表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転生~チートを希望した結果~

 終わりの無い暗闇と、その中に輝くいくつもの星々。


 混雑していたバスの車内から、突然投げ出されたのは上下の区別が付かない宇宙空間のようなところだった。

 どこが上なのかわからない空間なのに、足元を意識した瞬間、その空間の上に立っていた。


 辺りを見回すと、少しはなれたところにくたびれたサラリーマンのおっさんが斜め45度くらいを足場にしていた。


「ごめんごめん。こちらの間違いで君達は死んでしまった。お詫びに何かひとつだけ願いをかなえてあげよう」


 おっさんにしてはやけに高い、少年のような声がした。

 ガン見していたおっさんも、辺りをうかがうようにきょろきょろしたので、声の主ではないらしい。


「ああ、こっちこっち」


 どこが前方なのかもいまいちわからないが、俺とおっさんの前方に、他の星々よりもひときわ大きく輝く光があった。

 不思議なことに、光を直視してもまぶしさは感じない。


「私達が死んだと言うのは本当なのかね」


 覇気の無い声でおっさんは光に聞いていた。


「あはは。信じられないかもしれないけれど、残念ながら本当さ。バスの事故で、本来は全員生存する予定だったんだけど、君達だけ処理を間違えてしまってね。そのまま生き返ることは出来ないけれど、代わりにひとつくらいは願いをかなえてあげようとこの場を用意したんだ」


 時折点滅しながら答える光。

 これって、もしかしてもしかするんじゃ……?


「そうか……それなら私は、受け持っていた仕事の引継ぎがスムーズに行われるようにしてくれ」


 取引先がどうのこうのとおっさんは言った。光も、お安い御用、とばかりに発光している。


 こんなチャンスにそんなことを願うなんて、なんて残念なおっさんだろう。

 そんなことを考えながらも、顔がにやけるのを抑えきれず、変な顔になりながら俺は手を挙げて主張した。


「はいはーい!俺はチート転生がいい!」


「チート転生……?――該当文化を確認。あぁ、出来なくはないけれど、願い事はひとつだけだから、どんなチートを持ちたいのか決めないとね。そもそも今の記憶とか残らないよ?記憶残したいならそれでひとつのお願いにするよ?ついでに転生先選んだりするのもお願いひとつ分だよ?」


 意外と願い事ひとつの範囲が狭かった。前世記憶持って転生ってだけでひとつ分とか。けち臭い。


「えぇー覚えてなきゃ何も意味無いじゃん!って、アレか、前世知識チートってやつすればいいんだな!」


「それなら君は前世記憶保持での転生ということでいいのかな?」


 確認する光に頷くと、発光が強くなり、意識が沈んでいった。



 これで俺の異世界転生知識チート物語が始まるぜ……!!






















 干からびる!!


 意識が浮上した時に感じたのはこの上ない渇きだった。


 乾燥した空気、乾いた土の感触。

 ぼんやりとした焦点の合わない視界、その先にはボロボロの木目の天井。


「…っ!……!」


 声を出そうとしてもひりつく喉からは息が漏れるだけ。


 ちょっと待て!?美人の母親は!?かわいい幼馴染は!?どじっ娘メイドは!?


 想像していた周囲の状況と、現状に大きな乖離を感じた。

 少しでも現状を把握しようと、ほとんど動かない体の中、何とか顔の位置をずらす。


「……っ!???」


 横に動かした視界に入り込んだのは、俺自身のものと思われる小さな赤子の手。

 けれど、それは、現代でイメージするようなふっくらとした手ではなく、やせ細った手だった。


 幼児虐待反対!ネグレクト反対!!


 声が出せるならばそう叫んでやりたい気持ちは、その手の更に向こう側を見て凍った。



 大きな塊が、家というにはボロボロの、むき出しの地面の上に転がっていた。


 焦点のしっかり合わない視界だが、わかってしまった。


 だって、ソレは、成人くらいの大きさのある干乾びた……



 飢餓を感じながらも、現実から逃避するように意識を喪った。

 きっと目が覚めたら、旅の賢者とかが見つけてくれて、俺のチート物語が始まるんだぜ。






















 始まらなかった。


 結局生まれてすぐに飢えて死んだっぽい。


 で、何でソレを認識しているかっていうと、次に目が覚めたら丁度生まれたところだった。


 今度は産婆っぽいのとか母親っぽいのとかが動いていた。

 ぽいの、とか言うけど、だってはっきり見えないからイマイチ区別できねぇんだよ。


 まぁ、家の造りとか、前のとこよりは断然こっちのほうが良さそうだからいいんだけど。

 今度こそ俺の物語が始まるぜ!


 って、痛い、痛い!泣き声出すから叩くのやめて……っ!!























 あ――……なんか言葉よくわかんなくて5歳ぐらいまでうまく喋れなくて、時々日本語で喋っていたら、気味悪がられて飢饉の年に口減らしで村の外に捨てられた。

 ついでに捨てられた直後に、狼だか野犬だか、そんな感じのに囲まれて死んだ。


 マジ何これ!?ハードモード!?イージーモード用の改造コードどこよ!?


