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鶯の巣  作者: 藤間 保典
19/19

19.悠一

 見慣れた駅のハズだけれど、今日は人が多いような気がする。やっぱり夏休みだからだろうか。地元に帰って来ている人が多いのかもしれない。オレもまたそんなひとりなのだけれど。

 さて、どちらから先に行こうか。

 オレが考えるのを邪魔するように、スマートフォンがメッセージの受信を伝える。母さんからだ。なになに。駅まで迎えに行こうか? だって。二十歳になる息子に何を言ってるんだか。オレは自分で行けると返事をした。

 とはいえ、このまま放っておいたら、ずっと連絡が入ってきそうだ。それに母さんのリクエストで買ったスイーツは、さっさと冷蔵庫に入れた方が良いものだった気がする。仕方ない。先に実家へ帰るとするか。そちらに足を向けようとしたら、オレの名前を呼ぶ男の声がした。ヘルメットの下から現れた顔は翔兄だ。新しいバイクに乗っている。多分、前に「欲しい」って言ってたヤツだろう。

「お前、いつ帰ってきてたんだ」

「ただいま、翔兄。ちょうど今、着いたところ」

「おかえり。なんだよ。帰ってくるなら、連絡しろよ」

「ごめん。忘れてた」

「まったく。そういうルーズなところは、あの人そっくりだよな」

「面目ない。ところで、英雄さんは元気にしてる?」

「ああ、相変わらずだよ。ちゃんとこっちにも顔出せよな。あの人もさみしがるから」

「だよね。今回は行く」

「ん。じゃあ、俺は行かなくちゃ。来る時は連絡しろよ」

「わかった」

 翔兄は再びヘルメットを被ると、エンジンをかけて行ってしまった。

 あの人、か。

 まだ距離感は埋まってないみたいだ。昔は翔兄も、英雄さんのことを名前で呼んでいたのに。

 とはいえ、それも仕方ないか。この辺りでは玲さんと、英雄さんの関係は有名だ。英雄さんが人に好かれるタイプだから、あからさまに村八分になっている訳じゃない。けれども、陰口をいう人はどうしてもいる。

 ましてや子どもの世界は残酷だ。英雄さんが玲さんの家に住みはじめる前に同居していたからって、オレに対して言ってくるヤツらもいた。翔兄はもっと大変だっただろう。それに加えて翔兄がイケメンなのも、問題を複雑にしている。

 でも、オレは知っている。翔兄が英雄さんのことを好きだってことを。オレのことを弟みたいに面倒をみてくれるのは、そもそも英雄さんから頼まれたからだ。本人には内緒にしているけど、英雄さんが出演するダンスのイベントだって、毎回観に行ってる。仲直りするきっかけさえ作れれば。そう思っているけど、今のところ上手くいっていない。長年の積み重なった問題だ。頭でわかっても、感情がついていかないらしい。でも、いつだったか翔兄は言っていた。

「そもそも問題は英雄さんじゃなくて、自分の価値観を『普通』だの、『常識』だの言って、押し付けてくる奴らなんだけどな」

 だから、和解の余地はあると思っている。大体、英雄さんはオレにとっても父さんだ。五歳まで自分の家には父親が二人いるんだと思っていた。真面目で優しい父さんと遊び心があって自由な英雄さん。英雄さんはおもいっきり遊んでくれて、美味しいごはんも作ってくれる大好きなパパだった。今もオレの味方になって、両親を説得してくれたりする。

 それに赤ん坊の頃は父さんじゃなくて、英雄さんがメインでオレのことを育ててくれたって聞いている。だからだろうか。他人という感じがしない。

 家族は血のつながりよりも、思い出のつながりが大切。

 そんな風に思えるのも、両親と英雄さんの影響だ。世間からはいろいろ言われるが、オレはそれで良いと思っている。

 さて、行くか。オレは実家の方へ足を向けて歩き始めた。

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