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アヤカシ探偵社。其の七

伏見稲荷大社は全国の稲荷神社の総本社です。狛犬では無く狛狐なのが、如何にも妖狐を連想させてくれます。ここを背景に何時か書きたいと思っていた作品です

 京都市伏見区にある伏見稲荷大社。商売繁盛の神様で全国にある稲荷神社の総本社である事は全国的にも有名である。と同時に此処は狐達の聖地であり本拠地でもあるのである。

 

 秋分を過ぎると京の街は一気に紅葉に彩られる。アヤカシ探偵社のある東山の一帯も燃えるような赤や黄の絨毯に敷き詰められるのだ。特に清水寺の阿弥陀堂から観た京の街並みは絶景である。アヤカシ探偵社事務所の周りも紅葉や楓、銀杏の葉で囲われ、さながら一幅の日本画の様でもある。

 老婆が軒先で柿を釣るしていると小狐が巻物を咥えて現れた。

「おや?手紙を持っているところを見ると迷いこんだ訳ではないようやね」

 老婆が小狐から巻物を受け取ると「安寿様」と書かれている。ふと目線をやると其処にはもう小狐の姿は無かった。

「安寿と言うのはあんじーの事かね。なら持って行ってやらんと」

 老婆は母屋から離れのアヤカシ探偵社事務所に向かった。年代を感じさせる古民家である。縁側からあんじーの部屋の障子戸を開ける。

「あんじーや、小狐が巻物届けて来たんやけど安寿ってお前の事やないんかえ?」

 あんじーはデスクトップの液晶ディスプレイを睨みながら答えた。何やら作業に集中している。

「ああ婆様、そうじゃ。昔はそう呼ばれておった。じゃが届けてきたのが狐となると何か曰くがありそうじゃな。その辺に置いといてくれ、後で見てみる」

「そうかえ。じゃあ此処に置いとくよ。しかしなんやね、近頃はいろんなペット飼う人がいるんやね。狸は知り合いにもいるけど狐なんて」

 老婆は独り言の様に語って部屋内に巻物をそっと置き母屋に戻っていった。その直後、隣の部屋の襖が開いて鎌鼬が出てきた。聞き耳を立てていたのである。

「狐が巻物で書状を届けるってか?そりゃ奴しか居ねえな」

 あんじーは腕組みし、頷いた。

「左様、伏見稲荷の玉三郎じゃ」

 鎌鼬はギラついた目で尋ねた。

「妖狐族の御大将が今頃何の用なんだ?妖怪組合にも入らず、大災難の時もだんまりを決め込んでる逸れ者のお稲荷様がよ」

 あんじーは玉三郎を擁護する。

「まあそう言うな、奴等の祭神はあの白眉じゃ。我等に与して機嫌でも損ねようものなら全国の狐の生命が危うい。玉三郎の立場も判ってやれ」

「へいへい、左様ですか。そんな事より何が書かれてるんだ?早く読んでくれよ」

 あんじーは巻物を紐解いた。中には何やら流暢な筆文字でつらつらと書かれていた。

「ふむ…妖怪組合との蟠りについて相談に乗って欲しいらしい。妖狐族も妖怪組合と友好を望んでおるようじゃな。ついては稲荷山に儂を招待したいと記してある。其処で話し合いたいと言う訳じゃな」

 鎌鼬は苦虫を噛み潰した様な顔で口を歪めた。

「友好?相談?今更何言ってやがるんだ!怪しいぜ、奴め何か企んでやがるな。断っちまえよそんな依頼」

「いや、そうかも知れぬが狐達との交流の切っ掛けになるやも知れぬ。無下にはできぬのじゃ。此処はひとつ玉三郎の話に乗ってみよう」

 あんじーの答えにウンザリする鎌鼬。

「そう言うと思ったぜ。ホントに毎度毎度厄介事に首突っ込むから周りが大変な目に合うんだ。が、これも宿命ってヤツか…まあ嫌いじゃないがな」

「ついては明後日正午、稲荷山山頂の一の峰までお越し頂きたいと書いてある。行ってみるか?鎌鼬」

 あんじーの提案に二つ返事で同意する鎌鼬。

「実は稲荷大社には行った事がないんだ。あそこは狐達の縄張りだからな。ちょっと興味があるぜ」

 頷くあんじー。

「儂も同じじゃ。恐らく他の妖怪が近づけぬよう玉三郎が結界を張っておるのじゃろう。妖気の無い人間には影響が無いのじゃろうが」

「成程、俺らは入れない聖域という訳か。だとするとどうやって山頂まで行くんだ?」

「それは行ってみればわかるじゃろう。爽や箔達には申し訳ないがここは二人で出向くか」

「確かに。ガキ共には危険すぎる」  

 あんじーと鎌鼬は他の社員の安全を気遣って自分達だけで乗り込むことに決めた。が、この事は後々大ピンチを招く事になるのである。


 当日午前十時。あんじーと鎌鼬は京阪電鉄稲荷駅に降り立った。本来ならぬこ神に送ってもらうところだが目立つ上、結界に阻まれて近くまで寄れない可能性があったのである。門前道を通り楼門まではほんの三分程である。門で一礼し、境内に入る。本殿ではまだ結界の影響は受けていない。

