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5分で読める短編作品 任務の後に~異能者達の日常~

作者: かさかささん

 寒い。


 ブルブルと身体を震わせることで、僅かでも寒さから逃れようと必死な冬。


 そんな中、どちらも黒いジャンパーを羽織っている男女は人通りの少ない凍えた商店街を歩いていた。


「あっ」


 そう言って女が立ち止まると、男も釣られて立ち止まる。すると目の前には『新発売!』と書かれた目立つポップと共に、ホカホカの肉まんの姿。ふんわりと暖かな匂いに対し、自然と食欲を掻き立てられる。


「……ねぇハン君」


「何ですベイカさん?」


 物欲しそうに肉まんを見つめたまま、女は男に問いかけた。


「今こそハン君の能力……使えないかな?」


『半力体質』


 相手の能力を半分にさせる力。ハンの能力だ。


 そんなハンの特殊能力を把握している女はベイカ。彼女は『倍力体質』の持ち主である。その名の通り相手の力を二倍にする力である。


 異能を持つ二人は、とある組織のエージェント。同じように異能を持つ相手や、特殊な力を持つ魔物。異怪を撃退するのが主な任務だ。能力の相性が良いハンとベイカは、パートナーとして任務を共にすることが多い。今も任務を終えて本部に報告に戻る所だった。


「ハン君の力で肉まんのカロリーだけ半分に出来ないかな~、なんて」


「あっ、その……すみません。流石にそれは」


 どこか申し訳無さそうに、ハンは答えた。


「あはは、ハン君は真面目だなぁ。冗談だよ」


 そうは言いつつも、内心ちょっとだけ期待していたベイカは「はぁ」と残念そうなため息。


 組織での経験も、実年齢もハンより少しだけ年上の女性。なのに今は子供の様に肉まんを買おうか買うまいかウンウンと悩んでいる姿を見て、ハンはどこか心が和らいだ。


「うーん、おいしそうだなぁ」


「まぁまぁでしたよ」


「えっ?」


 肉まんを一心に見つめていたベイカが、ハンの言葉で振り返る。


「だってこれ新発売だよ!」


「先週から売ってました」


「それでもう食べたの?」


「ほんの七回くらいです」


「毎日食べてるじゃん! それ全っ然まぁまぁじゃないよ完全に肉まんの虜だよ!」


 ハンがすでに食べていた事に驚きつつも、余計に肉まんへの興味が沸いて来てしまったベイカは、すぐさま財布を取り出して肉まんを購入した。


 ホカホカと湯気が立つ大きな肉まん。きっと中にジューシーな脂の旨味が濃縮されているのではと言わんばかりの期待の肉まんを手にしただけで、ニコニコ顔のベイカ。


「さーてと、それじゃあ私の能力でカロリーを半分にしちゃおうかな?」


「えっ、ベイカさんの力は二倍にする能力じゃ……しかも食べ物相手じゃ異能の力は――」


「はいあーんして」


 パクッ。


 熱い。


 突然ハンの口元に高温のアチアチ肉まん。それを差し出していたのはベイカ。してやったりと言わんばかりの笑みで、半分にした肉まんをハンの口元に押し込んでいた。


「これぞ本当の半力体質だ。なんちゃって」


 悪戯な笑みを浮かべて、半分こにした肉まんを食べ始めるベイカ。そんな彼女に直接食べさせてもらった肉まんを、噛み締めるように味わい尽くすハン。


「……倍力だ」


「ん、半分だよ?」


 カロリーは半分なのに、美味しさは二倍だ。


 ベイカと半分こにした肉まんは、いつもの倍は美味しかった。だって好きな女性に、あーんして食べさせてもらったのだから。

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