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6話「鬼の戦い」

「気をつけてねー。あっちの小鬼は能力タイプだから」

「能力タイプ?」

「小鬼にはそれぞれタイプがあるんだよ。この二匹はパワータイプと能力タイプだねー」


 やっぱりタイプがあるのか。明らかに見た目が同じでも、行動パターンが違うからな。


「昨日私たちが倒したのもパワータイプだねー。両腕の力が何倍にも強化できて、主に接近戦でくるタイプだよ」


 名前まんまのタイプってわけだな。確かに、昨日の子鬼は力が半端なく強かった。人間の俺は一発で即死だったし。


「能力タイプってのはなんだ?」

「こっちはけっこう厄介なんだよねー。それぞれの個体が一~二つずつ能力を持ってて、その能力はランダムなの。その代わり、パワータイプほどの力はないんだけどねー」


 なるほど。つまりこいつは言うなら『飛行』と『ビーム』の能力ってわけか。

 パワータイプとは真逆の遠距離タイプだ。確かに厄介だな……飛ばれると、俺はなにもできない。でも向こうはビームで攻撃できる。一方的な展開が目に見える。


「大丈夫?」

「まぁやってみる。蓮はとにかくそっちの奴を倒してくれ」

「了解!」


 蓮が手を掲げた。その意図がわかり、俺も手を出す。

 ハイタッチだ。お互いに、任せた! って気持ちを込めて、パァン! と高く音が響く。それを合図に、俺たちはそれぞれの相手に向き直った。


「さぁ~~って。やるか」


 あの飛行機野郎。さっきはマジで好き放題やってくれたからな。お返ししてやらないと気が済まない。

 とは言っても、俺は鬼狩がまだ生成できないからな。あいつを倒せない。俺がやるのは時間稼ぎだ。蓮がもう一匹を倒すまでの間、あいつを引き付ける。


「ん?」


 小鬼の目が赤く光った。

 またビームだ。直線に飛ぶだけのビームだけど、速度がある。人間のときは避けたっていうか、ほとんどビームの衝撃で吹っ飛ばされて運良く避けてたって感じだったからな。


「――!?」


 赤い光が弾けて、ビームが撃ち出された。人間のときはほとんど目視じゃ見えなかったけど、鬼人化した今なら視力が何倍にも上がってる。見えるし、体感速度も遅い。今度は真正面から避けてやる。

 軽く……軽く……横にぴょん。


「――おぉっし!」


 歓喜の声と共に、俺はビームを横に飛んで回避した。特訓の成果だ! やれば出来る子だ! 俺!


「……あれ?」


 ……が、飛びすぎた。勢いを殺しきれずに、俺の片足が草地に埋まる。

 む、難しい。昨日はただ自分の動きだけ考えてればよかったけど、実戦となると相手の動きも見ながら動かないといけないからな。特訓の通りにはいかない。

 その隙を見逃さず、足が埋まってる俺に向かって、小鬼が連続でビームを撃ってきた。


「うおぉっとぉ!?」


 埋まっていた足を無理やり外して、体ごと横にダイブ。あっぶねぇ……当たるところだった。いくら鬼人化してても直撃を食らったら痛いだろうからな。

 ……これじゃ駄目だ。逃げてるだけじゃ、人間のときとなにも変わらない。


 ――反撃だ!


 ジョギングをする感覚で走って、小鬼に接近する。そんな感覚で走っても、鬼の体ではものすごい速さで走れる。草地に足が埋まることもない。よし! うまく走れてる!


「おりゃあ!」


 その勢いのまま右拳を振りかぶって……一撃お見舞い!


「どあぁぁぁっ!?」


 小鬼は腕を広げて上空へと飛んだ。俺の拳はおもいっきり空振り。でも勢いは殺せず、そのまま格好悪く草の上を転がる。

 卑怯だぞ! あの腕! 助走もなしに飛ぶとかよぉ! 飛行機だって滑走路を走ってから飛ぶだろうが! それなら鳥みたいな翼にしろよ! まぎらわしい!


