曖昧――スタートアップ
特段に用もなく夜道を散歩するなんてこと、いつの間に習慣になったのだろうか。
いやいや。習慣なんて言い方は誤りか。
これは癖だな、うん。癖だ。
曜日感覚も、日付感覚も、体内時計に至っても、その全てが狂っている。
今日が何月何日の何曜日で今は――一時五十八分。
スマホを見れば時刻くらいは分かる。
あと、今日は七月九日で水曜日だ。
俺の感覚は狂ってても、この文明の利器は違うようだ。
ずいぶんと便利な世の中になったものだよ……不便な時代を知っている訳でもないけど。
散歩のコースはいつも適当だ。
市民マラソンをしている訳でもないんだから、当然だろう。
いちいち決まったコースを歩く義務も主義も、この夜空の元では一切ないんだ。
お、今のはちょいと名言ぽいか?
嗚呼、虚しい。
おいそこの黒猫、こっち見んな恥ずかしい。
とは言いつつも、似通った道を通ってしまうのが人間の性か?
そういえば誰かが言ってたな、確か。
人間は自由になると返って規則正しくなる、だったか?
律儀なもんだよな、ホントに。
笑え過ぎて泣けてくるよ、マジで。
スマホからイヤホンを通して聞こえてくる、英語のよく分からない歌詞とギターやらの音がふと途切れる。
リピート再生にしてなかったのか。
急に静かになるとか、やめてくれよ。
考えちまうじゃないかよ、勘弁してくれ。
『無理はしなくていいからね』
やめてくれ。
『定時制でもいいんだぞ』
だからやめろって。
『真弓は被害者なんだから』
「やめてくれよっ!」
「シャーッ!」
「うわっ――て、お前にじゃねーよ」
ほら見ろ、野良猫風情に怒られちまったじゃないか。
腫れ物みたく扱うんじゃねえよ。
普通に接してくれよ、頼むから。
頼むから、親父や母ちゃんくらいは普通に接してくれよ……。
変に優しくしないでくれよ、俺をイジメないでくれよ。
俺の不幸は、たった一度の偽善から始まった。
クラスでイジメを受けていた友達とも言えない奴に、下手な同情をしちまったのがそもそもの間違いだった。
イジメられている奴を助ける俺ってカッコイイ、なんて思い違いをしたのが不味かった。
そりゃ、標的が俺の方へ移るよな。
普通に考えれば分かるようなことじゃないかよ。
あの閉鎖的な空間がいけないんだよ、きっと。
帰ろう。
帰ってまた、寝よう。
今夜の星空は少し、綺麗すぎる。
◆
昨日はいつ寝たっけな。
確かスマホでアニメを見ていて……途中で寝たのか。
起きたのはいいけど、どうすっかな。
とりあえずアプリのログボでも――ん?
《マギナ・カスタム》
こんなアプリ入れたか?
しかも魔法陣のアイコンて……中二か。
ま、いいか。
それより――んん?
《パズネコ》
今度はパズバト――パズル&バトルのパクリか。
寝ボケた俺は何て言うアプリを落としてんだよ。
ついに俺、始まったな……なんてな。
もういいや。
二度寝しよ……。