傍観――ゴールドアイズ
してやられた。
あの男の策略だったと気付いた時、私はもう、アプリと言う名の入れ箱に魂を閉じ込められていた。
「私が――可愛いネコちゃんに目が無いってこと、どうしてアイツは知ってたのっ?」
きっと友美から漏れたんだ……ううん、絶対にそうに違いない。あの娘、口が羽毛よりも軽いから。
でも、そもそもこんな手に引っかかる私も私か……。
それにしたって、呪縛の魔術は魔術師会でも禁止されている禁術のはず。
そうまでして海太が私を排除しようとするなんて、いったい何が目的なの?
分からない。
確かに彼の客人を横取りしたり、事務所の冷蔵庫にあった名前入りのプリンを食べたことはあった。
けれど、それだけで禁術までを持ち出してくるなんて、それこそが理解不能よ。
バレたら極刑、或いは、軽くても魔術師の生命線とも言える魔力官カットだと言うのに……。
「それにしても暗いわね、ここ」
と言うより、何も見えない。
暑さも寒さも、そんな概念さえも失われているようだけど、やはりここは――スマホの中、なの?
『ここ、気持ちいいの?』
へっ――?!
なに、なんなのっ?!
私の声だけど、何を言ってるの?
ううん。私は何も言ってないし、幻聴?
やっぱり禁術は禁術ね……閉じ込めた後も精神的に追い詰めてくるだなんて、流石に凶悪な術だわ。
ん、急に明るくなって――
「お、お姉ちゃんっ?!」
え、智明?
どこなの?
というより、ここは私の部屋?
あれ、視界が勝手に……え?
「――て、なにこれっ?!」
白と黒の毛が見えるけど、これが私の体?
それにこの智明の驚きようから鑑みるに、あの娘もこの体になってるの?
いったいどういうこと?
「は?」
私の声――て、えええええっ?!
どうして私の体が勝手に動いてるのっ?
誰が中に入って――て、そんな魔術は存在しないはずだし、それじゃ、どうなってるの?
まさか、何かの手違いで誰か別の魂が入り込んでいる、とか?
ううん。それじゃ同じこと。
何がどうなってるのよ……。
◇◆
私の体の中に誰かが入ってるのは分かった。
けど、嘘でしょ?
智明が強姦に遭った?
「それじゃなに、チアキさんは強姦にあったってこと?」
「うん。それで――あんたはお姉ちゃんではないのね?」
「そうだよ。気付いたら君のお姉ちゃんになってた」
信じられない。
誰がそんなことをしたっていうの?
ううん。きっと他の上位ランクの魔術師よ。
智明のランクを見て、それで襲ったに違いない。
許せない……絶対に許せない。
「お姉ちゃんの体で変なこと、してないでしょうね?」
あ、そういえばそうよね。
「してないよ」
良かった――変な人に入られた訳じゃなかったんだ。
「変なことは言ったけど」
言ったのかよっ?!
あ、もしかしてさっきの?
前言撤回。
私の体には変態が入り込んでるわよ、絶対……。
早くどうにかしないと、このままではマズイわね。
「お姉ちゃんは今どこにいるの?」
智明……。
多分この入れ箱を共有してはいるはずなのに、すごく近くにいるのに……。
なんとかして、智明と意識の共有ができないのかしら。
「私は殺されたし」
え、智明?
「私は他の魔術師に殺されたの……」
そんな……嘘、嘘よ。
だって、智明はここにいるじゃない。
私と同じ入れ箱に魂が――魂?
「さっき、本当のことを伏せたのって……」
「どーせ入れ替わってたんなら無理だったし……」
「ごめん……」
無理だった?
ごめん?
まさか、智明から連絡が?
それなのにこいつは――何も、しなかった?
その結果、智明は……死んだ?
冗談じゃないっ!
こいつにも、こんな間抜けな自分にも、どうしようもなく腹が立つ。
ごめんね、智明……本当にごめんね。
こんな無力なお姉ちゃんで、ごめんね。






