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覚醒  作者: 中島 遼
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マインドコントロール2

「で、具体的にどうするかだけど」

 萌に説明をしながら、今が夏休みで良かったと思う。

 結局は病院の前で待機し、順番に操作するしかないのだ。

「あとは瀬尾さんに二人を借りるようお願いするだけなんだけど……」

 瀬尾は村山の父親から近づくなと言われて以来、その辺りにもの凄くセンシティブになっている。

「普通に四人で遊ぶって言えばいいんじゃない?」

「ま、そだけどさ」

 二人はどういう内容の刷り込みをするかについて作戦を練った。

 高津は数日前からこのことをずっと考えていたこともあり、企画は割合スムーズにできあがる。

「あんまり難しいこと言っても、夕貴には理解できないもんね」

「夕貴は難しい言葉はわからないけど、難しいことを自分なりに理解する頭は持ってるよ」

 萌が溜息をつく。

「やっぱりあたしだけ、何だか他の四人と違う感じが濃厚よね」

「どうして?」

「だって頭悪いもん」

「そんなことないよ。短絡するけど結果オーライな感じなのは、きっと正しい道を選ぶ力があるからだよ」

 それは前から思っていた。

 萌は説明を全部聞かないのに、すぐに答えに到達する。

 村山や高津とは頭の造りが違うのだと、以前彼と笑い合ったこともあった。

「言ってる意味がわかんない」

 少し膨れた顔も可愛い。

 一緒にいるだけでこんなに幸せなのだ。

 伊東なんぞに盗られてはなるまいとの思いを強くする。

「……で、予備校のことなんだけどさ」

「圭ちゃんも唐突ね」

「だって気になってたから」

「……成績、悪いもんね」

 高津は首を振る。

「というか、どこの予備校行くの?」

 予備校はこの三町に一つ、高津の行っている学校しかない。

 だが、塾と呼ばれるものは複数あり、萌がどれを選ぶのかが気になった。

「もし、差し支えなかったら、俺と一緒の所に行かない?」

「無理」

 萌は即座に首を振る。

「圭ちゃんが行ってるとこって、入校テストがあるもん。絶対入れないよ」

「大丈夫だって、営利団体なんだし」

 言いつつも、やや不安はある。

「何だったら、一緒に勉強する?」

「理系の圭ちゃんと勉強しても、足引っ張るばっかりだし、いいよ」

 少しどきりとする。

 伊東の陰がどうしてかちらつく。

「学部とか、決めたの?」

「うん。大体は」

「どこ?」

「文学部」

 少し相手を眺める。

「……へえ」

「何よ」

「文学部行って、何するの?」

 萌は少し目を細めた。

「この町の伝説探し、かな」

「……伊東も一緒なの?」

「伊東君の方が先輩よ。あっちは大分前から史学科に行きたいって言ってたし。あたしはほんとについ最近だし」

 こんなに近いのに、どうして萌が遠ざかっていくように思えるのか。

「萌は理系は嫌?」

「好きとか嫌いとかじゃなくて、根本的に理解不可。どうして物が落ちることを数式に変換しなくちゃならないのかが既にわかんない」

「……それがあるから飛行機も飛ぶし、耐震建築のビルも建てられるんだよ」

「じゃあ、そういうのは圭ちゃんに任すね」

 にっこりと萌は笑った。

「圭ちゃんはどこに行くの? やっぱり工学部?」

「……うん、多分」

 実際にそう聞かれると、電気にするか機械にするかすら決まっていないことに忸怩たる思いがする。

 就職に有利そうだから電気、というのも萌や伊東の前では何となく恥ずかしいような気もして……

「いずれにしても萌は大丈夫だ」

「何が?」

「パワーあるから、本気出したらすぐに成績上がるよ」

「根拠なくそういうこと言わないで。多分あたしは浪人するから」

「何で今から諦めてるの?」

「姉妹がいて、母親が専業主婦で、父親が普通のサラリーマン、となったら私学は無理。国公立でないと」

 それは確かに厳しいかも知れない。

「国公立だと、通えるところってほとんどないんじゃない?」

「うん」

「それに萌のお父さんが下宿を許すはずないだろうしね」

「……やっぱりそう思う?」

「下宿したら、下手な私立より大変な場合もあるよ」

「安っすい寮のあるとこ、探さないとね」

 萌は全く心配していない。

 親父など何とでもなると思っているのだろう。

(……それに)

 彼女はまったく高津の受験校について気にしていない。

 彼が北海道や沖縄に行っても、きっと別段何とも思わないだろう。

 そう思うと何だか切ない。


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