「げ……」


 上空を旋回しながら、小鬼はビームのエネルギーを充填し始めた。

 やばいな……上から撃たれたんじゃ、それこそ狙い撃ちだ。俺はなにもできない。


「って考えてる間に撃ってきたぁ!」


 光が弾けて、ビームが撃ち出される。

 落ち着け……落ち着いて見れば避けられる! 落ち着いて対処しろ!

 避けるために、俺は身構えた。力の加減に気をつけて……軽く……。

 でも、俺のその対処は無駄に終わった。


「……は?」


 撃たれたビームはさっきまでの物とは違っていたからだ。

 直線的な一本線のビームじゃなくて――拡散する、散弾のような細かい球体のビームだった。あの野郎……威力を落として数で勝負してきやがった。


「ぐっ!?」


 まるで雨のように無数に降り注ぐビーム。さすがに、今の俺じゃ避けきれない。何発か直撃を食らって膝を付く。

 生意気にも、考えて、戦い方を変えやがった。さっき魂を一つ食べただけで、そのぐらいは考えられるように成長しやがったのか。魂を食べれば食べるほど強くなる。それが邪鬼だからな。小鬼も同じだ。


「……魂か」


 さっきの公園での光景を思い出す。

 遊んでいる娘を、笑顔で見ていた母親。微笑ましい親子の幸せを……あいつは簡単に奪いやがった。

 蓮の手伝いだからとか、そんなことじゃない。

 こいつらは……倒さないといけない存在だ!


「あの腕をなんとかすれば……」


 腕を封じれば、あいつはもう飛べない。そうすれば倒すのなんて楽勝だろうけど……。


「……」


 昼過ぎになって、太陽が眩しく光っている。それを見て、俺は一つの作戦を思いついた。まともに戦り合ってたら分が悪い。イチかバチか、やってみるか。


「よぉ~~し」


 俺は足を何度も確認した。

 ちょっと難しいかもしれないからな。どのぐらいの感覚でやればいいのか、一発勝負だ。


「!?!?!?!」


 うるせぇな。馬鹿みてぇな奇声だしやがって。焦んなくてもすぐに行ってやるよ。


 ――お前のところにな!


 また発射された拡散ビームを最低限避けながら、走る。

 何発かは食らってもいい。けっこう痛いけど我慢する。俺は上空の小鬼を見据え、それ目掛けて――飛んだ。


「わっ! たたた……」


 ちょっと失敗。足を踏み込んだときに草地を少し抉っちまった。でも、飛ぶことには成功。勢いも良い。これならいけそうだ。


 ――あいつよりも高いところに!


「こっちだぁ!」


 小鬼よりも少し高いところまで飛んだ俺は、小鬼の目を向けさせるために、手を叩いた。


「鬼さんこちら! 手の鳴るほうへ!」


 俺は意外とこれが気に入ってるのか? 台詞は別にいらないのに。


「!?!?!?!」


 小鬼が一つ目を俺に向けてきた。

 太陽を背中に向けている、俺へと。


「!?!?!?!」


 充填したビームを俺に向けて撃ち出してくるが、太陽の光で目が眩んで、ビームは見当違いのところへと撃ち出された。馬鹿め。焦って拡散ビームじゃなくて直線ビームで撃ってきやがった。拡散ならまだ当てられたかもしれないのにな。


 ――いまだ!


「おりゃあ!」


 小鬼の片腕を掴んで、俺はそのまま急降下した。

 それだけじゃない。力任せに小鬼をブンブン振り回して勢いを倍増。そして、


「!?!?!?!」


 小鬼を地面に叩きつけた。その反動で――小鬼の片腕が折れた。


「やっぱりな……翼状態の腕だと、薄くなるから強度が落ちるんだろ? だから遠距離で攻撃するんだろ? 鬼狩じゃなくて、ただの鬼の力でも破壊される可能性があるからな」


 小鬼の片腕を壊した。これでこいつはもう飛べない。俺にとっては大金星だ。


「蓮! そっちはどうだ……って、おわぁ!?」


 もう一匹の小鬼と戦ってた蓮のほうを見て、あまりの光景に言葉が悲鳴に変わった。

 なんか……小鬼がこれとないぐらいボッコボコにされてるんだけど。


「終わったよー」


 小鬼の巨体が……殴られすぎて変形してる。おまけに角槌の角部分で貫かれた痕があちこちにある。い、痛そう……。

 蓮強っ!? ていうか怖っ!? 蓮怖っ!


