ゼラムの襲撃
いきなりで悪いが簡単に自己紹介させてもらうよ。
この俺「立花宮」は最近流行りの異世界転生を実際に体験し、そして現在見慣れない街「ロンベルタウン」で幸せに過ごしている。
まぁ、長々と話すとみんな聞いてくれなくなるから説明はここら辺にするか。
「あ、いたいた。宮〜!」
誰かに呼ばれた時、改めて今日の予定を頭の中で思い出した。元気に俺の名前を呼ぶ彼女、トランシー=ローズニアは名前の主を見つけると一気に笑顔になった。
「2秒早いぞ、トランシー」
「なに?間に合ってんじゃん」
「こういう時くらい、俺を長く待たせてくれよ。デートに遅れて来るのが彼女の役目じゃないのか?」
「か、彼女じゃないし!!!」
トランシーはムッとしかめっ面を俺に見せてから、すぐに笑顔になって中心街を指さした。
「それじゃあ、行こっか」
「あぁ、そうだな。」
実はデートと言いながら今日やることはそんなにキラキラしたことではない。昨日の戦闘でトランシーの防具が壊れてしまったのだ。戦闘好きな彼女は必要な防具を揃えてすぐに討伐クエストに参加したいらしい。俺はその付き添いで来たわけだ。
「ねえねえ、宮〜」
「ん?どうしたの?」
「宮って、えっと、その、ちょっと変わってるよね。」
いきなり変なこと言われた。女の子の言う変わってる、個性的、独特、ここら辺の言葉は相手に対しての悪口だと思った方がいい。俺は自分の何がおかしいかなんてさっぱり分からない。
「そっか、お前から見て俺は変わってるんだな」
「ま、まぁそうなんだけど......」
その瞬間、
ドカーーーーN!!!!
この効果音を文字で迫力を出すにはどうすればいいだろうか。だが、そんなことはどうでもいい。
「な、なに!?何が起きたの!?」
トランシーは戸惑っていた。それもそうだろう。
目の前で爆発が起きた。そこで輝く業火は次第に広がっていく。この街の治安はそこまで悪くないはずだ。だとしたら可能性は1つ、
「ゼラムだ」
「ゼラム!?まさか、もう攻めてきたの!?」
ゼラム、それはこの世界のモンスターが同盟関係を締結し、人を敵とし、人を葬ると同族に約束した化け物たち。
「やはりあの事件が引き金となったのか!!!」
すぐに悲鳴が広まった。街の人々はパニック状態。すぐに爆発した家から遠くへ逃げ出した。
「キャー」
「タスケテー」
「シンジャウー」
そんな声が外で響き渡っていて気持ちが悪かった。
「ふはははははハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!我々ゼラムは貴様ら人間共の全滅を目標に活動する最強のモンスター族!!!まずはこの街を焼き払ってやる!!!」
「させないぞ、ゼラム!!!」
俺は熱くなった。この街の平和を乱す奴は絶対に許さない。腰に構えてる剣を引こうとした時、
「宮!駄目!!!」
腕を掴まれた。トランシーだ。
「離せ!!!俺はアイツを!!!」
「まずは市民の安全の確保でしょ!?宮が勝手に暴れて被害を食らうのはゼラムだけじゃないじゃない!!!」
「黙れ小娘が!!!」
ボコ☆
自分の腕になにかの手応えを感じた。一瞬なにをしたか理解出来なかったがすぐに察した。俺はトランシーを殴ったのだ。
俺は何も見えていなかった。
「宮.......、嘘でしょ?」
「ち、違う!!!こんなの、現実じゃない!!!」
俺はトランシーを見捨ててゼラムに突っ込んだ。俺は悪くない、殴ったのもきっと何かの間違いだ。
「宮ーーーーーー!!!!!」
「覚悟しろ!ぜラム!!!」
ゼラムに向かって叫ぶ。
「死ねぇぇええええ!!!!!!」
ゼラムはその異形な形にしてはシンプルに右ストレートをうってきた。すぐに見切ってかわす。左ストレートが来る前にぜラムの首を跳ねた。
「やった、ハハ、ゼラムをやっつけたぞ。ねぇ、トランシ.......」
後ろを振り向いた。けれど彼女は見つからなかった。人がまだごった返しているからではない。気配そのものがなかったのだ。
「トランシー、どこ行ったんだ。なんで勝手に.......。後で説教かな」
そうため息をついたその瞬間、トランシーの気配よりも先におぞましい気配を感じ取ってしまった。人々が逃げる方向にぜラムの大群がいたのだ。
「な!?なんだあの数は!!!」
俺は困惑した。数えられるだけでざっと200体は超えている!ここは地獄になる!!!
「おい、そこのお前」
後ろから誰かに呼ばれた。振り返ると彼は剣を右手に下ろしていた。
「ゼラムを倒したのか!?」
「はい、倒しました」
「アイツらも倒せるか?」
「いや、あの数じゃ分かりません」
「よし、じゃあ行ってこい」
なんだコイツは。倒せるかどうか分からないって言ったつもりなんだが.......
