後日談1
■年■月■日 ミーティア・ダダルク(以下被疑者)と共犯者の調査報告書
【連発式火器盗難事件の概要】
連発式火器の盗難発覚後、モリス憲兵組織に捜査依頼を申請。捜査に向かった当日、連発式火器を盗難したとみられる一般人が、ダダルク邸に不法侵入している所を確保。同時に一般人を取り押さえたダダルク家料理長ルーベルトより事情聴取を行うため、憲兵組織に移送。
事情聴取の結果、一般人とルーベルトの証言に食い違いがあり、拘留に移行する。捜査進展により、ルーベルトの証言に虚偽が認められたため、取り調べを強化した。結果、連発式火器の盗難が虚偽であったことが判明し、捜査を続行。
被疑者の指示により、連発式火器が任意で一般人に渡ったことが判明する。それに伴い、以下の被疑者の罪状を司法省に申請。
一般人への連発式火器の譲渡の罪。
一般人が貴族壁内部に入る通行証偽造の罪。
一般人の横領の罪を隠蔽後、殺害計画を立てた罪。
■■■■■■伯爵家の私的空間への不法侵入、ならびに■■■■■■伯爵印の不正使用の罪。
【エリオット・ダダルク(以下被害者)殺害未遂の事件の概要】
*サリア・コンナートより監理官調査員として申請あり。
・一般人の進行状況
上記の一般人が連発式火器を被害者に向け、発砲態勢をとる。貴族籍の被害者に対し、一般人が危害を加える(今回は未遂)ことは罪に値するため、勾留に移行。尚、主犯は被疑者ならびに共犯者はルーベルト。
また■■■■商会の収支報告書と納入書の捏造、収益と商品の一部着服が報告される。司法省に申請済み。現在判決裁判待ち。
・ルーベルトの進行状況
*旧■■■■■■男爵の次男。尚、貴族籍は除籍済み。
被疑者の共犯者として、現在勾留中。被疑者指示の下、貴族籍の被害者に対し以下の危害を加えたとの事。項目が多いため箇条書きとした。司法省に申請済み。現在裁判待ち。
貴族籍の被害者に対し、一般人に適応される貴族籍者への言動や対応での侮辱、名誉毀損の罪。
ダダルク伯爵家へ納入された食品、嗜好品の業務上着服、転売の罪。
被疑者が横領した金銭の譲受の罪。
飲食物、植物などが人体に与える生理的機能への障害と死因に繋がる疾病(以下アレルギー)を利用した被害者殺害未遂共犯の罪。
・被疑者の進行状況
*現在も事情聴取継続中。
退宮後、統一王ご承諾後に司法省で勾留。項目が多いため箇条書きとした。
アレルギーを利用した被害者殺害未遂主犯の罪。
*統一王庇護下より外れたため、以下の罪が適応となる。現在司法省に申請中。
モルクティルク伯爵家へのダダルク伯爵家資金横流しの罪。
ダダルク伯爵家の請求書偽造、および偽造により生じた差額横領の罪。
ダダルク伯爵家の嫡子候補(被害者含む)への身体的傷害、精神的苦痛を長期間与えた罪。
ダダルク伯爵家の地位を陥れるための虚言、侮辱、風評被害の罪。
以下、調査進行により報告内容が追加される可能性あり。
◇
「ここまで堕ちるとは、戦後の不況は怖いですね。モルクティルク家は東の代表格、商いをまとめる立場だったが……いやはや」
ゲルハルトは資料を机の上に置いた。それから丸眼鏡を外し、こめかみを指で揉む。
「いやいや、どの貴族も新しい時代について来られないだけじゃよ。何せ大陸の始まりからずっーと、戦乱が続いておったそうじゃないか。戦う以外に、栄誉や金を手に入れる知恵がついてないだけじゃよ」
頬を赤らめたワーグマーが、酒を片手に意気揚々と語った。ソファーに深く座り、酒気を漂わせた息を吐く。
モリス憲兵組織本部、ゲルハルトの私室に二人の老人が密かに会合をしていた。私室の奥、机の前にゲルハルトが座り。中央のテーブルに設置されたソファーにワーグマーが座っている。
