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星守りの手記  作者: 灰鼠
1/1

第一項目

創作小説としては初めての作品です。

目指せ完結、目指せハッピーエンド。

暖かな目で見て下さると嬉しいです。

よろしくお願いします。



麓の住人達の情報を元に作成されたイラストと目の前の実物を交互に見遣り、ベネトナシュは怪訝そうに眉を寄せた。

雪が残る山の中、地元の人間もあまり立ち入らないような緑が深い辺鄙な場所に、小ぢんまりとした一軒家が建っている。外観はさして珍しくもなく大きくもない。年季が入っているためか白い壁には蔦が這っているものの敷地内の雑草は少なく、一人暮らしにしてはきちんと手入れされているように思えた。

家の右側には小さな畑と、その奥には鶏小屋がひとつ。鶏は元気に鳴いていて、左側には水車が取り付けられ、川の流れに沿って豪快に回っている。


「…本当にここなのか?」

「そのはず…なんだけど…」


もっとそれらしい外見を想像していただけに、あまりに特色のない様子にメグレズもやや不安そうに頷いた。



―――まことしやかに囁かれる『守りの腕輪』の噂が耳に入り始めたのは約一年前の事。

曰く、その腕輪を手に夜道を歩いたら妖魔に襲われなくなる。

曰く、その腕輪を手にすると病が軽くなる。


たまたまだろうと言われてしまえばそれまでの、今までであれば何の感慨もなく聞き流していただろう話。だがしかし、今回に限っては無視できない事情が生じて、普段は顔も合わせない元老院と共に会議を重ねる事十数回。何度も言い争って、何度も行き詰った。もういっそ諦めてしまおうかと思った事も数知れず。

そうして、ようやく調査に踏み込んでみれば肝心の作者は不明。名前も性別も、どこから出回っているのかさえ分からないまま。唯一判明している事といえば鉱石の一種、魔煌石が用いられていると言う事だけで、ほとんど評価だけが独り歩きしている状態だった。


四方八方からかき集めた情報を集めて照らし合わせ、やっとの思いでこの最北端の田舎町に作者が居るらしいという情報を掴んだのである。

それを頼りに来てみれば看板すらなく、ここが『守りの腕輪』の工房だと言う確信するものは何もない一軒家があるだけ。これで普通の民家だったらここに至るまでの大変な道のり(物理)がすべて水の泡になる訳で、本人でなかったにしても何か成果を得たいところだ。


ちらり。どちらともなく無言で視線を合わせること数秒。


「ご、ごめんくださーい」


ベネトナシュの性格をよく理解しているメグレズが意を決したように手を上げる。

トントントン、と3回。しっかりと、しかし驚かせないように控えめにノックをする。


「………」

「………」

「………出直すか?」

「そんなぁ…」


たっぷり10秒経過しても扉の向こうは変わらず静かだった。

留守なのだろう。いつまで経っても返答は無く、聞こえるのは鶏の声と水車の動く音だけだ。扉に耳を当ててみても中で何かが動く気配もない。

悲壮感たっぷりの表情でガックリと肩を落とすメグレズに、ベネトナシュは無理もないだろうと心の中で大きく頷いた。


「―――…!」


ふ、と。ベネトナシュが何かに気付いたように振り返り、ある一点をジッと凝視した。

彼の目に一瞬でも冷酷な光が帯び、周囲の空気が微かに揺らいだのは気のせいだろうか。

未だに落ち込んだまま気付いていないメグレズを置いて、スタスタと足取りで今まさに自分たちが通ってきた道の近くまで進むと、迷いなくその茂みの中を覗いた。


「おい、お前」

「ぎゃーーーーーー???!!!!」

「…え、ええ?!」


呆れと絶叫と困惑。三者三様の声が木霊する。


メグレズが慌てて後を追って同じように茂みの中を覗けば、そこには随分ゆったりとした――明らかにサイズが合っていない男性ものと推測できる――灰色の外套を身に纏い、フードを目深く被った人物が木の陰に隠れるようにして蹲っていた。

外套で分かりにくいが華奢な体格と、先ほどの声音からして女性なのだろうと思うが、それにしてはやや幼い印象を受ける。傍らにはホタルオオカミの成獣が寄り添うように伏せていて、突然現れた知らない二人組に驚いたのか警戒しているのか鼻の上に皴を寄せて唸っていた。


