巻き込まれて飛ばされて
その日。
私はテスタリア教国皇都にある祓魔師協会本部のロビーで、張り出されている依頼を眺めていた。
いつもの通り凶悪な魔物の討伐依頼や高難易度の依頼はスルー。
今の私に出来るのは精々雑用や害獣駆除程度なのはわきまえています。
「えっと……モグラ退治なら私でも出来そうかな」
数多くの依頼の中で見つけたその依頼が書かれた紙に私は手を伸ばす。
そしてつかみかけたその時だった。
「あ。それならあそこにいるシーラなんかどうです?」
突然私の耳にそんな声が飛び込んできたのは。
びっくりした。
何がびっくりしたかって、突然私の名前が呼ばれたことじゃない。
ううん、それもびっくりしたんだけどそれよりも私を指名したその人にだ。
「ん? シーラをか?」
「はい。僕とランクが一緒ですし丁度良いかなって」
「ふむ。確かにお前と一緒のランクの者は今はシーラしかいないが……」
私を指名したその人の名はイグナ・フォーレ。
数百年前に世界を滅ぼしかけた邪神を倒した英雄の末裔であり――
「落ちこぼれ同士、一緒に厄介払いできて良いんじゃ無いっすかね」
どこからか聞こえたヤジの通り、私と同じくこの祓魔師協会のランクF。
つまり最低ランクの落ちこぼれ祓魔師なのです。
彼は協会本部にあるカウンターの一つで、大柄な職員と話をしているようで。
その会話の最中に私の名前を出したらしい。
「えっと……なんの話です?」
私は依頼書に伸ばしていた手を引っ込めると、恐る恐る振りかえり聞いてみた。
カウンターの職員は見たことがあります。
たしか祓魔師協会の人事部のゴリドスおじさんだったと思う。
人事部という事務仕事なのに筋肉ムキムキな体躯をしていて。
その見かけ通りにかつてはかなりランクの高い祓魔師だったらしく。
なぜ事務仕事をしているのかわからないと祓魔師の間では色々な噂が飛び交っているのを私は知っていた。
「いやぁ。来月からソウト王国支部に飛ばされることになってね」
のほほんとしたつかみ所の無い笑顔で応えるイグナに私は首を傾げる。
ソウト王国はこのテスタリア教国がある中央大陸からみて南西にある大陸の南半分を納める国だ。
気候は温暖で、かなり暮らしやすい国だと聞いている。
しかし中央大陸に比べると魔術的にも技術的にも後れた辺境の農業国家だ。
そんな国の支部に異動なんて、まさに『飛ばされる』という言葉に相応しい。
「それが私に何の関係があるんですか?」
「僕一人だけじゃたどり着けるか不安だってゴリドスさんが言うから」
「はぁ……」
「だったら君と一緒に行けば安心でしょってことになったんだ」
あっけらかんと言い放たれたその言葉に、私は暫く口をパクパクさせ。
「ええええええええええええええっ!!!」
それからロビー中に響く大声で驚愕の声を上げてしまったのでした。