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夢みる蕀(いばら)・1

シーチューヤでの事件を解決し、コーデラに戻ったラズーリ達。やっとグラナド達と会えると思ったら、パーティメンバーが異世界へ。騎士団内部に陰謀があり、ラズーリも飛ばされてしまいます。


そこで会ったのは、異世界の勇者と守護者、懐かしい人でした。


※「蕀」を「イバラ」と読んでください。

新書「夢みる蕀」1


結局、アリョンシャとは、オリガライトの話にはあまりならなかった。彼も情報が少なかったのだと思う。

それについては、なぜか、アダマントが、意外に詳しかった。彼は、出身地域に貢献したい、と、ずっと、地方勤務に着いていた。そのため、ながらく、王都には騎士を除く知人はいなかった。妻になった女性は、王都の魔法院にいたが、魔法医師の道を選び、これまた故郷に帰っていた。二人はそこで出会った。

アダマントはクラリサッシャ姫の仮即位時に、王都の勤務になった。その時、密輸取り締まり担当になった。

普通の酒や宝石、珍しい動物の毛皮などは、警察の担当だが、薬物や魔法関連は、魔法院と騎士団で担当する事になっていた。

確か、本人も魔法理論に興味があって、魔法剣の原理について、熱心に学んでいたな、ということを思い出した。

彼から、簡単にオリガライトの特徴について聞けた。

採掘したばかりの鉱石の状態では、属性魔法の吸収力より、暗魔法の蓄積、放出の性能が高い。しかし、この時点では、探知に引っ掛かる。

カモフラージュのため、一度溶かして、不純物を取り、改めて他の金属(銀や銅、鉄)と混ぜると、探知には引っ掛かりにくくなる。不純物が除去されたせいか、属性魔法の吸収力が上がるが、密輸の場合は混ぜ物を多くして、全体的に性能を緩和させる。

この後、純粋なオリガライトを混ぜ物と分離して取り出すのだが、この時には、採掘したての状態と比較すると、暗魔法に関する力は少しだが弱くなり、生では弱かった、属性魔法への力が上がる、という。

数回溶かすことになるから、そのせいだろうと言われている。また、精製した状態での安定度は、方法が同じでも差がある場合が多く、意図によっては加工前に密輸し、使う者が混ぜ物を工夫する。ただ、混ぜ物の配合によっては、吸収限界に大きな差が出来るらしい。

セートゥで、ファイスに回復魔法をかけた時の事と、メイランで攻撃魔法を使った時の事を比較して思い出した。

セートゥでは、通信でユリアヌスと話す機会があったので、アダマントの話の確認と、チューヤで見たことを話した。

グラナドの意見も聞きたかったが、彼は、俺が連絡した時は、不在だった。

もうすぐ会えるんだから、別に焦らなくてもいいか、ハバンロやレイーラも、個人的な通信は控えていることだ、と、考えていた。


だが、あんな別れ方をしたのだから、個人通信がないのを、おかしく思うべきだった。



   ※ ※ ※ ※ ※


ポゥコデラからナギウ、ナギウから王都を目指す予定だったが、ナギウで待っていたクロイテスに連れられ、再びシィスンに来た。ナギウで彼が言うことには、実はグラナド達は、まだシィスンにいるから、という事だった。

それなら、シィスンへの転送装置を使えばよかったのに、と言った所、クロイテスからは、

「転送装置は、当分の間、使用停止だ。転送魔法も、シィスン付近では、極力使用しないように、とお布令がある。」

と聞かされた。

「色々あって、とりまぎれてしまったけど、あの空間転送、どんな原理なの?」

カッシーが質問した。クロイテスは、

「それについては、ミザリウス院長が説明されます。」

と答えた。レイーラが、

「そんな方が来てるの?」

と目を丸くしていた。

現魔法院長ミザリウスは、グラナドの師匠だ。ただ、彼の属性は水と風なので、土と火は、現副院長のヘドレンチナにも師事していた。

魔法院長は代々、宰相を兼任してきたが、彼は政治家になる意志はなく、またルーミが宰相を置かなかったので、魔法院の仕事に専念していた。


恐らく、こういうケースは前例が無いので、院長自ら出向いたのであろう、と思っていた。それは、単純にはそうだった。


シィスンで、俺たちは、あの道場の「跡地」に連れていかれた。

道場を囲むように、布張りの壁が張られ、騎士と魔法官が、即席の小屋に詰めていた。神官もいる。

俺たちに付き添ってきた隊は、交代して市街の宿に戻る。物々しいが、空気は何故か軽かった。

だが、何かあった。

「これは明らかに…。」

ハバンロが口に出して言った。クロイテスは、「部屋」に入る前にと、「説明」をしてくれたが、歯切れの悪い物だった。

「すまない。君達が、チューヤにいる間は、伏せておいた。この事は、表の団員たちも知らない。アダマントとアリョンシャにも口止めした。王都でも、クラリサッシャ様、ザンドナイス公、議長のオルタラ伯と…カオスト公は立場上、お知らせしないわけには、いかなかった。」

俺たちは、「部屋」に案内された。

ラールがいた。ミザリウスらしき人物と、熱心に話している。ユリアヌスの姿も見える。

ラールは、俺とハバンロの姿を見ると、ミザリウスに示した。ミザリウスは、金色の頭を、くるりとこちらに向け、クロイテスの姿を認めた。

もう一人、白髪の女性がいた。彼女には見覚えがある。ディニィの後に神官長になった、リスリーヌという女性だ。髪は真っ白だが、神官だからであり、まだそれほどの年ではない。彼女は、レイーラを見て、名を呼んだ。

ハバンロが、ラールに答えていた。ファイスが、俺に、

「これは、どういう事だ。」

と言った。

俺は、ラールを通り越して、その背後にあるものに、釘付けになっていた。

陽炎の蕀に囲まれた、三人の、透き通った「残像」に。



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