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プロローグ

気軽に読める作品を目指して書いてますので気軽にブクマ、★、感想などをおねがいします。


初日は複数話更新予定です。

「先輩! そんな恐ろしい魔物を私たちだけで相手にするなんて無茶ですよっ!」


 薄暗い森の中。

 ぽっかり空が開いたその場所には泉が湧いている。


 いつもは森の動物たちが思い思いに水を求めて集まってくるであろうその場所。

 そこに今いるのはたった二人の人間。

 そして二人に対峙する一匹の禍々しい巨大な体躯の魔物だけであった。


「逃げましょう。逃げて応援を呼んできましょう」


 泉の端で内股の足と声を震わせ叫んでるのは成人前の少女。

 美しいというより可愛らしいその顔は泥や草の葉で汚れていた。


 突然現れた魔物に驚き、逃げようとして転んだせいだ。


「恐ろしい魔物?」


 そんな彼女の懇願の声に応えたのは先輩と呼ばれた青年で。

 黒髪に埋もれた黒目をきょとんとさせ少女を見る。


 その表情には一切の恐怖も怯えも見えない。

 それどころか何事も無いような、のほほんとした様子で。

 とてもではないが凶悪な魔物を目の前にした人の態度では無かった。


「そうですよ! その魔物はたしかBランクのフォレストボアだったはずです!」

 

 フォレストボアは主に森の奥に住む魔物だ。

 性格は獰猛な上に熊と違い冬眠をしない。

 自らに近寄るものは人だろうと動物だろうと襲いかかり惨殺すると言われている。


 基本的に森の深部に近寄らなければ出会うことは無いはずだ。

 だが時折何らかの理由で森から彷徨い出ることがある。

 そうした個体によって滅ぼされた村も少なくは無いと聞く。


「私たちの仕事は泉の異変を探るだけだったでしょう?」


 少女はゆっくりと後ろに下がりながら、それでも青年を置いて一人逃げることも出来ず説得を続ける。

 一人で逃げるという選択肢は無いようだ。


「原因はそのフォレストボアだってわかったんだから逃げましょうって!」

「フォレストボアって魔物図鑑で見たことあるけどこの子と全然違うじゃないか」

「こ、この子ぉ?」


 青年はにこやかに笑いながらフォレストボアに近づく足を止めない。

 中肉中背のどこにでもいそうな青年は、そのまま全く警戒心も感じさせない足取りで魔物の爪が届く場所に足を踏み入れた。


「危ないっ」


 獲物の意外な行動に警戒して動きを止めていたフォレストボアの瞳に狂気の光が灯る。

 そして無造作に近づく青年に向かって屈強な戦士の鎧をも簡単に引き裂くだろう爪を振り下ろし――


「おおっ、やっぱり人なつっこい子だ」


 しかし振り下ろされた豪腕を青年は軽い調子でひょいと掴むと、そのままフォレストボアの懐に入り込み。


「もふもふでふかふかだぁ。おーよしよしよしよし」


 わしゃわしゃわしゃ。


 青年はまるで大きな犬を扱うかのように魔物の毛を一心不乱に撫で始めたではないか。


「ガァァァァ」


 慌てたマウンテンベアが青年を引き剥がそうと暴れ出す。

 だが青年にがっちりと捕まれた体には全く力が入らず情けない声を上げるしかない。


「クアアアァァァ」

「よしよしよしよし」


 尚も続く青年の『攻撃』に凶悪な魔物はなすすべも無く。

 やがてその瞳からは狂気の光が消え、代わりに浮んできたのは喜びの表情であった。


 それと同時にマウンテンベアの巨体にも変化が現れる。


 大人三人分はあろうかという巨体が、青年がひと撫でするごとに徐々に小さくなっていくのである。


「あーもうっ。先輩のその力って、ホントなんなんですかぁ」


 少女は今目の前で起こったような出来事を、この地に来てから何度も見てきた。

 だけど未だにその異常さに慣れず、いつも肝を冷やすような思いを繰り返している。


「え? 僕にはたいした力なんて無いよ。だから『おちこぼれ』って言われてたんだから」

「それが力じゃなくてなんなんですかっ!」


 少女はすっかり大型犬サイズまで小さくなってしまったフォレストボア――だった小熊を指さして叫ぶ。

 その姿からは禍々しさは消え、甘えた声で青年にじゃれつき始めていた。


「あんな凶悪な魔物がそんなにかわいくなるなんておかしいですよっ」

「え? 何言ってるかわからないけどこの子は最初からかわいかったろ?」

「何言ってるのかわからないってこっちの台詞ですっ!」


 この森を支配する魔物の被害報告を受け、その調査にやって来た二人。

 しかしその魔物は既に無害な獣へと生まれ変わってしまった。

 それも一人の平凡な見た目の青年の手によってである。


「報告書を書くのは私なのに、こんなことどう書けば信じてもらえるのよぉ」


 森の中にこんこんと湧き出す泉の畔にぺたんと少女は座り込むと、この地に来てから何度目かわからない嘆きを漏らしたのだった。


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