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5話「鬼の襲撃」

「こんにちは~」


 俺が死んでから一夜明け、商店街での買い物の後、蓮が携帯電話(地獄製)でどこかに電話したと思ったら、空から降りてきたのは……小さな子供。悪魔みたいな翼を生やして、パタパタと飛んでる。頭踏んだら翼消えて落ちるのかな? 有名アクションゲームの敵キャラみたいに。


「どうも。使い魔急便です」

「これをウチまで運んでほしいんですー」

「承知しました。料金はいつもどおり、閻魔様にツケときます」

「よろしく~」


 え? それでいいの? 閻魔にツケといていいの?

 使い魔急便の子供は、男の子か女の子かも見分けがつかないような年頃の子だ。体に似合わない大きな鞄の口を開けると、俺たちが買い物した荷物が全部吸い込まれた。なんだあれ? どういう仕組みだ?


「重量OK。では二分以内に部屋に運び入れておきます」


 早っ!? カップ麺も作れないじゃん!

 使い魔急便の子供は、深くお辞儀をすると、また空に浮かび上がっていった。

 ……なんでもありだな。地獄。


「さぁってと……じゃあ邪鬼の痕跡を探そうかー」

「そういやそんなこと言ってたな」


 邪鬼が活動した場所には、食べた魂のエネルギーの痕跡が残る。それを探せば邪鬼にたどり着くかもしれないって。


「痕跡って鬼ならわかるのか?」

「そだねー。鬼はそれを頼りに邪鬼を探すから」


 まぁ何の手がかりもなしに探すのは大変だよな。邪鬼が魂を食べる行動をする限り、追うための手がかりは消えないってことか。


「でも、邪鬼がすでにこの町にいないってことも考えられるんじゃねぇの?」

「考えられなくはないけど、基本的には大丈夫だよー。邪鬼はあんまり行動範囲広くないからね。一度決めた活動地点から動くことはないから。大体は小鬼を使って魂を食べるしねー」

「小鬼?」


 また新しい単語が出てきた。小鬼ってなんだ?


「昨日倒した邪鬼のことだよー。正確な名前は邪鬼の手下で、小鬼って言うんだー。小鬼が食べた魂を、邪鬼がまた食べるの。そのほうが効率がいいからねー」


 小鬼ってでかさじゃなかったけどな。

 まぁ大きさは関係ないか。たぶん、力の大きさでそういう名前になってるんだろう。邪鬼本体に比べたら、それこそ小さい鬼レベル。

 ……邪鬼本体か。どれだけ強いんだろうな。


「そういや電化製品も何個か買ってたよな?」


 炊飯器とテレビとか買ってたけど、もう家にはあるし。なんで買ったんだ?


「閻魔様にお願いされたのー。現世界の電化製品は性能が良くて壊れにくいから、地獄でも大人気なんだよ」

「ん? つーか地獄にも電化製品とかあんの?」

「あるよー。現世界ほどの規模じゃないけど町があるし。お店もちゃんとあるんだ。コンビニだってあるよー」

「……まじかよ」


 地獄のイメージが全然変わる。

 血の池とか屍の山とか、そういう殺伐としたイメージだったけど。まぁそれも人間の勝手なイメージだけどさ。


「その服似合ってるよ~」

「……それは褒めてるのか?」


 さっき服を買って、蓮があまりにも言うからすぐに着替えたんだけど。いや、まぁTシャツだけだけどさ。そのTシャツが……白地に黒字で『働いたら負け』とプリントされてるんだ。蓮が俺にぴったりだって言うから、ほぼ無理やり買ったんだけど……。


「俺にぴったりってどういう意味だ?」

「働きたくない感じが~」


 確かに俺は働きたくないって思ってたけど、働いてたからな? ニートじゃないからな? そこのところ勘違いしないでね。


「ペアルックのも買ったしねー」


 そうなんだ。デフォルメされた鬼の絵がプリントされてる、簡単に言えばカップル用のTシャツも買ってた。


「あれって俺と着るつもりなの?」

「そだよ? なんでー?」

「……ペアルックの意味知ってる?」

「仲良しが着るんだよねー?」


 うん。まぁ間違ってはいないけど。

 基本、恋人が着るための物なんだけど。そこは別に説明しなくてもいいか。恥ずかしいし。


 他にも歯ブラシとか食器とか布団とか(昨日は座布団重ねて布団にして寝た。蓮が同じ布団で一緒に寝ようって言ってきたけどさすがに断った)、服以外にもかなり買った。すっげぇ金かかってたけど。


