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君の音  作者: 綿花音和
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子犬のワルツ

「智子、最近南さんのピアノ教室へ行っていないみたいね」

 帰ってリビングでお菓子を摘んでいたらお母さんに言われた。

「なんだか、行っても練習に身が入らなくて。かえって先生に悪い気がして。気持ちが切り替わるまで休もうかなって思ってるんだ」

 私は面倒くさそうに答える。

「そう、智子には考えがあるんだろうけど」

 母さんはいったん納得したようすで言葉を区切り、

「昨日、南先生から心配して電話があったのよ。あんまり長くかかるようならきちんと南先生に相談するのよ」

「わかった」

と答えたものの、自分の気持ちが揺れていて悩ましかった。


「姉ちゃんのピアノって、楽しそうで僕好きだよ」

 弟の太志ふとしに言われた。

「太志、生意気だぞ」

 と言いながらも、ふくれ面を見せてふざける。まだ小学四年生の弟は可愛く素直で心根の優しい子だ。全く私とは対照的だ。

 クラスでも人気があって、バレンタインデーにはチョコレートを山ほどクラスの女子からもらっていた。

「ほんとだよ。姉ちゃんのピアノきいてるとなんかうきうきするんだ。」

 目を輝かせて言う。

「ありがとう。姉ちゃんもピアノはとっても好きだよ。でも色々あってね」

「ニンゲン関係?」

「うげ」

 太志は痛いところを時々突いてくる。私はタジタジだ。

「太志はどこでそんなこと覚えてくるの?」

「学校。正直もてるって大変なんだよ」

 子供部屋が一瞬殺伐とした。太志も言わないだけで色々あるんだなって私は思った。

「ピアノ続けてほしいな、僕のささやかな願い」

 そして大きな瞳でうるうると私をみつめる。なんか腹黒いものを若干感じながらも嬉しかった。

 「子犬のワルツ」を弾いていた。太志が喜びそうだったから。


 ほんとに弾いてるときは楽器は愉しい。特にピアノは音域も広いし、一人でも連弾でも楽しめる素敵な楽器だ。

 ピアノを習い始めた頃は、楽しくて楽しくてそれはもう時間を忘れて練習した。思い通りに弾けなくて悔しくて泣いたこともあった。

 練習は、一つ進むとまた違う山が出てくるし、終わりがみえなくて辛いときもあった。でも中学に入学してからは、楽しいだけじゃなく自分の音が変わってきた気がしそれが怖かった。

 

 子犬のワルツは楽しい。でもそれだけじゃないことに気が付くようになった。私は自分の音が変っていくのが嫌だったのだ。


 ショパンはどんな気持ちで恋人の飼い犬の様子を曲にしたのか?悲恋と結末を知っている私には何だかとても儚く思えて悲しく感じた。


「俺は北さんのピアノの音が好きだよ」

 夜中に耳元で洋平君の声が聴こえて、ベッドで飛び起きた。寝惚けていたらしい。どきどき心臓が鳴っていた。どんな夢をみていたのか、もう一回観たいと思ったが、それは叶わないのであった。









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