「え、ええあのっ、な、なん…?!」


ベネトナシュとメグレズの視線を受けた女性はパニックに陥って、主人の心情を感受した蛍狼はいよいよ牙を剥き出しにして臨戦態勢を取る。獣の威嚇など怖くはないが、それよりも目に見えて女性が目を回していく姿があまりにも憐れで。


「あの、お姉さん?どうか落ち着い「お前、あの家の主か?」…て?」


気遣う声に被せるように発せられた言葉に、メグレズはハッとする。

状況的には可能性はある。だが個人的に「職人」「山奥」「一人暮らし」という前情報でてっきり仙人のような男性と思い込んでいたため、言葉を正しく理解するに数秒を要した。

そろりと視線を戻せば女性は聊か冷静さを取り戻した様子だった。長く重い前髪とフード、二重に隠された双眸は見えないがしかし、困惑気味に揺れているような気配がした。

フードと顔の輪郭の隙間から零れる黒髪がツンと冷えた風に靡く、そんな静寂がしばらく続いた後、


「…そ、そう、ですけど…」


ぎこちなく、そう頷いたのだった。




※※※



―――事は2時間前に遡る。



「…ナナツボシ?」


雪解け間もない時期。ところどころに雪が残り、陽の光に照らされてキラキラと輝いている。

春に近付けば近づくほど荒れる「冬の駄々っ子」がようやく過ぎ去り、一日経るごとに少しずつ温かさを取り戻していく。それでも息を吐けば白く色付き、喉が凍るような冷気に身を震わせる。

そんな極寒の地ではあるが村の人々の生活は変わりなく、今日も街の市場は活気と人で賑わっていた。

そこかしこから煙が上がり、客寄せの声と、地元の人の波の間を子ども達が器用に駆けて行く。


「そうなんだよぉ。もう驚いちゃって!」


いつもお世話になっている店の女店主が頷くと、その話を聞いていたらしい他の客も大いに同意して会話に加わった。


「女神さまと同じ真珠色の髪。いやぁ、あれはこの世界の何よりも美しかったなぁ」

「私はあの角だね!まるで宝石のようにキラキラしていて…もっと近くで見てみたかったわ」

「はぁ…そうですか」


憧れと恍惚の表情で語る二人に対し私は曖昧に返事を返した。

それに気付いていない三人の会話は更にヒートアップして、会計待ちをしていただけだというのに、また面倒なことになった…と隣に寄り添う獣と視線を合わせて苦笑を零した。


ナナツボシ―――創世神話に出てくる女神の従者の総称だ。

まだ人間と神との境が曖昧だった頃の話。

八百万の災厄に見舞われ、他の神々が匙を投げて姿を消して行く中で唯一、この世界を救おうとした幼い女神がいた。

その名はポラリス。主神アマツヌシと森の女神レポリスの間に生まれた原始の末娘。

ポラリスは災厄を地の底に沈めると、二度とこのような事が起こらないように大岩で蓋をした後、自身を白い大樹(現在の帝都にある「女神の梯子」)に変化させて大地を縫い留めた。その際に根・幹・枝・葉・花・実・種から自分の姿に似せた7人の従者、ナナツボシを生み出して長い眠りについたのだと云う。

やがて時が流れ大岩は大陸となり、人間が集まり、国が建ち、現在に至る。


国を支える天地の柱と名高い、皇帝と並ぶナナツボシ。

だが彼らの目的はあくまで「女神の梯子」を守る事であり、そのため国内外の政治的なものには完全に無関心。うちはうち、よそはよそを地で行くスタイルは建国から約二千年以上経った今でも変わらない。

