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悪魔ちゃんは未知に飢えている。  作者: 最早もやし
3/5

3 召喚の儀

 見渡す限り、白一色の世界。


 美しい光景かもしれない。だが、()()()()だったら?





 音もない。物もない。ただ、時間だけが過ぎてゆく。



 人もいない。自分さえいるかどうかわからない。



 何もできない。考える事しか許されない。



 何も起きない。この世界に変化は訪れない。



 こんな世界に、一人取り残されて、あなたは耐えられるだろうか。


 ああ、帰りたいと嘆くことだろう。しかし出口はない。抜け出すことは不可能だ。

 死という逃げ場も用意されていない。ただ、ずっとこの世界に閉じ込められ続けるだけだ。



 耐えられるだろうか。
















 その少女は異常だった。


 その精神の強さは異常だった。


 「考える」だけで、何年も、何十年も、何百年も、狂うことなくこの世界に生きていた。


 しかも、精神は時を重ねるほどに強靭になっていた。

 長く深い空想を続けたことで、彼女の中での「自意識」がより明確なものへとなっていったからだ。


 もはや、精神の強さで彼女に並ぶ者はいない。



 ありえないことだった。


 ただの人間だった彼女がここまでの強さを手に入れたことは、まさにイレギュラーである。














「まあ、おばあちゃんになった自覚はないよねぇ……。」


 私はそっと呟いた。いや、呟いた想像をした。



 多分、この世界に来てからかなりの時間が過ぎていると思う。もうどれだけ空想したかわからない。人生を何十周かしたんじゃないだろうか。

 生きてきた(いや一度死んだが)時間は相当長いはずだが、私自身が老獪な雰囲気、例えば神様のようなオーラを纏えているかというと、そんな実感は全く無い。

 多分、私の「経験」そのものは、16歳のときから積み重なっていないからだろう。


 今までの空想の中で、超長編小説を12本、オリジナル楽曲を177曲、オリジナル言語を5つ作り上げてしまった。この他にも詩や短歌など、挙げればきりがない。文才のない私が、じっくり時間をかけて作り上げたのにだ。


 経験は積み重なっていないと言ったが、想像力に関しては凄まじく成長していると思う。この先、役に立つかわからないけど……。




 そもそも、この空間はいつか終わるのだろうか。

 この疑問は、何度も何度も考えた。当然、答えは得られない。だけど、ふとした時につい思い悩んでしまう。そう、今みたいに……。


 この空間に来て、記憶は鮮明になった。ついさっきまで地球にいたんだよと言われても、納得できてしまうほどに。

 だから、不思議と日本で暮らしていた時を「懐かしい」と思うことはあまりない。このことにはちょっと助かっている。寂しさも薄れるから。






 そしてこの日。

 「日」という表現は正しくないかもしれないけど、この瞬間。



 この退屈な世界に、「変化」が訪れた。



 私が、ずっと待ち望んでいたもの。

 まるで、ここまで耐えてきたことへの褒美であるかのような。



「………!これ……。」



 白い世界が、白ではないものをついに許したのだ。




 空間が、裂けていた。

 裂け目からは、形容し難い複雑な色彩がうごめいているのが見える。

 赤、青、金、銀、黒………。



 私の妄想ではない。

 長くこの空間で過ごしてきて、わかったことがある。それは、この空間そのものには干渉できないことだ。

 想像で、自分の姿かたちを変化させることはできる。だがそれは、その体が自分のものであるからだ。

 この空間は私のものではない。自分勝手に変化させることはできない。


 間違いない。初めて、この世界に「変化」が起きている。


 私の中で、様々な感情があふれ出した。安堵、歓喜、困惑………色々混ざりすぎて、自分でもなんと言えばいいかわからない。

 心の中は、まさにこの裂け目の中の色のように、混沌としていた。





 私はためらわなかった。その裂け目が何なのか。何故出現したのか。それを考える前に、体が先に動いた。


 裂け目の中へ飛び込む。いや、()()ではない。



 ()()













