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『短編』心変わり

作者: Kaito

初めまして、kaitoと申します。

誤字、脱字、読みにくいなどがございましたらご指摘いただけると幸いです。

 起きるたびに涼は憂鬱だった。溜息をつきながらのっそりと身体を起こし、洗面所で身なりを整え足早に家を出た。

目的地は近所のコンビニ。買い物を行くわけでもなく、働きに行くのだ。一歩一歩目的地に近づくたびに足取りが重くなっていく。もう何日目になるか分からないほど働いているのだから憂鬱にもなるというものだ。


(もう辞めるって言おう…)


 これ以上働いたら本当に倒れてしまうだろう。今までよくやった。もういいだろう。と思いながら店のバックルームへと入った。


「おはようございます…」

「涼ちゃん。おはよー。補充などは終わってますー」


 簡単な挨拶と引き継ぎを受け、周囲を見渡すと本来居なくてはいけない人が居ないことに気づく。


「店長は?」

「なんか、社員同士のミーテングだと言ってました」


 ただでさえ人が居ないのになぜそんな無駄な事に参加してるのか…。そんな事よりも店の事を優先すべきじゃないのかと若干、苛立ちを感じた。


「うぃーっす」


 後ろの方から声が聞こえ振り返ると若い男性が出勤してきた。今日の相棒だった。


「おう、おはよ。今日もよろしくな」

「はい。おなしゃーす」 


 無事に相棒が出勤してきた事に安堵し、二人はタイムカードを切って仕事が始まった。

 今日のシフト時間は忙しい時間帯で最初から修羅場だった。


「以上四点で五百六十円となります」

「ありがとうございましたー」


 次々とお客様を対応しながら隣のレジを見ると、相棒も特に問題がなくスムーズに対応しているようだった。

 それに安堵し、涼も自分の業務に集中する。

 今日は平和で終わりそうだと思った時に事件は起きた。


「ふざけんじゃないよ‼」


 突然、店内に大きな怒号が響き渡る。集中していた涼は我に返り、手を止め振り向く。


「申し訳ございませんが。ルールですので…」

「ルールだか知らねぇよ。ガキが‼」


 どうやら、隣のレジでトラブルが起きたらしい。


「…お客様。申し訳ございませんが少々お待ちください」


 涼は自分のお客様にそう告げ、隣のレジへと向かう。


「おい、どうしたんだ?」


 小声で相棒に問いかける。


「いや、お酒を売る前の年齢確認にタッチしてもらえなくて…」


 この一言で涼は察した。

 酒類などを買うときは認証パネルにタッチして販売する。これは法律で定められている。 その法律を守らなければ販売が出来ないと言うルールだった。


「俺が対応するから」


 そう言って相棒と交換し対応を始めた。


「お客様。年齢確認を承認していただかなきゃ販売できないんですよ」

「見た目でわかんねぇのか? 未成年に見えるのか?」

「いえ、見た目とかの問題ではなく、一般酒類小売業免許と言う法律があり、それを守らなきゃ行けないんですよ」

「うるせぇな。そんなこと知らねぇよ。さっさと売れよ」


 これ以上話をしても平行線になることは長年の経験で分かっていた。

 それに、その老人ばかり対応するわけにはいかないのだ。今でも後ろに多くのお客様の行列が出来ていた。

 涼は万引き防止のために老人が買おうとしていたカップ酒を後ろの棚へと移動させる。


「申し訳ございませんが販売できません。では、次のお客様どうぞー」


 きっぱりと断り、次のお客様の会計をはじめた。


「おい、無視してんじゃねぇよ‼」


 ドンとテーブルを叩きながら老人は叫ぶ。


「他のお客様にご迷惑がかかるのでご遠慮ください。ありがとうございましたー。次の方どうぞー」

「お前じゃ話になんねぇから、責任者呼べよ‼」

「私が今の時間帯の責任者です。はい、ありがとうございましたー。次の方どうぞー」

「お前みたいな奴が責任者とか世も末だな。もう二度とこないからな‼」

「はい、ありがとうございましたー」


 顔を真っ赤にして叫んで店を出る老人に機械的に答え、涼は他のお客様の対応に急いだ。 老人がいなくなってからはスムーズだった。足りなくなりそうな揚げ物を揚げるなど、同時進行をし次々と効率的に仕事をこなしていくと、ようやく最後のお客様の対応になる。


「大変でしたね…」


 バーコードを読み取っている時にふと話しかけられる。


「いえ、慣れてますから」


 そう短く答え、そのお客からお金を受け取る。


「頑張ってくださいね。ありがとう」


 釣り銭を受け取りお客様はそう呟き、店を出た。

 まさかお客様から感謝されるなんて思わなかった。退店の挨拶も忘れ、レジの画面をぼーっと見ていた。


「涼さん。本当にありがとうございました‼ 助かったっす‼」

「あ、ああ…別に気にしなくてもいいよ。よくあることだから」


 相棒の声で我に返り、涼はそう言って時計を見た。もうそろそろ退勤の時間だった。


「そろそろ退勤だから、引き継ぎの準備をするぞ」


 そう言って二人は退勤の準備を始めたのだった。

 

「おはようございまーす」


 交代時間ちょうどに二人の主婦がバックルームから出てきた。

 流石、主婦。遅刻などせずに出勤してくれた。これで今日の仕事は終了だ。

 涼と相棒は簡単な引き継ぎをしてバックルームへと入ると、ミーテングから帰ってきた店長がパソコンとにらめっこしていた。恐らく今日の売り上げを見ているのだろう。


「お疲れ様です」

「あぁ、お疲れ」


 ぶっきらぼうに答える店長を涼は好きではなかった。更に人使いが荒く、高圧的な人で辞めたいと思う理由の一つだった。


「涼。今日は何かあったか?」

「店長、今日はお酒のパネルを押さなくて文句を言ってきたジジイが居ましたー」


 涼の代わりに相棒が答える。


「んで、対応したの?」

「はい、涼さんのおかげでなんとかなりました‼」

「ふーん…」


 あたかも自分のことのように相棒は報告をし店長は相づちをし涼を見る。


「…分かった。もう上がっていい。二人ともお疲れ」


 表情を変えず店長はそう呟き、再びモニターへと視線を戻した。

 涼は店長の態度が予想外だった。てっきりいつもと同じく『あっそ』などとそっけなく突き放すのかと思っていた。


「ほんと涼さんが居てくれて助かりますよねー」


 相棒が私服に着替えながら店長に話しかける。


「…まぁ、居なきゃ店がまわらないのは事実」


 そんな会話を聞きながら涼も私服に着替える。もう退職をすると言える雰囲気ではなくなってしまった。

 自分が必要とされていると思われている事に嫌な気持ちなど抱くわけもなく、今日も涼は退職する事を言えぬまま帰宅したのだった。

読んでいただきありがとうございました!!


今後、主に2500文字位のショートショートを不定期に投稿させていただきますので、もしよろしければ次回もよろしくお願いいたします。

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