「あなたは戦わないのですか?」
「あぁ、少し脚を挫いてしまった。もしかしたら骨にまで影響が出ているかもしれん。すまないが、頼めるか?」
なんだコイツは。話しているとムカついてきた。だから俺は言ってやった。
「あなたも戦いましょう。」
「は?だから俺は」
「ふざけるな!!!」
「っ!?」
俺は叫んだ。俺はこいつの信念が気に入らなかったからだ。
「剣士なら自分の体が朽ちるまでではなく、その剣が折れるまで戦うのが道理だ!!!脚を挫いた?そんなの弱音以外の何事でもない!!!」
「な、貴様、自分で何を言ってるのか分かっているのか!!!」
「当たり前だ、間違っているのは貴方の方だ!!!」
「俺のなにが間違っているんだ!!!早く行ってこい!!!」
コイツ、まだ抵抗するか!俺は我慢出来なかった。
「なら、この痛みを知れ!!!」
グSA☆
俺は間違っていない。そう確認してからコイツの膝に剣を刺した。
「う、うがああああああああ!!!!痛い、痛い〜!!!」
「これが本当の痛みだ!!!」
「自分がな、何をしたか分かっているのかっ!」
もはや聞くに絶えない呻き声も含め何か言っているが、勿論無視した。コイツの信念は変えなければいけない。そう思い、俺はぜラムの大群に身を乗り出した。
ゼラムの大群は次々と人々を殺していく。その姿は見てられなかった。
「そこまでだゼラム!!!」
ゼラムの視線は一気に俺に釘付けになる。ゼラムの1人が言った。
「貴様、あの鬼畜人間だな?」
こいつも何を言っているかよく分からなかったが、俺は言葉を返すことにした。
「鬼畜?なんの事か分からないな」
「忘れたわけではあるまい。あの痛ましい事件を引き起こした張本人がここに現れたんだ!!!てめぇら、奴を殺せ!!!」
心当たりが全くないが、ゼラムを憎んでいるのは俺も同じだ。
「ゼラムめ、覚悟!!!」
ここは決め技を撃つしかない。少し躊躇ったがすぐに動いた。
「スーパーソード!!!」
斬撃、斬撃、斬撃、斬撃、斬撃、斬撃、斬撃、斬撃、斬撃、斬撃、斬撃、斬撃、斬撃、斬撃、斬撃、斬撃、斬撃、斬撃、斬撃、斬撃!!!!!!
ゼラムの体がどんどん切断されていき、そこは青黒い液体が撒き散らされていた。
「へへ、ゼラムの血祭りだぜ!!!」
俺は笑った。こんなにも呆気なく敵がやられると面白くてしょうがない。
だがすぐに気付いた。ゼラムの血は青黒な筈。しかし、外側を見渡してみると赤い液体もたくさん混じっていた。確認するまでもなかった。
「人の.......、血だ」
俺は絶句した。人々を守るのが俺の役目なはず。まさか、俺は人を殺したのか?嫌だ、可笑しい。不快。不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快。
しかし、すぐに気付いた。ここでゼラムはなにをしていた?人間を殺していたではないか。
「そうだ、ゼラムが人間を殺していたじゃないか!俺じゃない!俺じゃないぞ!ゼラムが殺していたから俺だってゼラムを殺した!何もおかしいことはないじゃないか!!!」
「違う、宮はおかしい」
後ろから声が聞こえた。ここら辺の人間は一掃した、違う、ゼラムに一掃されたと思ってたんだが。
そう心の中で呟いて振り返ると彼女がいた。
「トランシー、何をしていたんだ。」
「全部見ていた。剣士に剣を刺したことも、ゼラムを市民ごと惨殺したのも、全部見てたっ!」
「ち、違う!!!俺が殺したんじゃない!!!俺は.......」
「いや、おかしいのは確かだけど宮を攻めたりしない」
彼女は優しかった。あぁ、やはりトランシーは俺の仲間で良かった。あまりにも嬉しかったので乗っかることにした。
「そ、そうか!!分かってくれるか!!!」
「むしろ感謝してるよ」
感謝?確かにゼラムは殺したけど、人も死んでいるんだ。そんなこと言うのは場違いではないか?
「トランシー、何を言って......」
瞬間、彼女は笑い狂っていた。
ビョヨヨーン☆
変な効果音が聞こえたのと同時にトランシーを見た。
「!?」
何が起きた?俺の近くにはトランシーがいたはずだ。
しかし、目の前に移った光景は別物だった。
目の前には、俺が散々やっつけた、ゼ、ゼラムが、
「騙してごめんね、私ね、このときを待っていたの」
「う、嘘だろ?おい、なんなんだよ!!!これはどういうことだよ」
「きゃーきゃきゃきゃきゃ!!!!今すぐ楽に殺してあげるからね!!!宮く〜ん」
そう、彼女はゼラムだったのだ!!!!!