 とりあえず、また生まれたので今度は日本語封印して言語習得最優先で、その後知識チートの本領発揮をする決意を固めた。

 幸い、今度はなんか原始的な農業してる農村っぽいから色々出来そうだ。


 今度こそ俺の転生知識チート物語が始ま……














 ……らなかった。


 ははは。所詮一般高校男子じゃ、知識って言うような知識持ってる奴の方が少ないっつーの!!

 ラノベで読んだ農業チートとか真似してやろうと思ったけど、そもそも農業なんて実際にやったこと無いからふんわりした感じでしかわかんねえよ!


 腐葉土ってなんだよ!

 腐った葉っぱの土って!

 とりあえず森の中から腐ってる葉を選んで持ってきて畑に混ぜたら、農作物が全滅したんだぜ!


 犯罪者扱いでしょっ引かれて、檻の中で死んだ。


 で、今は目が覚めたんだが、水中なんだよ!

 何これ!?

 エラ呼吸の仕方なんかわからんわ!!!














 結局、エラ呼吸できなくて死んだ。


 人面魚って、口呼吸じゃなくてエラ呼吸だったんだなって、別に知りたくも無い知識を得た。


 ちょっと死ぬのいつも早すぎるから、今度は長生きを目指してみようと努力したんだけど、戦争に巻き込まれた。


 ついでにさっき、言ってみたい台詞ベスト100にランクインしている『俺に構わず先に行け!』を発動した。















 死亡フラグを立てて死んだ。







 その次も戦争に巻き込まれ、『この戦いが終わったら故郷に帰って結婚するんだ』フラグを立てて死んだ。



 その次はでっかい昆虫っぽいのに生まれたけれど、もっと大きな爬虫類に捕食されて死んだ。



 その次は馬に蹴られて死んだ。



 登山中に遭難して死んだ。


 階段から落ちて死んだ。熱湯に落ちて死んだ。


 腹を刺されて死んだ。風邪引いて死んだ。餅をのどに詰まらせて死んだ。


 噴火に巻き込まれて死んだ。船が沈没して死んだ。羽化できなくて死んだ。死んだ。寄生されて死んだ。豆腐の角に頭ぶつけて死んだ。子供をかばって死んだ。死んだ。人質にされて死んだ。


 腕がなくなって死んだ。死んだ。頭が吹っ飛んで死んだ。死んだ。腹に穴が開いて死んだ。死んだ。死んだ。目がえぐられて死んだ。死んだ。死んだ。ばらばらになって死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。潰れて死んだ。死んだ。


 死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ死んだ。死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだしんだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだしんだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだしんだ死んだしんだしんだしんだ死んだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだしんだんだしんだしんだしんだしんだしんだ

 しんだ 


  し ん

 

      だ 



         し……































 終わりの無い暗闇と、その中に輝くいくつもの星々。


 先ほどまで乗っていた満員電車の影形は無く、いつだったか遠い過去に見た宇宙空間のようなところに立っている。


 周りを見れば、最近の若者とでも言う少年少女が複数名、同様に周りを確認している。


「ごめんごめん。こちらの間違いで君達は死んでしまった。お詫びに何かひとつだけ願いをかなえてあげよう」


 少年のような声と、現れる光。否、あれは光ではなく、歪な闇だろうと今ならば思う。


 何百、何千、何万と、生まれては死んでを繰り返し、そのどれひとつ忘却することの出来ない記憶として持ち続けなければならないのは、どのような拷問だろうか。

 いっそ発狂してしまえれば楽だったろうに、生まれなおす都度、精神は再構築されるように引き戻された。

 変わりに、精神とは別の何かが磨り減っていったように感じる。


 少年少女たちは転生後の希望をひとつずつそれぞれがあげていく。


 賢い頭脳を。

 強靭な肉体を。

 魔法の力を。

 鑑定できる能力を。


 どんなところに生まれるのか、生まれた先で必要な能力なのかも不明なのに。

 そして、人数が多い所為か、光は突っ込んだ返答をしなかった。


「さて、君が最後だけど願い事は何かな……?」


 コレが昔見た光と同じものなのか、それとも違うものなのかはわからない。


「仕事の引継ぎを……」


 告げようとして、それではまた転生した後は死に続けないといけないことに気付き言葉を止める。


「いや、疲れてしまったから、このままずっと休みたい。もしくは忘却を」


「?変わったお願いだけど、問題ないよ。それじゃ、全員まとめていくよー」


 全員の身体を包むように光が大きくなる。

 死ぬときとは違う、暖かな光に包まれる安らぎに、やっぱり悪魔じゃなくて神だったのかと思う。


 薄れていく意識の端に、「……ぁ、間違った」などという不穏な単語は聞こえなかったことにしたい。





















 柔らかな肌触りの寝具の上に寝ている。

 




 嗚呼、後何回死ねば終わるのだろうか。

ホラー…?と、ちょっと首を傾げつつも、ギャグじゃないし。

ホラー書くつもりで書いたからホラーだと思うのだけど、この分類じゃない?っていう分類があれば教えてください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