「おかしいな?もう中に入ってるのに何の障害もないぜ」

「恐らく玉三郎が結界を一時的に解いたか範囲を狭めたのじゃろう」

 鎌鼬の疑問にあんじーが答えた。向かって左手の石段を登り暫くすると赤い鳥居が見えてきた。鎌鼬が呟く。

「これが噂に聞く千本鳥居か」

「そうじゃな、実際には一万本はあるらしいが」

 あんじーが答えると鎌鼬が感想を漏らす。

「へえ…そんなにあるようには見えないがな」

 二人は鳥居の道を歩み始めた。が、進めど進めど辿り着かない。鳥居の列は延々と続いている。

「長いな…どれ位高い山なんだ」

「高さは三百メートル程じゃが稲荷山と称されるからには登山と考えるのが妥当じゃろう」

 鎌鼬は成程、と頷く。

「俺達の棲家と似た様なもんだな。そういや何か空気が違ってきたぜ。冷っとして背中にゾッとする感じがする」

 同じ事をあんじーも感じていた。

「狐達の縄張りに入った様じゃな。妖気が満ち満ちておるわい。じゃが近づけぬ程ではないな」

 更に進むと鳥居が二又に分かれた。

「どちらに進む?」

 あんじーが尋ねると鎌鼬は即答。

「右だな。俺の勘がそう言ってるぜ」

「良かろう。右に進もう」

 そう言ってあんじーは歩を進めた。辺りはだんだんと山深くに入り、不気味な静寂を醸しだしている。

「居るな。俺達を見張っているようだ」

 鎌鼬の勘は的中していた。あんじーが答えた。

「そのようじゃな。が、殺気は感じられん。どうやら敵意は無いようじゃ」

 二人は黙々と階段を上がり、ようやく一ノ峰まで辿り着いた。

「此処が山頂じゃ。思ったより地味な場所じゃのう、大きな拝殿が在るのかと想像していたのじゃが」

 あんじーが呟くと何処からともなく甲高い声が聞こえた。

「此方は霊峰なれば観光地ではござりませぬ、華美な社は不要なのです」

 あんじー達が声のする方を向くと立派な雄狐が座していた。

「玉三郎様の小姓を務めております権左と申します。主の言い付けにより不詳私めがご案内致します」

 権左なる雄狐は一弊すると鳥居道とは反対の登山道を降りて行った。先程とは打って変わって裏寂しい薄暗い山道。権左は駆け下りるかの様な早足である。あんじー達は就いて行くのがやっとであった。程なく御劔社なる祠を通り過ぎた。すると権左は細い山道から外れ、鬱蒼とした林に入って行く。

「いよいよ本陣に近づいた様じゃな、物凄い妖気が漂っておる」

 鎌鼬も不敵な笑みを浮かべている。

「ああ。匂うぜ、狐どもの獣臭が」

 辺りに注意を払いながら権左の後に続く二人。何やら白い霧が立ち込めだした。

「狐の霊道じゃ。おそらく奴等の本陣に続いているのじゃろう」

 権左を見失わぬよう早足で進むと、巨大な狛狐が現れた。台座を含め高さは三メートルはある、石像が二体左右に立ちはだかって此方を睨んでいる。

「中々美型の狛狐像じゃな。造作もリアルじゃ」

 あんじーが呟くと背後から声がした。

「お褒めに預かり恐縮です。我等の魔除け像なのです」

 振り返ると白髪に緑黄色の瞳をした端正な顔立ちの美青年が立っていた。白い羽織袴に半透明の上被。

「お初にお目にかかります、頭首の玉三郎と申します」

 此奴が玉三郎か。と心で呟きながら顔では冷静さを保つあんじー。

「お招きに預かり光栄じゃ。アヤカシ探偵社主宰、あんじーじゃ。ご丁寧なおもてなし、恐縮至極」

 玉三郎は伏し目がちに淡々と語った。

「貴方様があんじー殿ですか。お噂は兼々伺っております。八岐大蛇を退治された武勇伝は知らぬ者など居らぬでしょう」

 鎌鼬は日本全国の妖怪達が一致団結して戦ってる時にお前等狐共は恐れ慄いて隠れてたじゃねえか、と口先まで文句が出かけたがグッと堪えた。

「世辞や御託は結構。本題に入ろうではないか。書簡には狐族が妖怪組合と交流を持ちたいと記してあったが」

 玉三郎は顔を曇らせた。

「その事については同志内に反対する者も少なくありません。この場では目立ちますので本殿にお越しください」

 玉三郎は稲荷御殿へと二人を案内した。歩く事数分、目の前に朱塗りの拝殿が現れた。境内にあった本殿とそっくりである。

「下の拝殿は此処の物を真似て造られております。昔迷い込んだ折に見た人間が模倣したのでしょう」

 鎌鼬はそいつは逆だろう、全国の神社が同じ様な造りなんだぜ?と心の中で呟いた。

「ささ、中にお入りくださいませ」

 玉三郎に促され拝殿の中に入る二人。本堂は広く、正面に祭壇が設けられている。この時あんじーは一瞬緊張してウッと唸った。ご本尊はあの忌まわしき白眉!木像ではあったが紛れもない宿敵の姿であった。当然の事なのだが良い気はしない。

