣き声を上げて、
皇は、はっと我に返る。
「ご苦労であった。妃の世話をする者を除いて下がって良い。」
すっと人気が引くと皇は泣いている皇妃の肩を抱いた
「もう、泣くな。妃のせいではない。」
そう言っても、皇妃は涙を止められない。
「折角、宝剣に選ばれた者が生まれたと言うのに
神も残酷なことをする。
それとも、神に愛されすぎて神の元に帰ったのだろうか。」
皇のその言葉を聞いて、皇妃は首を振った。
「いいえ、いいえ。宝剣“ラハブ”に選ばれた者は生きております。
額に花形の痣を持って生まれたのは、姫なのです。」
皇は衝撃のあまり、一瞬言葉を失った。
「そんなことがあろう筈がない。
ラハブに選ばれた者が国を繁栄に導くのだぞ。
皇女にそれが出来るわけがない。
それどころか、皇子が亡くなったとなれば
他国の侵略さえ警戒せねばならん。」
「でも、事実なのです。」
皇はイライラと立ち上がり、そして、何かを思いついたのか
侍従を呼び、こう告げた。
「皇子と皇女の双子は無事に生まれた。
そして、皇子の額には国を繁栄に導く“剣の主”の印があると発表し
予定通り、祝賀祭を執り行え。」