ゲルハルトが資料を封筒に入れ、玉紐で閉じた。ゆっくりと立ち上がると、ワーグマーに近寄る。封筒をテーブルの上に置くと、ワーグマーは何食わぬ顔をして厳重な鍵つきのケースに入れた。
「いつもすまないね」
「ほっほっほっ、昔のよしみじゃよ」
調査報告書の内容をいち早く伝えに来たワーグマー。旧友のゲルハルトは感謝をしつつ、対面のソファーに座った。眼鏡の下から覗く目は未だにギラギラとして、何かを思案しているようだ。
昔から変わらぬ態度にワーグマーは目を細めて、皺を深くする。それから果実酒のビンを傾むかせ、コップにゆっくり注いでいく。
「サリアは凄いねぇ。わしは驚いたよ、ハルト。まさにコンナートとラインハーツの血の結晶の輝きじゃった。間近で見て、心が躍ったよ。公平なところはコンナートのクソジジイにそっくりで、冷静さはお前にそっくりじゃて」
懐かしみ慈しむ目。なみなみと注がれたコップに口をつけて、すすりながら飲む。
ゲルハルトは鼻息を鳴らし、少し不機嫌そうにした。
「教育の賜物だろうね。あの屁理屈ジジイの先見の明が役立ったわけだよ。おかげでコンナート家の評判はこちらの親には評判」
「いやぁー、ごうくつばりジジイもたまには役に立つ。じゃが、ちっと気になることがあるじゃろ?」
「……統一王の庇護者、その関係者の不正を暴いた。注目を受けるだろうね。庇護者の不正を暴く前例を作ってしまったから。敵視され、利用される可能性はある」
元フランシュペルズ公爵の存在を軽く笑うワーグマー。だが、問題はそこではなかった。
今後サリアの社交界での立ち位置だ。統一王庇護者だった者を引きずり下ろし、司法の場で裁く前例はない。サリアの件が前例となれば、未だにいる庇護者を裁く者が現れるだろう。そこにつけ入る者たちが出ること、それが問題だった。
険しい表情で顎鬚を撫でるゲルハルトに、ワーグマーはあることを話し始める。
「ほっほっほっ。そうじゃ、そうじゃ。サリアも気づいておったよ。あの日、司法省に赴いた馬車の中で、わしに取り引きを持ちかけてきよったわ。賄賂じゃ賄賂。」
「……サリアが? そんな馬鹿な話が」
公平な立場を弁えるサリアが?
身を乗り出すゲルハルトを横目で見ながら、再びコップに酒を注ぎ一気にあおった。幸せそうに目がとろん、と緩む。
「わしはあまーい酒に弱いんじゃ。頭ばかり使っているから、甘いのが欲しくて堪らんわい」
「それは知っているが……」
何を今更。乗り出した体をソファーに沈めると、ワーグマーは空になったコップを見つめがら話し始める。
「近年出回り始めた、キウイフルーツを知っておるか? 果物として人気が出始めて、認知も広がったところで……今度は果実酒の製造を始めるようじゃよ。今すぐには出回らないらしいのが残念じゃが、数年先には商品として流通に乗せるらしい。これはコンナート家の新規事業として、雇用確保に動いているらしいわい。わしは今から数年先の酒確保に投資を始めようかと思っているのじゃが、どうだい。堅物ジジイも一口のらんか?」
アレルギーの内容が世間に出回れば、キウイフルーツは危険な食べ物の一部として人は距離を置き、購入はされにくい。だが、それは正しい知識が広まっていないからだ。
だから、サリアは果実酒に加工することにより問題を解決しようとした。
「サリアが言っておったわ。認知が広まれば、人の意も変わる……と。その数年でキウイフルーツ、アレルギーの危険性について正しい知識を広め、人が安心安全に食べたいものを食べられる世を目指す、とな。それに果樹園の庶民の雇用を守り、先行投資に踏み切った。しかもじゃ、認知が広まるまでのキウイフルーツは売れないじゃろ。じゃから、その間に果実酒に加工し保存する経験を養い、成功したら保存しておくと言っておったわ。そこまで、考えての行動じゃった。まるで、あのクゾジジイが乗り移ったかのようじゃったわ!」