「折角お越しいただいたので何も御座りませぬが一席設けますので暫しお待ちください」

「いや、余計なお気遣いは無用」

 とあんじーが声を掛けるも一瞬早く玉三郎は退席してしまった。

「どうする?あんじー。嫌な感じがするぜ」

「儂も出来得れば早々に退散したいところじゃが目的を果たさぬでは出向いた意味が無い。奴の出方を見るしかないわい」

 二人がひそひそ話していると襖が開いて女中姿の狐達が膳を持って入って来た。本格的な京懐石である。眼前に並べられた馳走を前に鎌鼬は先程の危惧は何処へやら、上機嫌になった。其処へ再び玉三郎が登場。衣装を替え、宛ら一国の城主然とした煌びやかな着物で座した。女中たちはあんじー等の盃に酒を注ぐ。開口一番、玉三郎が乾杯の音頭を取る。

「此度は我等狐族の要請に応じて頂き、誠にありがとうございます。今後も良きお付き合いを願いたく、宜しくお願い致します。では、乾杯を」

「乾杯!」

「乾杯」

 二人は盃をぐっと飲み干した。実はあんじーも鎌鼬も結構な酒好きなのである。余談だがあんじーの好物はマタタビ酒である。アヤカシ探偵社の利益は殆ど酒代に消えている、らしい。

「ほう、甘口じゃが旨い酒じゃな」

 あんじーの感想に玉三郎は微笑して答えた。

「こちらは月の桂なる酒蔵が出しております把和游大吟醸で御座います」

「こっちのは辛口だが結構イケるぜ」

「辛口がお好みかと、そちらは石川県は住吉の銀に御座ります。樽の香りが心地よい純米酒です」

 あんじーも鎌鼬も興が乗って来て酒が進んだ。目の前の料理も旨い。玉三郎は女中達に舞いを舞わせ、更に宴を盛り上げた。宴席は延々と続き、遂に二人は酔い潰れて寝てしまった。


「起きておるか、鎌鼬」

「おうよ、あんじー」

 二人は実は寝込む振りをして相手の策略に乗っていたのである。あんじーも鎌鼬も酒豪なので簡単には酔う事はない。

「じゃが何の目論見で儂等を酔わす必要があったんじゃ?」

「確かに。何も仕掛けてこないのは腑に落ちねえな」 

 鎌鼬が立ち上がろうとしたが、腰が抜けて起き上がれない。

「おかしいな、これしきの酒で動けなくなる程ヤワじゃねえんだが」

 あんじーも動こうと藻掻くが思うように身体が言う事を聞いてくれない。

「はて、面妖な。この様な事は今まで一度も無かった筈じゃが」

 二人がぐったりと横たわっているその時襖が開いた。玉三郎が元の神主の衣装で現れたのである。

「あんじー殿、お目覚めは如何かな?」

 あんじーは玉三郎をキッと睨んだ。

「儂等に何をした?結界も無く力を奪うとはどういう事じゃ」

 玉三郎は氷の様な冷たい目で二人を見やった。

「申し訳ありませぬがお二人にはご病気でお亡くなりになった事にさせて頂きます。」

 あんじーは油断して罠に嵌ってしまった事を後悔した。

「結界も張らず料理や酒に毒も入っていなかったのにどうやって儂等を弱らせたのじゃ?」

 玉三郎は白眉の像に向かい袱紗に包まれたまれた塊を持ってきた。

「あんじー殿、此方をご存じか?」

 玉三郎が袱紗を開くと中から群青の石が現れた。目の当たりにしたあんじーは驚愕する。

「そ、それは!」

 玉三郎は冷徹な表情で答えた。

「左様、殺生石です。我が祖、玉藻様の霊が憑りついた岩から出た破片の一部。宴の間ずっと置いてあったのです」

 殺生石。玉藻の前が討たれた後に出来た呪いの石。あらゆる生物を殺してしまうと言われている。無論その呪力は強大で妖怪にも有用である。妖力の強い妖怪であれば即死する事は無いが徐々に力を奪われ最後には死滅する程の力を秘めている。

