1st 邂逅
突発的に思い付いたss。内容も設定も粗いですが、読んで頂けると嬉しいです。3〜4話程度で終わる予定です
「はぁ…っ、はぁっ…」
「居たぞ!逃がすな!」
暗闇の森の中。息を切らしながら逃走する少女とそれを追う武装集団
「く…しつこい…っ!」
悪態を吐きながら少女は走り続ける。何度も転んだため、服は所々破れており、体は傷だらけだが、彼女は脇目も振らず駆け抜ける。
「こっちだ!」
「くっ…!!」
前方から別の部隊が現れ、挟み込むように追い詰められる。
「ここまで来て…捕まる訳には…“ズルッ!”…しまっ!?きゃあぁぁっ!?」
足を滑らせ、崖から落下する。眼前に迫る地面に成す術無く激突し、体に激痛が走る
「がはっ!?ごほっ…立ち止まってる場合じゃ…うくっ…!」
痛む体に鞭打ち、立ち上がるが、すぐに座り込んでしまう。
「はぁ…はぁ…くそっ…」
「見つけた……あらあら随分ボロボロだねぇ」
「!?」
声に驚き、顔を上げるとこの場には似つかわしくないスーツ姿の女性が立っていた
「誰だか知らないけど…私はラボには絶対帰らない…!お前達の道具になんか…絶対に…ならないっ!」
力強く叫び、強い意志と拒絶を込めた瞳で目の前の女性を睨み付ける。その瞳を向けられ、困惑する女性
「えーと…そのラボとかに連れて行くつもりは無いんだが…僕は君を助けに来た」
「騙されないわよ…そうやって甘い言葉でまた私を…!」
「信じる信じないは勝手だが…追手が迫ってるよ。ここで捕まったら、君の自由は一生無くなるよ?」
“この辺に落ちた筈だ!よく探せ!”
大人数の足音、兵士達の声が響く。彼女に迷っている暇など無かった
「…貴女に付いていけば…私は自由になれるの…?」
「あぁ。勿論だとも」
目の前に差し出された手を取り、少女は立ち上がる。それを見て満足そうに微笑む女性
「そうだ、名乗っていなかったな…僕はアルマ・クラウゼル。君は?」
「……フィーリア」
「そっか、良い名だ。では「居たぞ!こっちだ!」
駆け出そうとしたその刹那、兵士に見つかり、包囲されてしまった
「ふう、空気の読めない連中だねぇ…今から愛の逃避行と洒落込もうというのに…」
「その少女を此方に渡せ」
「…嫌だと言ったら?」
「…機密を知られた以上、生かしてはおけん」
フィーリアを庇うアルマに隊長格の男が銃口を向ける。
「…ま、そうなるよね。なら言ってやるよ…絶対に嫌だね!」
「やむを得ん…撃て!」
隊長が命令し、兵士達が引き金を引く。銃弾の雨がアルマを貫く…寸前にメイド姿の白銀の髪の女性が障壁を張り、全て防ぎ切る
「なっ…!?」
「良いタイミングだよ、リンネ」
「マスター、あまり無茶をなさらないで下さい」
「なっ!Dollだど!貴様、同調者か!」
「今更気付いても遅い…リンネ!」
「はい、マスター」
「「同調!」」
叫ぶと同時に2人が眩い光に包まれる。光が消えるとそこには白銀の鎧を纏い、大剣を携えたアルマが現れた
「さぁ、覚悟は出来てるかい?」
「く…同調者といえどたった一人だ!怯むな!撃て!」
「芸の無い連中だね…はぁっ!!」
迫り来る弾丸を大剣を振り払い、全て吹き飛ばす
「す、凄い…」
「終わりかい?」
「くっ…撤退だ…っ」
「ですが隊長!」
「…同調者は我々では対処できん。お前達を死なす訳にはいかん…」
「隊長…分かりました」
「全員、退け!」
隊長の号令と共に兵士達が去って行く。完全に気配が消えたのを確認すると、淡い光を発して、2人に戻る
「さて、ひとまずは安全かな」
「ええ、ですが追手が来る前に退散した方が良いかと」
「そうだね、それじゃ…改めて。よろしくねフィーリア」
そう言い、手を差し伸べ、アルマは微笑む。少し戸惑いながらも、フィーリアはその手を握り返した
「以上です」
「ふーん…つまり君達は、大事な実験体を取り逃がしたばかりか、女1人に手も足も出ずに、尻尾巻いて逃げてきたと…?」
白衣の初老の男性が、報告に来た部隊長を馬鹿にしたように見下し言い放つ。
「…お言葉ですがヴァイル博士。相手は同調者、我々では到底「言い訳するんじゃない!」
部隊長の言葉を遮り、ヴァイルは胸倉を掴み、ヒステリック気味に叫ぶ