「あ」


 完全に油断してた俺に、片腕を折られて動きを止めていた小鬼が、またビームの発射体勢になっていた。

 やばい!? 近すぎる!? 避けられないぞ!?


「!?!?!?!」


 ビームが撃ちだされる瞬間――小鬼の顔面に黒角のインパクト部が炸裂。ビームエネルギーが爆発を起こし、小鬼の顔が吹っ飛んだ。巨体が仰向けに倒れる。


「ふぅ……終わり~」

「……」


 え、えぐい……なんか小鬼に同情したくなる。

 活動の限界を超えた二匹の小鬼の体は、昨日と同じ、小さな光に分解されて、空に昇っていって消えた。

 はぁ~~~終わったか……。


「すごかったね君! 充分相手にできてたよー」

「……あれだけボコボコにされてる小鬼を見たら、俺がまだまだ大したことないってのがよくわかった」


 もはや小鬼なんて、蓮の相手じゃないってことか。


「私、戦鬼だからね~」

「いくさおに?」

「鬼にも種族があるんだよー。その中でも戦鬼は戦いに特化した種族なんだー」


 へぇ。鬼にもいろいろあるんだな。


「君もすごいよー。まだ実戦二回目なのに、あれだけ戦えるんだもん!」

「はは。なんだろう。複雑。皮肉にしか聞こえない」


 もちろん、蓮は純粋にそう思って言ってるのはわかってるけど。

 あ、ていうか……昨日からずっと気になってることがあるんだ。


「『君』ってそろそろやめてくれね?」

「え?」

「せっかく『ソラ』って名前を付けてくれたんだから、名前で呼んでくれ」


 昨日からずっと、俺のことを君って呼んでるんだ。

 それがなんか嫌だった。余所余所しくて。蓮はそんなつもりはないんだろうけど。せっかく名前をくれたんだから、それで呼んでほしい。


「……そういえばそうだったねー。ごめんね。忘れてたよー」


 忘れないでくれ。あなたが付けたんだから。


「じゃあ……すごかったよ! ソラ!」

「……」


 なんだろう。呼ばれたら呼ばれたでなんだか気恥ずかしい。

 俺も面倒くせぇな。


「そ、そういや……ここに来るまで、かなりの人に見られたけど大丈夫か?」


 蓮から目を逸らして、話題を変えた。

 でも実際少し気になってる。駅前の公園からずっと走ってきて、小鬼はかなりの人に目撃されたはずだ。騒ぎになってなきゃいいけど。


「多少は仕方ないかもねー……前は閻魔様の力で、邪鬼と小鬼を目撃した人の記憶を消すってことをやってたみたいだけど、最近は邪鬼がこっちの世界に出てくることが多すぎて、閻魔様が面倒くせーってやらなくなっちゃったからねー」