「まだるっこしい真似するじゃねえか。稲荷山に入った時に殺っちまえばいいものを」

 鎌鼬の捨て台詞に玉三郎は語気荒く返した。

「それでは日本中の妖怪を敵に回します!白眉様のご加護があっても我等は後世まで肩身の狭い思いをするでしょう。最悪滅ぼされてしまうかも知れませぬ」

 この時点であんじーは合点がいった。

「白眉と言ったな。成程、奴の命令で儂等を貶めた訳か」

 玉三郎は失言を悔やんだ。開き直る玉三郎。

「その通り。白眉様よりあんじー殿の暗殺命令が下され、実行に及んだのです。不本意ではありますが神の勅命とあらば逆らう事はできませぬ」

「お主の力があれば儂と対等に渡り合えるものを。妖怪組合の手前殺生石で病死したように見せかけて納得させようと言う魂胆か。中々の妙案じゃな」

 呑気なあんじーに苛立つ鎌鼬。

「何を納得してんだ!俺ら殺されかけてるんだぞ」

「玉三郎殿、不本意と申したな。それは本心では無いという事か。お主の書状の言葉もあながち嘘ではないと」

 玉三郎は本心を見透かされて動揺した。

「我等の神白眉様のお言葉は絶対なのです!従わなければ日本中の狐は尽く滅ぼされてしまいます」

「じゃろうな、あ奴は冷酷無比な神じゃからな」

 あんじーの言葉に苛立った玉三郎は部下の狐達に命じた。

「この者共を地下の石牢に閉じ込めて置け!殺生石も忘れずにな!」

 抗う力も無いあんじーと鎌鼬は狐達に引き摺られ殺生石と共に石牢に幽閉された。


 東山、アヤカシ探偵社。あんじーと鎌鼬が消息を絶って二日が過ぎていた。不安で居た堪れない爽・箔・巳之助は小豆洗いを呼び寄せ相談した。

「家を空けた事は今までもよくあるんだろう?あんじーの事だ、その内ふらっと帰ってくるわい」

 小豆洗いの言葉に爽は泣きながら訴えた。

「何も言わずに出て行った事は今まで一度も無かったんだよ!二日も戻らないなんて絶対何かあったんだ」

「ふうむ、お前達ではなく誰かに言伝て行ったって事は無いか?」

「ぬこ神は知らないって。爺ちゃん婆ちゃんにも聞きたいけどオイラ達、人には動物にしか見えてないから。言葉も通じないし」

「そうだったな…では家人に尋ねてみるか」

 小豆洗いは母屋に向かった。

「御免なさいよ。俺は小豆、あんじーの古くからの知り合いなんだが久し振りに訪ねてきたら留守らしい。何処へ行ったか知らねえか?」

 老夫婦は笑顔で答えた。

「それはそれは、ようお越し。けども何処へ行ったかは知らんのです。何時もの事やから気にも留めておらなんだんですが、確かにここ最近見掛けまへんなあ」

 翁の返答に小豆洗いは更に質問。

「最後に見掛けた時何か変わった事は無かったか。何か言い残したとか」

 老婆はふと小狐の事を思い出した。

「そう言えば、この間あんじーに巻物を届けにきた賢い小狐が。よく躾けられておりました。お使いが出来るとは」

 老婆の言葉にピンときた小豆洗いは不安顔を隠せなかった。

「そうかい。仕方ないな、出直す事にするわい」

 早々にその場を立ち去った小豆洗いは急ぎ三匹の元に戻った。

「一大事だ、統領を呼んでくれ」

 三匹はキョトンと小豆洗いを見詰めた。

「どうしたのおじちゃん。爺ちゃん婆ちゃんは何て言ってたの?」

「おそらくあんじー達は伏見の稲荷山だ。狐達に囚われているんだろう。頭目の玉三郎はとんでもない大妖怪なんだ、あんじーと言えども勝てるとは限らん」

「えええっ⁈」

三匹はハモったかの如く驚嘆。

「アンジー達が消息を絶って二日と言ったな?急がないとアンジー達が危ない!統領に連絡を!」

 小豆洗いの怒声に慌てて伝書烏を妖怪会館に向け飛ばした。爽・箔に唯一出来る通信手段だったのである。

妖怪会館は大山崎にあるのだが烏の速さなら二十分とかからない。待つこと一時間余り、大烏に乗った統領がアヤカシ探偵社に現れた。着くなり小豆洗いに問うた。

「伝書烏の伝言がよく判らん。こ奴らでは話にならんのでお前の口から事情を説明してくれ」

小豆洗いはもどかしそうに事の顛末を話した。

「狐が巻物を持って此処に現れたそうだ。その書状を読んでから所在不明になったらしい。となると伏見稲荷の玉三郎絡みとしか考えられん」

 統領は暫く考え込んでいたが意を決した。

「小豆洗いの言う事で間違いないじゃろうが問題は如何にして稲荷山に潜入するか…奴の結界は神クラスの強力なものじゃ。近づくのも容易ではないぞ」

 小豆洗いも爽箔も黙り込んでしまった。その時、巳之助が突然名乗り出た。

「僕なら出来るかも」

「馬鹿をいうな、小さなお前に何が出来るというんだ」

 小豆洗いは窘めたが統領の反応は違った。

「いや良いアイデアかも知れんぞ。元来野鎚は妖怪ではなく蛇の一種じゃ。身体能力は高いが妖気や妖力は無い。玉三郎の結界は参拝者には影響せぬようじゃから動物なら効かぬのかも」