確かに国の式典にも姿を見せることは極めて稀であるが、その一方で陰陽寮に属する退魔師達でも手に余るほどの強力な妖魔討伐に協力してくれる事もあると聞く。

これも彼らからすれば単なる業務の一環だとしても「守られている」という安心感は何にも代え難く、それが相成って現在も人々に崇められているのだ。


一方で私は、その伝承や彼らに対してあまり興味を持っていないのである。

研究者だった祖母の影響で探究心は強い方だと自負しているが、何せ彼らの凄さを直に見たわけでもなければ、姿さえも碌に見たことが無いのだ。

こればかりは実感がないという方が正しいかもしれない。


「で、その方々は、どうしてまたこんな田舎町に来たんですか?」

「え?さてねぇ。アタシは遠目で見ただけで………でも何か探してるみたいだったわね」


話が途切れた僅かな隙を狙って多少強引に割り込むと、ハッとした様子の女店主が途端に眉を寄せてそう告げた。お釣りを受け取りながら軽く相槌を打つ。


「(探し物、ねぇ…)」


それは一体どんな代物なのだろう、とぼんやりと考える。

高価なもの?珍しいもの?それとも何か危険なものなのだろうか。あれこれ考えるものの、最近発展し始めたばかりの田舎町に彼らが求めるような物があるとは到底思えない。

せいぜい鉱石が採れる山があるくらいで、それにしても質や量が特出しているわけでもないのだ。


「そうそう、『ここら辺で腕の良い宝石職人はいないか』って」

「え?」

「だから私ヨツバちゃんのお家を紹介したのよぉ」

「っえ?」


全く予想外の方向から衝撃的なカミングアウトが聞こえた気がして思わず荷物を落としそうになった。

爆弾発言の元はふくよかな初老の女性で、唖然と固まる張本人を他所にまるで井戸端会議に参加するかのような気軽さでニコニコと楽しそうにしている。

それは女店主も含めた三人も同じだったようで、今の今まで駒鳥のように動かしていた口をピタッと閉ざし、無言で視線を動かした。視線の先は皆同じだ。


「………、え、私?」


確かに私はこの地で採れる宝石を使って、様々なアクセサリーを作って生計を立てている。しかし技法も形状も他の職人達と大差なく、特に腕が良いわけでもない。

強いて言えばこの土地で採れる鉱石の一部、売り物にならない規格外のモノを小物の装飾品として加工しているくらいだ。際立って取り上げる程の事ではないはずである。

零れた声は情けなく裏返る。自分を指差して問えば、三人の顔色はサッと青くなった。

まさかあのナナツボシの探し人が目の前にいるなど誰が想像できようかという雰囲気で、途端に肩を掴まれる。嫌な予感に頬が引き攣る感覚を覚えた。


「早く帰った方がいいわ!!!」

「えええ…あ、はい、ソウシマス…」


まだ買い物が残っているのに、と反論しかけて止めた。カッと見開かれた目が怖すぎる。

あれとこれをオマケしておくから!ね?!!と勢いのままに商品を渡され、半ば追い返される形で市場を後にした。




……………




「ひ、ひどい目に遭ったわ」

「キューン」


雪の隙間から地面が覗く獣道をザクザクと歩きながら、私は誰に向けるでもなくげっそりと呟いた。

この時期の往復は大変なので可能な限り一回で沢山買い物がしたかったのに、まだ欲しい物が残っている状態で追い出されるとは思いもしなかった。

そんな私を心配そうに見つめた後、獣、ホタルオオカミのハイネは高い声で鳴きながら私の頬に鼻先を擦り寄せた。犬猫が頭突きをするのとは訳が違う力加減だが慰めてくれている事は十分に伝わったので、お礼も兼ねて頭を撫でる。するとハイネは忽ち上機嫌になり、しなやかな尾をルンルンと揺らしながら、深い雪道もお構いなしに軽い足取りで先頭を歩く。

素直な良い子である。


「あれ…?」


ふと、何気なく顔を上げた先に真新しい足跡を見つけて立ち止まる。

足の大きさからして大人と子供だろう。山で暮らすのは自分だけで、この時期では山に入る観光客もいないはずである。

知らない間に住人が増えたのか、自殺願望者か、それとも…。


『―――ここら辺で腕の良い宝石職人はいないか、って』


「あー…」


脳裏に過った嫌な予感に頭を抱える。

あのおばさんの言葉を信じていないわけではなかった。けれどもあの人達のように盲目的に信じているわけでもない。果てしなく面倒臭そうな気配に踵を返しかけるがしかし、戻ったところで追い返されるのがオチである。進むのも戻るのも地獄だなんて、自分が一体何をしたのかと誰に向けるでもなく恨み言を吐き出したくなる。


「……、…仕方ない…」


大きく息を吸って、吐く。若干の冷静さを取り戻した後いよいよ腹を括った。

一般人だろうがナナツボシだろうが客は客である。店にも客にも選ぶ権利はあるとは言え、顔も合わせないうちに選り好みするのは流石に良くないだろう。


実を言えば、ここで知らんぷりをして山菜採りに専念してしまえば相手は諦めて帰ってくれるのでは?と思わないでもなかったが、この冬山の大変さを知っているからこそ出来ない選択であった。