 相変わらずふざけた上司だな。

 すでに日本中で邪鬼に関するニュースが出回ってるのは閻魔がずぼらなせいかよ。


「大丈夫大丈夫! たくさんの鬼が現世界で邪鬼を追ってるからさー」

「……でも俺みたいに殺される人間も皆無じゃないんだよな?」


 さっきの親子みたいに。危険な目に遭うってこともあるってことだ。


「……? どうしたの?」

「いや、なんとかならないかなと思って」


 俺はただ手伝ってる身だけど……さっきみたいな状況は放っておけない。

 気になっちまうんだ。邪鬼に襲われる人のことが。


「ソラは本当に他人のことばっかり気になるんだね~」

「……悪かったな。どうせは俺は他人ばっかり気になる馬鹿ですよ」

「優しい。とも言えるよね? 馬鹿でも、私は好きだよー」

「……」


 好きって……女の子(鬼だけど)がそんなこと簡単に口にするなよ。

 でもやっぱり馬鹿ってのは変わらないんだな? 複雑。


 さてと、小鬼は倒したけど、気になることもいくつかあるよな。


「さっきの黒い穴。あれって邪鬼の仕業の可能性あるんだよな?」

「ほぼ決定だと思うよ。小鬼が自分で移動してきたってことはないと思うし。ワープなんて能力は、低級の小鬼には無理だから」


 だとすると、邪鬼はわざわざ俺たちのところに小鬼を送ってきたことになる。

 俺たちを消すために。俺たちの存在に気付いて。


「ちょっと警戒したほうがいいかもな」

「そだねー。閻魔様に報告いれとかないとかなー」

「ん?」

「現世界に来た鬼を自分から襲撃するってことは、かなり魂食べて成長してるからねー」


 魂を食べると邪鬼は成長する。

 今倒した小鬼も、魂を一つ食べただけで、戦いの中で自分で考えて動いてた。邪鬼も小鬼も初期段階だと、知能は全く無いって蓮は言ってたからな。


「姿もかなり変化してると思うよー」

「外見も変わるのか?」

「どう変化するかは個体によるけどねー。個体によっては……人間に近い姿に変化することもあるから」


 厄介だな。それだと探しづらくなる。

 それにしても、なんで邪鬼なんて存在が生まれるんだろうな。

 地獄で生まれる異形の鬼。蓮はそう言ってた。

 人間の魂を食べる。そんな奴が生まれるのには、なにか理由があるんじゃないのか?


「なぁ? 邪鬼ってのはなんで――」


 俺の声が止まった。


 いや、止められた。


 気がついたら俺の体は――重い衝撃を食らって吹っ飛んでいた。


「なっ!?」

「ソラ!?」


 草地を深く抉りながら数メートル吹っ飛び、体が捻れるような激痛が走る。

 鬼人化してる俺の体が強い痛みを感じる? 小鬼に殴られてもなんともない体なのに。


「……」


 小川の手前でなんとか止まった俺の体は、痛みが強いけど、動けないほどではなかった。


 ――と言うのは、ただ、あまりの痛みで感覚がマヒしてるだけだった。


「……がふっ」


 口から血が溢れ出した。

 さっきの重い衝撃は、俺の胸を直撃したらしい。黒い皮膚にヒビが入って砕けていた。


「ソラ!?」


 蓮が駆け寄ってきたところで、俺の鬼人化は強制解除された。

 一撃で。

 なんだよ……いまのは……。

 目が少し霞む。その目に映ってきたのは……さっき、小鬼が送られてきたときと同じ黒い穴。

 なんだろう……あの穴の奥、すごく嫌な感じがする。


「……」


 黒い穴からゆっくりと姿を現したのは……黒く長いコートを羽織った男。


 いや、違う。男、じゃない。


 正確には人間ですらない。


 額に……角がある。


「――!?」


 蓮が黒角を構えた。

 目の前にいる、圧倒的存在が、強制的に武器を構えさせたかのように。


 まさか……こいつ……。


「邪鬼……?」


 俺たちが探してる邪鬼なのか?


「……ソラは動いちゃ駄目だよ」


 蓮の表情が、今まで見たことのないほど、強ばっている。

 それだけの相手。蓮はそう判断している。

 間違いない……あいつは邪鬼だ。


「……」


 邪鬼は人間のような二つの赤い目で、俺と蓮を交互に見てきた。

 そして……まるで口が裂けているかのように、不気味に笑った。


「……ツヨイノハ、ドッチダ?」


 喋った……? 喋れるのか?

 それに……なにを言ってるんだこいつは?


「――!?」


 邪鬼が突然放った、強い殺気。

 俺は全身が固まり、身動きすら取れない。まさに蛇に睨まれた蛙。

 でも蓮は、すでに攻撃に移っていた。


「やあぁ!」


 体を一回転させながら、黒角を邪鬼の額目掛けて横薙ぎに振り払う。

 先手必勝の蓮の攻撃。邪鬼は全く動かない。


 いや……。


 動く必要がないのか?