 小豆洗いが反論。

「仮に侵入できたとしてどうやって結界を解くんだ?巳之助では出来ることなど知れてるぞ」

 統領が答えた。

「稲荷山を覆うほどの結界となれば呪符を使っているのじゃろう。その内の一つでも取り除ければ効果は消える筈」

 皆の顔が明るくなった。

「ならば早速稲荷山に殴り込みじゃ!見ておれ、玉三郎め。タダでは済まさぬぞ」

 統領が釘を刺した。

「相手はあの玉三郎じゃ、我等で太刀打ちできるとは限らんぞ」

「そんな事は百も承知!取り敢えずあんじーを助け出せれば何とかしてくれるわい」 

 小豆洗いの呑気な考えに統領は苦笑した。

「左様か。ならば稲荷山へレッツゴーじゃ!」

 統領は大烏に、小豆洗いは爽・箔・巳之助とぬこ神の背に跨り伏見稲荷大社に向け出発した。


伏見稲荷大社大鳥居前。統領は巳之助に何度も言い聞かせた。

「よいか。見張りの狐達に気付かれぬ様、藪を縫って進むのじゃ。呪符の在り処はお前の首に巻いたセンサーが近づいた時に警告音で知らせてくれる。くれぐれも用心して進め。では、行ってこい」

「あい」

 巳之助は統領の一言で勢いよく飛び出した。境内を避けて参拝客の来ない住宅街から林に入る。統領の予想通り野鎚の巳之助には結界の効力は無効のようである。前述の通り野鎚は厳密には妖怪ではないから当然なのだが身体能力は非常に高く、超高速で移動する。奥に進むと狐が警戒していたが小さい巳之助は叢に隠れてやり過ごす事ができる。移動・隠遁を繰り返しながら結界の呪符を探す。三ツ辻から参奉所に向かう途中で巳之助の首のセンサーが鳴り出した。前進すると警告音の間隔が短くなる。巳之助は一本の椚の前に到達した。どうやらこの木の何処かに札が貼られているらしい。根元には見当たらないので樹上に登ってみる。地上から七メートルの辺りに呪符はあった。巳之助は統領に教えられた言葉を復唱した。

「破邪顕正!」

 巳之助はそう叫びながら札に噛み付き、引き剥がした。呪符はボロボロに裂け、分断された。と同時に玉三郎の結界が解ける。その事は統領等のみならず狐達も知るところとなった。すぐさま警備の狐が椚の周りに集まって来る。十匹以上の狐達に包囲された巳之助は逃げ出す事が出来ず椚の天辺で怯えていた。狐は椚の周りを徘徊している。

「助けて!おっちゃん」

 巳之助が叫んだその時、一迅の突風が狐達を吹き飛ばした。

「もう大丈夫や。よう頑張った」

 空を見上げると辻神の姿が。巳之助は泣きそうになった。更にぬこ神が地上に降り立った。ぬこ神は咆哮で狐達を威嚇する。狼狽する狐達。ぬこ神は口から火炎を吹き、狐を追い散らした。

「巳之助、よくやった!大手柄だぞ」

「皆来てくれたんだ」

 嬉しそうな巳之助にぬこ神が答えた。

「我々だけではない、京近郊の妖怪達が四方から稲荷山に集結しているぞ。北から大百足、東に牛鬼、西は土蜘蛛。正面は統領率いる妖怪連が攻め入っている」

 巳之助はホッとしたせいかぬこ神の背で気絶するように寝入ってしまった。

 