そんな私は他人から見たらなかなか奇妙な性格のようで。以前、麓の茶屋を営む男性に「ヨツバちゃんって文句言いながら面倒事に突っ込んでいくよね。なに、天邪鬼なの?」と言われたくらいには面倒事ホイホイらしい(そんな彼には最近風邪気味だということで苦丁茶(くうていちゃ)を勧めておいた(にっこり))。そんなつもりは毛頭ないが、改善の気配が微塵も感じられないため早々に諦めた十歳の夏。今では懐かしい思い出のひとつだ。

とにもかくにも、ここはさっさと対応してさっさと帰って貰おう。そう結論付けて家の目印である一本杉を目指して大きく歩を進めるのであった。




―――そうして、現在。




「(あぁ~~~いるぅ~~~)」


先ほどまでの決心は何だったのかと自嘲してしまうくらいの速さで膝から崩れ落ちた。

自宅が見えてきた時点で、その前に見慣れない人物が二人立っているのが見えて思わず近くの木に身を隠してしまう。嫌な予感が的中したショックで顔を覆って蹲れば、ハイネが不思議そうな顔をしながらも私の真似をして茂みの影に身を伏せる。暫くして何かの遊びと勘違いしているのか、楽しそうに尾を揺らした。


雪山ではとても目立つ黒い服に、真珠色の髪と、宝石と見間違うほどの美しい角が頭から生えている姿は、少なくとも純粋な人間ではないが妖魔でもないのだろうと伺えた。

話の流れ的に多分、彼らが噂の「ナナツボシ」と呼ばれる者達なのだろう。本当にいたんだ、と良いのか悪いのか判別しにくい感情が沸く。

そろりと茂みの中から顔を覗かせて改めて二人の男女を観察する。兄妹だろうかと思うくらい似通った容姿をしているが、性格は大きく異なるようだった。緑の角の小柄な少女は鶏を眺めたり水車に近づいたりと好奇心旺盛に動き回っているが、紫の角の男性はきょろきょろと視線を動かすだけで先ほどから一歩も動いていない。

時々短く言葉を交わしては首を傾げ、手元に視線を落としている。


「(私、何か悪い事でもしたっけ?)」


再び木の幹に背中を預けて小さく溜息を吐く。

何度も言うがこの田舎町に文字通り住む世界が違う人々が求めるような物はない。となれば次に考え付くのは悪い方向…犯罪の線だった。だが誰かが何かをやらかしたという情報なら烈火の勢いで瞬く間に広まるはずである。それがないということはやはり相変わらず平和な町なのだ。

町の住人でないなら誰が?…私が?と結論に至った訳である。作成数も材料も技法も国の定めた商法に則っていて、それを破った記憶はない。

―――うんうんと思考の海に沈んでいく私は、すぐそばに来る気配やハイネが緊張気味に顔を上げた事に気付くはずもなく。


「おい」


聞き覚えのない声がした。低く、少しだけゆったりとした声が降ってきた。すなわち覗き見がバレてしまった訳である。

ドッッ!!と、冗談抜きで心臓が爆発して口から飛び出るんじゃないかと思った。

肩どころか全体が飛び跳ねたような錯覚に陥りながら、弾かれる勢いで振り返れば気だるそうな青紫色の双眸と目が合う。あ、目の色は角の色と同じなのかと一周回って冷静に考える自分がいた。

混乱のあまり吐き出しそうなほど脈打つ心臓を何とか抑え込むが効果は薄く、意味もなく身振り手振り、言葉にならない声が零れるばかり。そんな私の様子にハイネが目の前の奴ら=敵という考えに至ったのか、あまり聞かない唸り声を上げながら身を低くしてすっかり臨戦態勢を取っていた。

ああ、違うんだ相棒!これは私の自業自得であって、この人たちは悪くないんだ!!


「お前、あの家の主か?」


オロオロあわあわと軽いカオスになっている現状を気にも留めず、男性は質問を投げかける。

それが自分に向けられた問いなのだと気付くのに数秒、男性の視線が動くことなく向けられていると気付いて数秒。


「…そ、そう、ですけど…」


カラカラに乾いた喉の奥から返答を絞り出して、ぎこちなく頷いた。





【邂逅】


…next…


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