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始発まだ?

作者: 天一下品
掲載日:2022/10/02

この街は喧嘩だらけだ。

表向きは風俗店やホストが建ち並ぶ繁華街で、夜でもビカビカと明るい。

だが1本路地を入れば、そこは怪しい店の事務所だったり怪しい組織のアジトだったりする。

ここらに住む俺も例に漏れず、怪しい組織の一員だ。


「おいマグナム、どっかでスマホ鳴ってねえか?」


マグナムというのは俺のことだ。なんでかってそりゃ、デカいブツを持ってるからだ!もう中学生のガキだった頃からそう呼ばれてる。組織の連中も最初こそこのコードネームに抵抗をみせたけど、俺がブツを出してやって黙らせた。

あの時の、親玉の笑い声と、周りのやつらのコレに驚いてキョトンとした顔は忘れられねぇぜ。タマオは「ただ皆おまえは話が通じないって気付いて呆れてただけだ」って言うが、タマがデカいだけのタマオの負け惜しみだ。


「お?……鳴ってるな」


「俺のもお前のもテーブルの上だから、誰かの忘れもんだろうけど……ほらお前も探せよ」


「おうよ」


唯一俺と同い年のこの男は、通称シリ。あ、シリウス。夜空が好きとかいうこの業界らしからぬロマンチストな一面を持っていて、いちばん明るいからシリウスって言ってたが、ちぢめてシリと呼んでる。ちゃんとシリウスと呼んでるのは下っ端とごく一部で、酷いやつはケツって呼んでるが、それは親玉だけの特権だ。


「……お、あったぜ!シリ!ソファのクッションに挟まってた」



ああ、スマホのSiriが起動してしまった。

これにはシリ本人も吹き出した。


「わりーわりー、Siri、お前じゃないんだ。えーと、バック!カムバックSiri!」


『すみません、よく分かりません』


「てめえ操作わかんねえならよこせ!このアップルアンチ!」


「いいだろ別に!」


シリにスマホを奪い取られた。


「……てかこれ、親玉のやつだ」


「またかよ!新型のやつ買ったばっかじゃねぇか」


親玉はよくスマホを忘れる。いちばん連絡取れないといけない人なのに。ただ、そういう時は親玉の側近クリスか、妻のネオンに連絡すれば一緒にいるから大丈夫。だから実際、連絡がとれないのは親玉がうんこ中のときくらいだ。


「誰からだ?」


「シャムだ……珍しいな」


「ジャム?誰だっけ、それ」


「シャムだよシャム!ほら、ライアの女」


「ああ!あいつか!俺が出る!!」


「おい、ちょっ!」


『親玉!ねぇどうしよう!』


「おちつけおちつけ、親玉はスマホ忘れて外出中だ!俺に言える用事なら俺、マグナムが聞くぜ?」


『マグナム……ああ、マグナム!親玉に伝言できる?』


シャムは組織の人間ではあるが、いつでもライアと一緒だから親玉が出ない→クリスかネオンに電話という一連の流れを知らないのだろう。俺が対応してやることにした。


「ああ、どうしたんだ?」


『部屋でライアが殺されてるの!どうしよう!たすけて!』


「え……わかった、親玉に連絡してそっち向かう!」





すぐ戻ってくれた親玉とクリスと俺で部屋に向かうと、たしかにライアは刺されていた。ちなみにシリは留守番だ。親玉は極秘でライアに頼んでいた仕事があったそうで、犯人はその関係の奴だろうと言っていた。シャムは既に落ち着きを取り戻していたが、ひどく落胆している様子だ。そんなシャムに親玉が「この仇は組全員で討つからな」と声をかけると再び泣き出した。


「クリス、火葬の手配できるか?」


「できないこともないと思うが、最悪処理部隊にやってもらうことになるな」


「とりあえず火葬屋に連絡してくれ。一旦戻ろう。マグナム、シャムを家まで送ってやれ」


「は、はい!」





シャムは、俺の愛車の助手席に乗る頃には、また落ち着きを取り戻していた。タフな女だ。しかも顔も綺麗だし、グラマラスなボディをしている。ふへへ……


「マグナム、あたしんち分かるの?」


「あ、え!?ああ、わかんねぇよ」


「じゃあどこ向かってんのよ」


「俺んちだけど」


「なんでよ!今のとこ右だったんだけど!」


「今ひとりになったらあぶねえだろ!身寄りもなさそうだし!俺の優しさなの!」


「……!そうよ、帰ったら後を追う気だったわ……」


あ、そうなの!?