 一方、狐御殿の地下牢。あんじーと鎌鼬は絶命寸前であった。目も虚ろなあんじーの前に彦座が現れた。

「如何様か?儂等の亡骸を確かめにでも来たか?」

 あんじーの掠れ声には答えず彦座は牢の鍵を開けた。

「今、稲荷山は大勢の妖怪達に攻め込まれています。虫の良い話ですが何とかあんじー殿に止めてもらいたいのです」

 あんじーはふっと溜息をついた。

「本当に虫の良い話じゃわい。まあ儂もこんな古典的な策に嵌るとは…真剣に妖狐族と妖怪組合との講和を望んでいたのじゃが」

「それは我等も、玉三郎様も同じ気持ちです」

 彦座の返答に語気が荒くなるあんじー。

「ならば何故儂等を貶めるような事をする⁈」

 彦座は低いテンションで答えた。

「あんじー様ならばもう薄々お判りでしょう。亡き者にせよとは白眉様からの勅命。玉三郎様は悩んでおられましたが結局は逆らう事が出来ず従っただけなのです」

「やはり白眉絡みか」

 あんじーの嫌な予感が的中してしまったが元より懸念していた事なので然程驚きはしなかった。

「じゃが今までにも言われた事は幾度となくあったのじゃろう?此度決起したのは何故じゃ」

 あんじーの疑問に彦座は淡々と答えた。

「その通りです。白眉様のあんじー様抹殺司令は過去何度かありました。白眉様は突然思い出したかの様に言い出されるのです」

「実行に移さぬとタダでは済まぬじゃろう」

 あんじーの問いに彦座は項垂れながら問い返した。

「玉三郎様のお名前に思い当たることはございませんか?」

「そう言えば玉三郎と名乗るからには兄弟がおるのじゃろう。玉太郎とか玉次郎とか…」

「ちょっと名前は違いますが仰る通りです。玉三郎様には兄上の玉一郎様、玉二郎様がおられたのです」

「はて?ならば何故玉三郎殿が頭首に?」

 彦座は悲しそうな目で答えた。

「狐御殿に来られる際に大きな狛狐をご覧になったでしょう?」

「おお、立派な狐像であったな…?まさか⁈」

「左様でございます。右手が玉一郎様、左が玉二郎様でございます」

 あんじーは絶句した。

「白眉の命令に逆らって石像に変えられたのか。何と惨い事を」

「お二人共とてもお優しい立派な方でした。白眉様の無茶振りにも逆らうのではなく上手に躱されていたのですが、白眉様もことあんじー様の事となるとムキになられ取り付く島もないのです。抹殺を言い出された時は何を言っても聞き入れて貰えなかった。玉一郎様はその度抗議されていたのですがある時玉二郎様があんじー様の功績を評価されるような発言をされて。怒りを抑えきれなくなった白眉様はお二人を石に変えられてしまったのです。玉三郎様の悲しみは此方から見ても悲痛なほどでした。長らく落ち込まれていたのですが兄君達を讃える為本殿前に守護神として祭られました。此度は従わなければ日本中の狐を殲滅する、と仰られて。玉三郎様にとっては苦渋の決断だったのです」

 彦座の話に申し訳なさそうなあんじー。

「何と儂が石化された原因であったか…誠に申し訳ない」

 彦座は気を取り直してあんじーに告げた。

「そんな事より今は争いを止める事が先決です。あんじー様、急ぎましょう」

「うぬ。鎌鼬、動けるか」

 鎌鼬は二人のやり取りを横たわりながら聞いていたがあんじーに声を掛けられてむっくりと起き上がった。

「ゆっくり休めたからな、絶好調だぜ」

 息も絶え絶えなのに強がる鎌鼬を連れて彦座とあんじーは麓の統領達の元に向かった。


 南方の統領軍は玉三郎率いる妖狐本隊と対峙していた。玉三郎の妖力は凄まじく妖怪達は攻めあぐねていたが統領の強力な神通力でなんとか対抗していた。空は禍々しい暗雲が立ち込め、暴風が渦巻いている。玉三郎は普段の美麗な面立ちとは打って変わって凶暴な妖狐の本性を剥き出しにしていた。張り詰めた空気の中、彦座に担がれながらあんじーと這う這うの体の鎌鼬が現れる。

「おお!無事であったかあんじー」

「すまぬ、統領。絶命寸前であったがこちらの彦座殿の助けで解放されたのじゃ」

 彦座は統領に深々と頭を下げた。

「お初にお目にかかります、玉三郎様の小姓を務めております彦座と申します。此度は我が主君がご迷惑をお掛けして申し訳ありません。この通りお二人はお返ししますのでどうか矛をお納めくださいませ」

 統領は暫く考え込んでいた。その間も彦座は頭を下げたままである。

「彦座殿、頭を上げてくだされ。確かに二人が無事なら無下に争う事は無いが当の玉三郎はどう出るかのう。プライドの高い奴のことじゃ、引っ込みがつかんじゃろう」 

 彦座は必死の形相で訴えた。

「ならば私めが全力で説得いたします」

 あんじーが割って入る。

「待たれよ、儂に考えがある」

 統領が尋ねた。

「どうするつもりじゃ」

「元はと言えば儂と白眉の諍いが原因じゃ。儂とあ奴で決着をつける」

 統領は眉間に皺を寄せた。

「じゃが今のお前では対等に戦う事もできぬじゃろう」

 あんじーはにやっと笑って見せた。

「心配めさるな。爽、成龍丸は持っておるか」

 爽は懐から小玉を取り出した。

「あるよ、はい!あんじー」

 あんじーは成龍丸を受け取りぐっと飲み込んだ。すると気力が漲り自然に戦闘モードに変身した。蛟を一瞬で龍に成長させる力は弱ったあんじーにとっても効果は絶大である。

「どうじゃ、活力が戻ったぞ。では行って参る」

 呆気に取られる皆を尻目に意気揚々と向かって行くあんじー。

「玉三郎殿、話がある」

 玉三郎は変身したあんじーに驚いた。美少女化した姿はまるで別人だが妖気はあんじーそのものである。

「貴様あんじーか?その姿は」

「驚くのも無理はない、儂の戦姿じゃ。一つ提案がある。このままでは双方に多大な被害が出る、お主とて同胞が死傷するのは本意ではないじゃろう。元はお主と儂の事情から起きた事、一対一で決着を着けぬか。儂を討ち取るも良し、お主が負ければこの件から手を引け。それなら白眉に対しても言い訳が立つじゃろう」