《精神生命体の、物質界への侵入を確認しました。》



《精神生命体に、物質界の法則が適応されます。》



《経験を清算します。》



《精神生命体■■■は、スキル【不滅の精神】を獲得しました。》



《スキル【不滅の精神】により、耐性【精神干渉完全無効】を獲得しました。》



《精神生命体■■■は、スキル【完全思考】を獲得しました。》



《………確認しました。祝福が付与されます。》



《願いが受理されました。スキル【自己創造】を獲得しました。》












◇◇◇







「………!来ました!精神生命体の反応です!」



 魔術師の一人が叫んだ。

 この場にいる全員に、緊張が高まる。


 ついに、『悪魔』が姿を現すのである。


 国を単身で滅ぼした存在。竜ですら恐れを抱く存在。「天災」とも言うべき存在。

 人では到底及ばない次元の生命体が、「門」をくぐり抜けてくるのだ。


 中心の模様の光が怪しげに変化した。複数の色の混じった、何色ともとれない光が、ますます強くなっていく。

 その光は、またたく間に部屋の全てを埋め尽くした。


「うおおおっ!!?」


 王が悲鳴を上げてしまったのも無理はない。一寸先も見えない光は、この世の終わりかと思わせられるからだ。


 目が焼ける思いで、しかし祭壇から注意をそらすことは許されなかった。

 『悪魔』が顕現するその瞬間を、見極めなければならない。









「――――――!!」




 ついにその時が来た。



 誰もが息を呑んだ。『悪魔』の存在感に飲まれそうになった。


 光は薄れ、その中から浮かび上がるように見えた姿は、半透明でありながら、「存在」することを嫌というほど見せつけてくる。



 少女のようであった。

 見た目は、14か15歳ほどだろうか。だが、纏うオーラは他者を圧倒し、強く、美しかった。


 腰のあたりまで伸びた黒髪をなびかせ、銀の瞳で王たちを見つめた。

 誰もが怯み、動きが止まる。だが、そこは魔法のプロたる宮廷魔術師だ。すぐに正気を取り戻し、次の行動へと移った。



「今だ!魔法を発動せよ!!」



 魔術師団長の号令と同時に、魔術師たちは各々の杖を手に持ち、少女に向けた。

 精神を統一し、体内の魔力を練り上げる。それは彼らの力に変換され、少女を縛る為に蓄えられていった。


「放て!隷属の魔法!!」


 魔術師たちの全身全霊の魔法。杖の先端から紫の光が迸り、少女を包み込んだ。

 最高峰の使い手たちによって放たれた隷属の魔法は、荒れ狂う竜さえ沈められるだろう。



 たとえ『悪魔』でも、耐えることは不可能―――






 ……だが、紫の光は一瞬で霧散した。



「………!?馬鹿な!これを無効化するなど……!」


 魔術師たちに動揺が走る。


「おい!どうなっている!?貴様らの魔法は……」


 王も慌てたように叫んだ。

 しかし、その先の言葉は続かなかった。


 少女の強烈なオーラに当てられたのだ。



 抱く感情は、恐怖。




「………………あ………ああ………ああぁぁ………」



 うめき声が口から漏れる。


 そうだ。なぜわからなかったのか。

 人間ごときが、『悪魔』を従えられるわけがない。まさしく、別世界の生き物なのだから。

 人間の常識が通用する保証など、ないのだから。

 子供の頃、親から聞かされた『悪魔』の物語。なぜ、あの頃の恐怖を忘れてしまっていたのか。

 警告だったのだ。『悪魔』に関わってはいけないと、そんな、先人から受け継がれてきた意思なのだ。


 もう、後悔だとか諦めという感情の入り込む余地はない。全てが、恐怖に塗りつぶされてしまっていた。

 それは、魔術師たちも同様である。歴戦の強者たる彼らも、戦おうという気すら起こらなかった。




 やがて、彼らの目から光が失われた。

 恐怖に心が耐えられなかったのだ。


 それは、精神の死。


 彼らは、一人、また一人と力尽きていった。

 最後に残ったのは、魔術師団長だ。しかし、彼も限界だった。この中で最も強かったからこそ、少女の恐ろしさの片鱗を見てしまったのだ。


(………ああ、なんてものをこの世界へ呼んでしまったのか……。)


 恐怖の中にほんの少し生まれた隙間には、確かな後悔の念が刻まれた。


 だが、全て遅かった。






 ―――生存者、0名。















「あれ?なんでみんな寝てるの?」


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