「貴様等の命など私の最高傑作の損失に比べたら、どうでも良いのだよ!貴様達は与えられた命令をこなしてれば良いのだよ!」
「荒れてますねぇ…博士。だから最初から僕を出せば良かったのに」
暗がりから声がし、小柄な少女が姿を現す。忌々しげに見つめる隊長を歯牙にもかけず、続ける
「僕ならすぐに捕まえてくるよ?だから僕に行かせてよ博士」
「ふむ…まぁ良いだろう。同調者同士の戦闘データも欲しいところだったからな。行くが良いフォルテ」
「ふふ、ありがとう博士!じゃあ、早速行ってくるね!」
元気よく返事をし、フォルテと呼ばれた少女は飛び出していった
「ふふ…せいぜい良いデータを残してくれよ」
狂気に歪んだ笑みを浮かべヴァイルは静かに呟いた
「大きい……」
「ここが今日から君の家だ。後で部屋も案内するから。取り敢えず中に入ろうか」
目の前の豪邸に目を丸くし、呆然とするフィーリア。そんな様子に苦笑しながら、中に入る。客間へと通し、座るように促す。
「さて色々と聞きたい事があるんだが‘グゥー…キュルル’」
「はぅ…っ」
言葉を遮るように腹の音が鳴り響く。顔を真っ赤に染め、恥ずかしそうに俯くフィーリア。そんな彼女を苦笑しながら愛おしく感じる
「ふふ、その前に食事にしようか」
「ごめんなさい…」
「はは、気にする事はない。リンネ、今日の当番は誰だったかな?」
「今日は確か、ノーラでしたね」
「そうか、フィーリア。覚悟しておきたまえ」
「…?」
「彼女の料理、味は良いが、量が凄まじいからな。残したら何をされるか分からんぞ?」
「ふぇっ…!?」
「ちょっとアルマ、変な事吹き込まないで頂戴」
真紅の髪をツインテールにした少女が、抗議の声を上げ、料理を運びながら部屋へと入ってくる。
「あら?貴女、新入り?」
「え、えぇ…」
「そう、あたしはノーラ。あんたは?」
「フィーリア…」
「そう……貴女何処かで見た気が……」
「まぁ良いじゃないか、先に頂いてしまおう……訳は後で話すよ」
「…分かった、ちゃんと話してよ?」
アルマの一言でノーラは渋々了承し各々がテーブルにつく。因みに山盛りの料理をフィーリアが全て平らげ、アルマとリンネを驚かせ、ノーラが喜んでいたのは別の話
「さて、改めて色々と話を聞きたいのだが、構わないかな?」
「うん、大丈夫。私に答えられる範囲なら」
「ありがとう…じゃあ早速だが…君はDollで間違いないかな」
「うん、私の開発者…ヴァイル博士は、私を最強のDollだって言ってた」
“そんな自覚無いけどね”と付け加え、何処か他人事のように彼女は呟く
「最強…ねぇ。いかにもあの男が考えそうな事だよ」
嫌悪と拒絶を滲ませた表情でアルマは呟く。
「アルマ…博士を知ってるの?」
「昔…色々あってな。まぁ今は関係の無い事だ、気にしないでくれ…次の質問だ。君に同調者は居るかい」
「…まだ居ないわ。適合者が見つからないみたい」
「そうか、ありがとう。さて疲れただろう?部屋を案内させるから今日はゆっくりお休み」
「でも…」
「気にする事はない。逃げ回ってボロボロになって…体力も限界だろう?」
「…ありがとう。じゃあお言葉に甘えさせて」
「うむ、ゆっくり休むと良い…猫々。2階の空き部屋に案内を頼んで良いかい?」
「りょーかいだよ。じゃあ付いて来てね」
猫々と呼ばれたメイド服に身を包んだ猫の獣人がフィーリアを連れ、部屋を出た
「…やっぱり覚えてないか。まぁ当然だろうな…」
「では彼女が…?」
「おそらくな……Dr.ヴァイル、僕の家族を奪った罪、今こそ贖わせてやる…っ!」
静かな怒りを燃やし、アルマは呟くのだった
「ねぇ、猫々って言ったっけ?貴女もDollなの?」
「んーん、僕はただの獣人だよ。アル姉は泥臭いスラムで物盗りをしていた僕を助けてくれた、恩人さ。あと因みに僕は男だからね」
「へ…?えぇっ!?」
間の抜けた声を上げ、何処をどう見ても少女にしか見えない彼をまじまじと見つめる
「癖みたいなもんさ。女の子の格好してると殆どの奴が油断するからやりやすいんだ…失敗して殺されかけた事もあったけど。ま、可愛い格好するのは趣味でもあるんだけどね」