 玉三郎は一瞬沈黙したが直ぐに返答した。

「良かろう。私も貴様とは差しで戦ってみたいと思っていた。八岐大蛇を退治した剛腕には興味がある」

 あんじーは苦笑した。

「いや、儂が倒した事になっとるとは…尾鰭が付き過ぎとるわい。にしても乗ってくれるとは好都合じゃ。では!了承したとみてよいのじゃな?」

 玉三郎は大声で答えた。

「承知!良いか皆の者、これは私とあんじーの勝負じゃ。一切手出しするでないぞ」

 狐達は一様に後退りした。二人を囲むように遠巻きに眺めている。あんじーはパンダ・ポシェットからミニチュアのデッキブラシを摘まみだした。天に翳すと見る見る大きくなり二メートル程の長さになった。あんじーは手前に振り下ろし、中段に構える。

「いざ!参る!」

 玉三郎も一刃の長刀を振りかざした。怪しい光を放っている。さぞ曰くのある妖刀なのだろう。玉三郎は大上段に構えた。二人は火花を散らし対峙している。先手を打ったのはあんじーの方であった。猛ダッシュで突進するなり、地面を蹴って宙高く舞い上がった。そのままデッキブラシを振り翳す。玉三郎は弧を描いて受け止める。跳ね返されたデッキブラシだが傷はおろか罅一つ着いていない。

「妖刀村正の一撃を受けて無傷とは!何と言う強靭さ!」

 あんじーは不敵な笑みを浮かべた。

「驚くのも無理はない、コイツはお前の主君・白眉の尾の骨と毛でできておる。儂が戦った際の戦利品じゃ」

 驚く玉三郎。えもいわれぬ怒りにその形相は更に険しくなった。

「白眉様の天敵め!亡き者にしてくれる‼」

 玉三郎は村正を上段から振り下ろした。あんじーはデッキブラシで跳ね返す。凄絶な剣戟が暫く続いたが遂に衝撃の瞬間が訪れた。あんじーは打ち合った際にデッキの先に付いた白眉の毛先で白刃を刷いた。刀身はその妖力により三分の二が削除され消失してしまった。唖然とする玉三郎。怒りに震え、村正を投げ捨てた。

「もう容赦出来ぬ!」

 玉三郎は上衣を脱ぎ捨て空に放った。指を組み呪文を唱えると辺り一面に白煙が巻き上がる。煙の中から現れたのは三本の尾が生えた巨大な銀狐であった。その姿を見たあんじーは玉三郎を睨みつけた。

「ならば儂もこの姿では礼を欠く。本気で相手せねばのう」

 あんじーも袈裟に掛けたパンダ・ポシェットとデッキブラシを外し地面に落とした。

「猫又変化!」

 大声で叫ぶと爆炎が起こり猫又本来の姿のあんじーに変身した。三毛猫に見えるが禍々しい妖気を放っている。当初普通の猫のサイズであったが徐々に巨大化、玉三郎に引けを取らない大猫に。

「みぎゃあああああああああ」

 大声で叫びながら玉三郎に襲い掛かった。玉三郎は身を躱し尾で払いのける。跳ね除けられたあんじーは身を翻し猫足でフワッと着地。玉三郎はあんじーに向かって裂けた口から爆炎を吐いた。周囲が業火に包まれたが炎は何故かあんじーを避けて流れていく。

「面様な…何をした?」

 あんじーは答えた。

「風刃の術を使って空気の楔を設けたのじゃ。儂に火炎の術は効かぬ」

「何と!ならば此方はどうだ」

 玉三郎は三本の尾の真ん中を振るった。物凄い冷気が辺りを覆い火災を消したかと思ったら猛吹雪となり一面氷の世界となった。あんじーも一瞬にして氷柱と化したが、氷結した端から蒸気が立ち始めあっという間に融解してしまった。中から出て来たあんじーは湯気を纏い紅潮している。ならばと玉三郎は地面を前足で叩き地割れを起こした。裂け目から昇竜の如き水流が吹き上がりあんじーを襲う。あんじーは切れていない尻尾の方を猛スピードで回転させ竜巻を起こした。水流は竜巻に吸い込まれ天高く昇りやがて雨となって地表に降り注いだ。玉三郎は残りの尾の一本をを震わせ暗雲から落雷を起こした。が、雷撃はあんじーの直前で不自然に湾曲し逆に玉三郎に向かって来た。玉三郎は寸前で飛び跳ねて避ける。雷撃は地面に当たり衝撃音と共に黒焦げの跡を残した。

