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オプジーボチャレンジ

作者: ざらなわ

88歳と84歳の仲睦ましい老夫婦がいました。

金銭はさほど余裕があるわけではありませんが年金が手厚い世代なので生活に無理はありませんでした。

妻は裁縫や編み物などの趣味としていましたが年を取り集中力を欠くようになってからは根をつめてやることは減っていました。

夫は何の趣味も持たない男でしたが会社員をやっていたころからずっと宝くじを買うことが楽しみでした。

宝くじ暦、半世紀の歴戦の勇者ですね。

ただ窓口でもらえる以上の当選をしたことはありませんけど。

「でもそれがよかったよ。昭和50年代は一等が3000万でこれが当たれば預金で一生暮らせるといわれていた。何と言っても定期預金の利率が7%だったからな!その頃に3000万当たって定期預金で利子暮らしだぜ!って仕事辞めでもしてたら今頃大惨事だった」

「今銀行の外から見える窓に貼られてる定期預金の利息の数字を見たら思わず、つまり無利息なのね?といいたくなりますからね」

「アレ点の後に幾つ0が付いてるかもうわかんねえよな」

そんな会話をしながら万聖祭宝くじの当選番号を新聞でチェックしていた夫は手元に持つ一枚の宝くじでその手を止めました。

「おー、前後賞があたっとる」

「へー、いくらですか?」

「一億だな」

「あら凄い」

「連番なら5億だったなー!」

「連番なら当たってませんよ」

「道理だ。でもこれで俺の宝くじ人生一気に黒字になったぞ!」

「良かったですねー。でも30年遅かった気もしますねえ」

「全くだ。今更なー」

人間80年も生きると少々のことでは動じなくなるものなのです。


そんなわけで二人で駅前の銀行に行き手続きをした二人ですが銀行員の

「是非定期に!」の言葉をスルーし普通口座に放置することにしました。

利率が低すぎるんですもん。


ですが、人とはある日突然思い立つものです。

「息子はもう死んだ。嫁はどこにいるかもしらん。孫は20年会ってない。兄弟は全部死んだし甥姪はいるかどうかもしらん」

「そうですねえ」

「ここでわしらが死ぬとクソどうでもいい孫に遺産が渡っていく」

「それはそれでもいいんじゃないですか?使う元気も体力もありませんし」

「そこで俺はいい無駄使い方法を考えた」

「はあ」

「名づけてオプジーボチャレンジ」

「面倒くさい事を言い出しましたね?」

「今日本人は50%の人間が生涯一度は癌にかかるという。つまり俺達も50%の確率でどちらかが癌だ。25%の確率で二人とも癌だ」

「二人とも元気ですけどねえ」

「自覚症状が出るのは末期になってからよ。で、だ。二人で癌センターにいって徹底的に癌検診を受けようじゃないか」

「あなた・・・。人様の迷惑になることは・・・」

「・・・なんで癌検診が人の迷惑なんじゃ?」

「いえ、そうですけど。建前的にはそうですけれど・・・」

「で、癌だったらオプジーボで治療してもらう」

「アレは高額で健康保険制度が崩壊すると問題に・・・」

「健康保険の適応を受けなければいいんじゃろ?全額自費でやればいいじゃないか。何でも一人一年3500万円と聞く。二人とも癌でも何とかなるぞ」

「でもアレは効くとは限らないらしいですよ?人によるとか、部位によるとか」

「だから無駄遣いだといっとる。それに医者からすればどういうヤツに効くのかサンプルが増えて嬉しいだろう」

「さあ、それはどうでしょうねえ・・・」



そんなわけで一泊二日の癌検診を二人で受けたら、病院から召集令状が二通来ました。


医者が言うには、

「二人とも末期癌です」


「ほう?」

「あら、まあ」


そんなわけで生き生きとし始めた老人のオプジーボ使え金は出す攻勢が始まり若く気弱な医師には抵抗のすべもなく二人の治療が始まることになりました。


二人の入院前日、夫は妻に言いました。

「例の薬が効く確率は30%という。二人とも治る可能性は一割以下。どちらかが効く確率は四割。そう考えると意外と治るな」

「半分くらいの確率で二人とももうこの家には帰ってきませんけどねえ」

二人はそういいながら笑って寝室の電気を消すのでした。



半年後、あいも変わらず二人は自宅でのんびりお茶を飲んでいます。

ばっちり効いたそうです。

「二人とも効くとは運がいいな!」

「まぁ、あなたに出会えた確率を考えたら楽なもんですよ」


宝くじで当たった一億円を検査費治療費入院代二人分できっちり使い果たした老夫婦は老衰が二人を分かつまでのんびりと過ごしたといいます。


幸い癌やオプジーボにかかわることがないまま暮らしておりますので、癌医療に関してふわっとした事しか知りません。変なところがあったらスルーしてください。

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