そう語る彼は、苦労など微塵も感じさせないような屈託の無い笑顔で言った。
「そう…苦労してたのね…」
「まぁね、だからアル姉には感謝してるんだ……と、着いたよ、ここが君の部屋だ。元々アル姉の妹が使ってた部屋らしいんだ」
「…妹…うっ!?」
無意識に呟いたと同時に、脳裏に少女とアルマ、そしてメイドのリンネが、この屋敷で生活している様子がフラッシュバックする、
「ううっ…|(何…今の…?私の記憶な筈がない。でも…どうしてこんなに懐かしいの…?)」
その少女は似ている否、自分そのものと言っても過言では無かった。だが自分には覚えの無い記憶。
「どうしたの…大丈夫?」
「えぇ、ごめんなさい…大丈夫よ…ちょっと疲れたのかもね…休ませて貰うね」
「ん…ただその前に…掃除が必要かな…っ!!」
袖から苦無を取り出し、室内に投げ付ける。
「な、何…っ?」
「へぇ、良く気付いたね…入ってきた所をバッサリやろうと思ったのに」
声と共に、虚空から漆黒のローブを纏い、鎌を持った少女が姿を現す。
「フォルテ…っ」
「やぁ、フィーリア。迎えに来たよ」
「知り合い?物騒な奴も居たもんだね…」
「そこのお姉さん…いやお兄さんかな?すぐ終わるからちょっと大人しくしててくれないかな…っ!」
「はいそうですか…なんていうわけないだろっ!フィーリア、逃げるよ!」
言い終わるや否や、猫々に向かって鎖を飛ばす。それを爪で弾き落とし、フィーリアの手を引いて走り出す
「あはは、逃がすかよぉっ!」
後方から襲い来る鎖を器用に避けながら走る。それを笑いながらフォルテは追い掛ける。その姿はまるで獲物を嬲るようだった
「くそっ…しつこい……がっ!?」
「あはは、捕まえた…っ」
鎖が手足、首に絡み付き、苦しさに藻掻き、その拍子に抱えていたフィーリアの手を離してしまう
「ちょっと大人しくしててね、妙な事したら…」
「かはっ…ぐっ…げほっ…げほっ…!」
首に巻き付いた鎖を絞め上げ、すぐに緩める。首元にはうっすらと跡がついていた
「殺しちゃうかもね…さて、フィーリア。ここで僕と一緒に来ればこいつは殺さないでおこう。無関係の人間は殺したくないでしょ?」
「フィー…リア…っ、だめだっ…君は…じゆ…に…なりたいんだろ…あぐっ!?」
「黙っててよ、フィーリアに聞いてるんだからさ…それとも死にたいの…?」
「あぐっ…!ぐぁっ…!かひゅっ…ぁ…っ…」
「や、やめっ…」
「よく見てな、君のせいでこいつは死ぬ…ぐっ!?」
意識が途切れる寸前、フォルテの腕に銃弾が突き刺さる。痛みに呻き、手を離して猫々が転がり落ちる
「そこの同調者…汚い手で、うちの子に触らないで貰えるかな?」
同調した状態で銃を構え、此方を睨み付けているアルマが居た
「あらら、バレちゃった…全くコイツが邪魔しなきゃ連れてけたのに」
「がはっ…!?えほっ…げほっ…!アル…姉っ…ごめ、なさっ…げほっ…!」
忌々しく猫々を見つめ、蹴りを入れる。そのまま、アルマの下へと勢い良く転がっていく。
「猫々。すまない…良く耐えてくれた…リンネ、彼をお願い」
「承知しました」
泣きながら、息も絶え絶えに謝罪をする彼を労う。安堵して気を失った猫々を抱え、去っていくリンネを見届け、フォルテへと向き直る。その瞳は怒りに燃えていた
「さて、うちの従者が随分と世話になったな…礼ぐらい受け取っていきなよ」
「ははっ…なにお姉さん、僕とやるっての?良いよ、暴れ足んなかったし…遊んであげる…!」
「ふ、舐めるなよ…小娘!」
そう言い、弾丸を撃ち出す。それをフォルテは鎌で弾き飛ばし、アルマへと接近、鎌で切り裂こうと振りかぶる、それを銃身で受け止め、もう片方の銃を眼前に突き付け撃つ。ギリギリでそれを躱し、飛び退き距離を置く
「へぇー…お姉さん強いね。でもこれで終わりだよ…タナトス、あれをやるぞ」
“え…でも…っ”
「なに?主に逆らおうっての?お前ごとき、いつでもスクラップに出来んだよ?」
“ひっ…分かりました…っ”
「ん、良い子だ…さてお姉さん、もう終わりにさせて貰うよ…完全同調!」
叫ぶと同時にフォルテの体を凄まじいエネルギーが包み込む。
「な、完全同調…だと…!」
“アルマ、まずいわよ!”