「貴様の小手先の術など何をやっても効かぬ。まだ判らぬか」

 あんじーの言葉に玉三郎は覚悟を決めたようであった。身体全体から妖気を放ち向かって来る。だが到達する前に歩速は落ちやがて突っ伏して倒れた。

「どういう事だ。力が出ない。あんじー、貴様の仕業か」

 あんじーは既に戦闘モードの美少女姿に戻っていた。

「怒りに感けて注意を怠っていたようじゃな。貴様の後ろ足をよく見るのじゃ」

 玉三郎は左後ろ足に何か纏わりついているのを見た。太い糸である。その先に石が括り付けてあった。

「こ、これは殺生石!」

 恐怖する玉三郎。

「貴様の妖力は本来なら儂とておいそれと防げるものではない。じゃが気付かぬ内に殺生石の効力で弱められていたのじゃ。今では立ち上がる事すらできぬのじゃろう?」

「おのれ、神聖な決闘に卑怯な策を弄するとは!」

 あんじーは玉三郎の苦言をそのままそっくり返した。

「それは貴様も同じじゃろう。その姑息な手段を真似たまでじゃよ。さて、このままじゃと天下無双の玉三郎様もあの世行きじゃ。どうされる?」

 玉三郎はあんじーを睨んだ。

「どうするとはどういう事だ」

「どうもこうもない。玉三郎殿、このまま死を待つか若しくは妖怪組合と和平を結び妖怪組合に属するか。二つに一つじゃ」

 あんじーの提案に玉三郎は考え込んでしまった。

「だが白眉様が黙ってはいまい。我等日本の狐族はお終いだ」

「果たしてそうかな?貴殿の使命は儂に敗れた事で失敗しておる、その責めは負うかもしれぬが実行したのもまた事実じゃ。逆らった訳ではない」

「その様な詭弁があのお方に通用するものか」

 彦座が会話に加わった。

「そんな事はありませぬ玉三郎様。真摯な態度でお願いすれば白眉様もきっと聞き入れてくださいます。何より貴方様が生き延びる事の方が私にとっては大事なのです」

 玉三郎はその場に彦座が居合わせた事に驚いた。

「そうか、お前の仕業か…あんじーを手引きして殺生石を使わせたな」

 彦座は初めて玉三郎に反論した。

「現状をご覧ください。このまま戦いが進めば双方が滅ぶか、悪くすれば我等は全滅。既に大勢の負傷者を出しております。この戦を打開する為にはこの方法しか無かったのです」

 あんじーは口添えした。

「その通りじゃ。目を覚ませ、玉三郎殿。このままでは本当に狐族は滅んでしまうぞ」

 玉三郎はガクッと肩を落とした。

「了解した。和平を受け入れよう」

 この時、全てが決着した。統領の指示で合戦は中断、妖怪達は各々引き上げていった。あんじー達は統領と共に狐御殿に招かれ、改めて狐族と講和条約を締結。これによって妖狐が新たに妖怪組合の一員となった。

 


 数日後。東山のアヤカシ探偵社に彦座と玉三郎が挨拶に訪れた。迎えたあんじーに玉三郎がお辞儀する。

「先だっては大変御迷惑をお掛け致しました。改めてお詫び申し上げます」

「まあ、そう気に召さるな。確かに酷い目にあったが目的である和平も結べたことじゃし、終わり良ければ全て良し、じゃ。ところで気になるのは白眉じゃが如何申しておった?」

 彦座がこほん!と咳をする。玉三郎は気まずそうに話した。

「白眉様に経緯を報告したのですが…主君は命令が成功するとは端から思っていなかったようです。私が失敗すると踏んでいた様で、その事にお咎めは無かったのですが妖怪組合に入った事は気に障られたらしく、私は神使から外されてしまいました。ですので日本の狐族は神の眷属では無くなり白眉様の加護を受けなくなります」

 あんじーは笑って答えた。

「なあに、奴の加護は無くても日本中の妖怪達が貴君等の味方じゃ。いざとなれば立ち上がってくれる。心配無用じゃ。ところで、せっかく訪ねて来られたのじゃ、この間のお返しに宴会をしたいのじゃが」

 彦座が苦い顔をした。

「酔ったところを不意打ちは勘弁してくださいよ」

 あんじーは高笑い。

「違いない。儂も気を付けよう」

 三人の笑い声が東山の空に響き渡った。




             ーアヤカシ探偵社。第七部・完ー




 

 











 


 

 








 


地名・固有名称等なるべく事実に沿って書いていますが勘違いしていたら御免なさい。また玉三郎と言う名は玉藻の前・玉姫神社から発想したもので某歌舞伎役者とは関係ありませんので悪しからずご了承ください

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