サリアの祖父を思い出し、大いに笑った。
その話を初めて聞き、ゲルハルトは腕組をして考え込んだ。
「……屁理屈ジジイがどこかで口出ししているのかね?」
「まさか! あのクソジジイは愛する奥方を連れて、あちこち飛び回っているそうじゃないか。なんでも熟年離婚は嫌だとか、なんとか良く分からない言葉を口走ってな。ま、あやつは昔から良く分からん言葉ばかり知っておったからな。またか、で終わったのじゃがな」
謎が多いサリアの祖父を思い出し、二人は黙りこんでしまった。ただの庶民の生まれ。だというのに、知識は誰よりも豊富で、庶民から子爵に成り上がった。
不可思議な男。
「ほっほっほっ。まあ、そういう訳じゃ。わしは広告塔にでもなってやるわい。孫娘もサリアを心配しててな。協力して上げて~っと泣きついてきたんじゃよ。その可愛さと言ったら」
サリアが敵視され、利用されないようにワーグマーが目を光らせることを約束した。様々な要因の一つに、お互いの孫娘の交流を持っていることも加味しているらしい。
「ワーグのそれは聞き飽きたよ。しかし、まあ……サリアの肩にだけ重荷を乗せるわけにはいけないねぇ」
意味深な言葉を吐いたゲルハルトに対し、ワーグマーは顔をしかめた。
「親が放任して自由を与えているのに、お前が過保護になる必要はなかろうて」
「……ダダルク家に優秀な孫を取られるんだよ。一言言ってやらねば、腹の虫が収まらん」
「じゃが、今は当主のイーガはいないはず……」
文句を言う相手もいないのに?
不思議だと首を傾ける。すると、ゲルハルトは立ち上がり扉の側に移動する。側にかけられた茶色のジャケットを羽織り、帽子を頭に乗せた。
そして、ワーグマーに振り向く。その顔は意地悪そうな笑みを浮かべていた。
「当主代理のエリオットがいる。明日伺うことになっているんだ」
直接エリオットに文句を言いに行くそうだ。
これにはワーグマーも驚き、顔を手で覆って叫ぶ。
「かーっ!! 大人げないぞ、お前もクソジジイじゃ!!」
立ち上がり、少し怒った顔を向けて近寄った。
指差すワーグマーを鼻で笑い、帽子を深くかぶる。
「好きに言えばいい。しっかりと責任が果たせる男か見極める予定だよ」
「……もし、お前の御眼鏡にかなうとしたらどうじゃ?」
真剣な眼差しで問いただす。軽い気持ちなら許さない。
視線で訴えるが、ゲルハルトの気持ちは変わらない。
だから、得意げな顔をして言ってやる。
「その時は、紅茶が不味かった……と難癖つけてくる」
例え非のない男で、完璧だったとしよう。
満足できる回答を得ても、一つだけ絶対に文句が言える部分がある。
それがゲルハルトの出来る最大の譲歩だった。
◇
後日、カサンドラ侯爵家に代々伝わる古書「ラインハーツの伝承されし血の系譜」に、新たな歴史が刻まれた。
――――――と、自信満々に言ったゲルハルト。翌日の夕暮れ頃に我が家を訪ねてきた。ゲルハルトは放心状態で「紅茶が不味かった、としか言えなかったよ」と、わざわざ教えに来てくれた。翌日の朝まで久し振りに飲み明かし、様子を見て楽しく過ごす。
やはり、ラインハーツの血にはうっかりが代々受け継がれているようだ。ロイドも今回うっかりして責任を取らされ、しばらくは休みなく働くことだろう。サリアはうっかりが多すぎるため、孫娘が時々カタリナから聞き出しているらしい。そんなカタリナもうっかりしている。
これだからラインハーツは面白い。今後もラインハーツの血筋を観察し続けようと思う。