適当に言ったらなんかいい感じにヒットした!

こりゃいけんじゃねーか!


「ほらな!だから今日は俺んちで食って寝て、それから考えようぜ!な!」


「……たしかに、そうね」


これきたな。いけちゃうな。ちょうど昨日鑑賞したA○も未亡人モノだったし。俺のマグナムが黙っちゃいねぇぜ!





「ほらほらビールにチューハイに、なんでもあるぜ!」


「なんでもいいわ。」


「じゃあ賞味期限近いやつから頼むよ、このへんとかほら」


「なによそれ」


「お、笑えんじゃん。よかったよ」


「……そうね」




しばらくテレビみながら2人で飲んで、これからどうすんのかとか、シャムはなんか言ってたけど俺にはちょっと難しくてよくわかんなかった。「ほーん」とか「へー」とか「なるほどな」とか「それもありだな」とか適当に相槌うって、腹ん中じゃテレビのことと情事のことしか考えてなかった。




わりといい雰囲気だ。シャムもよく笑うようになってきたし、下ネタとばしても笑ってくれる。対応もかなり好意的。そろそろいきますか!


「てかさ!新しい男作る気は?ないの?」


「そりゃ生きていくならね……だけど、ここではもうあたしはライアの女だから……もう足も洗わないといけないかしらね」


「じゃあ新しい男作るステップとしてさ、まず俺とどう?守秘義務は守れる男だぜ!」


「……おもしろいわね」


キタコレ。10分後にはやってんな、これ。


「俺マグナムってコードネームなんだけどさ、あまりにでけーから中学からずっとそう呼ばれてんの!ほらみてよ」


バーーン!

我ながらすごい。


「こっからまだでっかくなるよ、みてみたくない?でっかくしてみない?」


俺はこの口説き文句と共に生きてきたと言っても過言ではない。大抵の女はここから、「え、すごぉい!ほんとに〜?」

とか言っておっぱじまる。


でもシャムはスマホを取りだした。


「いやちょ、なにしてんの?撮影はお断りだよ?その気持ちはわかるけどさ、普通撮らないって」


「違うわ、電車の時間調べてんの」


「え?なんで?」


「んー、あと1時間半ね。ここは駅からどれくらい?」


「10分だけど……」


「そう。」


「わ、わかった、1時間でフィニッシュするから」


「しないわよ?」


「え、ええ……じゃあ電車じゃなくても、家まで送るよ」


「嫌よ、あんたに家バレしたくないわ。押しかける気でしょ」


「んなことしないって」



ドンドンドンドンドン!!


「え!?!?なに!?はい今開けます!」


「は!?ちょっと、開けんの!?」


「こっちから開けなくても開いちゃう勢いだろ!」


なんかたぶん反射で、玄関まで飛んでいってドアを開けた。

そこにはなんと、ヤクザ。


「えっ!?」


「おい、シャムって女がいんだろ!入るぞ!」


「え、あ、はい!」


「なにいれてんのよ!!」


「テメェ!裏切ったな!」


なんかよくわかんないけど、とりあえず親玉に連絡を……!

そう思って電話をかけるも、コール音が鳴り響くだけ。あ、そうだ、親玉ってば、また忘れたのか!


クリスにかけ直すと、今はネオンといると言う。


もおおおお!!

ネオンにかけ直す。

そうこうしてる間にもシャムとヤクザは激しく言い争っている。


「だってライアを消すなんてもっと先の計画だったじゃない!」


「だからってお前んとこの親玉に連絡すんのはちげぇだろ!」


『はいもしもし?』


「マグナムです!親玉に俺んちでトラブル発生って伝えてください!!」


『あー、今うんこしてんのよ』


「うんこやめさせてくださいー!」





親玉とクリスは30分もしないうちに、すぐに来てくれた。だけどその後すぐに相手ヤクザの仲間も来ちゃってもうめちゃくちゃ。せめて外でやってくれないかな。

聞く限り、シャムはうちを裏切ってあっちと契約してたけど、あっちが勝手にライアを殺しちゃって、それをシャムはまた別のトラブルだと思って親玉に連絡したらしい。んで親玉が疑った方のヤクザがすぐそこまで来てる、ってよ。

俺、ほんとは喧嘩弱いから、見てる感じだとたぶんシャムより弱いから、巻き込まれたら即死だなー、これ。


こっそり外出て逃げよう。車のキーは渦中のリビング。

始発までは、あと40分。

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