「分かってる…力を借りるよ、ノーラ!」
“了解!バスターモード!”
両手に持っていた銃が消え、巨大なライフルが現れる。それを両手に抱え標準を合わせる
「吹き飛べぇっ!!」
‘ドゴォォン!!“
轟音を立て、発射されたレーザーがフォルテ飲み込み、爆発する。爆煙が消えると、大きなクレーターだけが残されていた
“やった…のかしら…?”
「分からん…だが、無事では「あはは、残念でした!」…っ!?」
目の前に突然、漆黒の鎧を纏ったフォルテが現れ、腹部に蹴りがめり込む。
「いやぁ…ひやっとしたよ、後1秒遅かったら終わってたわ」
「ぐっ…貴様…その状態が…Doll達にどれ程…負担が掛かると…ぐふっ!?」
「うるさいなぁ…Dollがぶっ壊れちまおうが構わないっての…奴らは所詮、只の道具なんだからさぁ…!」
「があっ!?」
「あうっ!?」
再び蹴りを入れられ、同調が解除される。立ち上がる間もなく頭を掴まれ持ち上げられる
「力の差を思い知った?おらぁっ!」
「ごはっ…!?」
そのまま叩き付けられ、蹴り飛ばされ、無数の鎖で殴打する、
「や、止めて…お願い…っ」
|(返せ…僕の…妹…!)
「マスター!」
「雑魚は引っ込んでな!」
「きゃあぁぁっ!?」
アルマを救うべく、フォルテに飛び掛かるリンネ。寸での所で腕を捕まれ、窓から放り投げられる
|(お姉ちゃん…お姉ちゃぁん!)
記憶の断片達が浮かぶ。今と同じように蹂躙されるアルマとリンネ、そしてヴァイルに拐われる自分
「|(そうか…私は…)」
「さて、止めと行こうか…!」
「止めてっ!!」
凶刃がアルマの命を刈り取る寸前、フィーリアが叫ぶ。
「私が行けば…その人達は見逃してくれる…?」
「あぁ…目的は君だけからね。まぁ見逃してやっても良いよ」
「分かったわ…研究所に戻る…お別れだけさせて」
「はぁ…?そんな必要「なら私もここで死ぬわ」…分かったよ、手短にな」
「…思い出すの…遅くなっちゃったけど…一緒にいれて嬉しかった…ありがとう、でもバイバイは嫌だから…」
「必ず迎えに来て…お姉ちゃん」
「…っ!!」
一度言葉を切り、静かに、しかし力強くフィーリアは言葉を放つ。彼女の言葉に目を見開き、顔を上げ見つめる。記憶の中にある少女と同じ、柔らかな笑みを浮かべていた
「もう済んだかい?」
「えぇ…行きましょう」
返事をし、彼へと駆け寄る。フィーリアを抱え、フォルテは飛び去る
「待ってろフィーリア…必ず迎えに行く…絶対に…っ!」
小さく、だが意志の籠もった言葉を放ち、飛び去った2人の後ろ姿を見つめるのだった
「フィーリア…全く悪い子だな、君は」
「何を今更…私に手を焼いていたのは昔からでしょう?ヴァイル叔父様?」
独房に幽閉されたフィーリアを咎めるように語るヴァイル。それに臆する事もなく、気丈に振る舞うフィーリア。気に入らないとばかりにヴァイルは溜め息をつく
「ふん、記憶が戻ったか。生意気なのはあの女にそっくりだ……まぁいい。これで我が願いも成就するというものだ…!」
「そう簡単には行かないわよ…アルマが…お姉ちゃんが必ず貴方の野望を止めに来る…絶対に!」
「ふん、あんな小娘一人に何が出来るというのだ。そこでありもしない希望に縋っているがいいさ…もうすぐ、世界は私のものとなる…ふふ、ふはははっ!!」
力強く言葉を発するフィーリアを一瞥し、高笑いを上げながらヴァイルは去っていった
「お姉ちゃん…待ってるからっ」
瞳を固く閉じ、先程別れた女性を思うのだった