「うっ!?」


 邪鬼の額に黒角が当たる寸前。攻撃を仕掛けていたはずの蓮が、見えない力で弾かれた。

 あれは……さっき俺が食らった攻撃だ。なんだよあれは……。


「……」


 蓮はすぐに体勢を整えて、バックステップ。距離を取った。

 でも、今の一撃で、口から僅かに血が流れてる。

 鬼人化が一撃で解除されるほどの攻撃だ。生粋の鬼だって、かなりのダメージのはず。


「……ツヨイノハ、オマエカ?」


 邪鬼がまた喋った。

 さっきから、意味のわからないことを言ってる。

 地獄の底から亡者が恨み辛みを叫ぶような……気味の悪い声だ。聞いてると、耳がおかしくなりそうだ。


「……ソラ」


 蓮が俺に振り返って、笑いかけてきた。

 こんな状況で……なにを笑ってるんだよ。


「もし、私がやられちゃったら……すぐ逃げてね?」


 ……なんだよそれ。


 今の一回だけの攻防で、蓮は理解したみたいだ。


 ――勝てないと。


「蓮……」


 叫びたかったけど、胸の痛みで声が出なかった。


 そこからは……もう見ていられなかった。

 邪鬼の見えない力で、一方的に攻撃を受ける蓮。

 体はボロボロだ。もう立っているのがやっと。


 なのに……倒れない。


 俺がまだその場にいるから。


 俺が逃げるまでは……。


「……ふざけんな」


 逃げられるわけないだろ。


 ――蓮を見捨ててなんて!


「鬼さんこちら! 手の鳴るほうへ!」


 俺は手を叩き、邪鬼に向かって叫んだ。


 成長したって、習性は同じだろ。こっちに注意を向けて、その間に蓮が――。


「……え?」


 手を叩く音に、邪鬼が俺に目を向けてきた。

 そして、笑った。

 死神のような笑みで。

 人間が死ぬ寸前、人生が走馬灯のように流れるって聞いたけど、あれ、マジだな。意識が飛びそうになるぐらい、俺の脳内に今までの記憶が映って流れた。


 やばい。


 俺、死んだわ――。


 邪鬼が一瞬で俺に接近してきた。

 俺はなにもする暇もない。

 ただ、邪鬼の腕で体を貫かれるのを待つだけ。


「――!?」


 蓮が俺と邪鬼の間に入ってきた。

 そして……黒角で邪鬼の腕を受け止める。その瞬間――。


「蓮!?」


 黒角の頭部にヒビが入った。

 顔を歪めながらも、蓮は黒角を無理やり振り、邪鬼を後方へと飛び退かせる。

 そして……そのまま膝を付いた。

 倒れる蓮の体を受け止める。


「蓮!? しっかりしろ!」


 鬼狩は鬼にとって、力の源。命その物だ。

 それにヒビが入る。それがどういうことか、考えなくてもわかる。


「……ごめんねー」


 蓮の息がすごく荒い。顔色もすごく悪いし、苦しそうだ。

 やばい。このままじゃ蓮が……。


「ソラを逃がす時間……稼げなかった……」

「……」


 ……俺のこと心配してる場合かよ。

 自分より他人の涙が気になる馬鹿。お前も似たようなもんだろうが。

 俺の為に……お前だって馬鹿だよ。


「……ツヨイノハ、ダレダ……ヨワイノハ、ツマラン……ツヨイノハ、ダレダ」


 邪鬼を睨んでから、蓮の顔から泥を拭ってやる。


「蓮。辛いときに悪いな」

「……?」


 ゆっくりと、蓮の唇に……唇を重ねた。


「ソ……ラ?」


 蓮を優しくその場に寝かせて、俺は邪鬼に向き直った。

 黒い皮膚が、全身を包み込む。

 さっきよりも、体が熱い。

 全身が燃えてるみたいだった。


「ツヨイノハ、ダレダ……ヨワイノハ、ツマラン……ツヨイノハ……ダレダ……」

「……うるせぇ」


 邪鬼とかなんだとか、関係ねぇ。


「もう喋るな。お前は殺す」


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