「これも経費になるのか?」

「そだねー」

「そもそも、経費ってどうやって受け取るんだ? 例の使い魔急便?」

「ううん。現世界の私の口座に振込まれるんだよー」


 そこは普通なのね。


「……ん? 口座って作るのに身分証明書とかいるはずだけど。身分証明どうしたんだ?」


 鬼なのに。まさかそのままの身分で通るわけないだろうし。


「偽造だよ?」


 可愛い顔してなんてことを言うんだ。


「……偽造って犯罪なの知ってる?」

「私、鬼だもん~。こっちの世界の法律なんてわかんない~」


 都合の良いときだけ異世界から来ましたアピールするな。

 まぁ別に偽造してなんかやるわけじゃないからいいんだけど。口座を作ってるだけだし。


「あ、そうだ。君にも少しお小遣いあげるね~」

「お小遣い?」

「自分で使えるお金持ってたほうがいいでしょ?」


 まぁそれはそうだけど。お小遣いもらうのなんて学生以来だから、なんか懐かしい響きなんだよな。


「五十万円ぐらいでいい?」

「だから多いっての!?」


 そんな大金財布に入らねぇよ!


「多いの?」

「生前の俺が二ヶ月働いても届かない金額だっての!」

「じゃあ十万円ぐらい?」

「それでもまだ多い!」

「まぁまぁいいじゃないのー」


 無理やり十万円を押し付けてきた。

 まあ財布にはギリギリ入るかもしれないけど……蓮って金銭感覚おかしいよな。いくら経費でどうとでもなるとは言っても。


「そもそも俺、財布ないけど?」

「さっき買っておいたよー」

「……いつの間に」


 蓮がバッグから出してきたのはメンズの白い長財布。俺が長財布派だってなんで知ってるんだ?

 現在位置は駅前。昨日小鬼とバトったのはここから商店街を抜けて、住宅街の近くにある公園。正直、それだけなんだけどな。俺たちにある情報は。


「痕跡って言っても、まさかそれを当てもなく探すしかないってわけじゃないよな?」

「そのまさかしか方法がないんだよねー」

「……」


 それってどれだけ時間かかるんだ?

 さっき、邪鬼は一定の範囲でしか行動しないとは言ってたけど。それでも途方もない話だ。

 ああそうか。邪鬼がそういう習性だからこそ、地獄から来た鬼はマンションに部屋借りて追ってるのか。でなきゃ移動ばっかで部屋なんか借りても意味ないもんな。


「痕跡ってけっこう遠くでもわかるもんなの?」

「残ってる痕跡は近づかないとわからないんだけどね。でも、邪鬼か小鬼が実際に活動してれば、遠くでも痕跡は感じられるよー」


 なるほど。それは確かに歩いて探すしかなさそうだ。

 じゃあ今日は残ってる痕跡を探して、邪鬼の行動範囲を絞るとか、それが目的だな。


「まぁのんびりやろうよー」

「のんびりでいいのか?」

「……早く終わったほうがいい?」


 突然、蓮が少し寂しそうな顔をした。あんまりそんな顔しないからすぐにわかる。


「やっぱり、嫌だったかな? 鬼の力をもらって、邪鬼と戦うのなんて……」

「……」


 あーなるほど。今の俺の発言が、蓮にはそう聞こえたのか。

 でもそれは誤解だな。


「嫌もなにも、俺はもともと死んでる人間だからな。感謝ぐらいしないとバチが当たる。とことん付き合うよ」

「……」


 俺の答えが以外だったのか。蓮はきょとんとした顔をしていた。

 でもそれは本心だ。もうこうなったら全力で蓮を手伝う。だからこそ、昨日も鬼人化の練習したんだし。力になりたくて。


「えへへ~」


 蓮の顔がめっちゃ緩んだ。か、可愛い……。


「よろしくね!」

「あ、あぁ……」


 照れくさくて目を逸らす。いちいち可愛いぞ。ちくしょう。


 改めて、邪鬼を探すために魂の痕跡を探す。

 まぁ歩いてるだけなんだけど……それしか方法ないし。

 でも邪鬼か小鬼が実際に活動すれば、蓮にはわかるみたいだし。誰かが襲われそうになったら助けにいけるってことだ。そこは安心できる。


 ……ていうか、蓮よ。


「ソフトクリーム食ってるんじゃねぇよ」

「ふえ?」


 そんな不思議そうな顔をするな。俺が間違ってるみたいな感じになる。今はいちおう仕事中。仕事中に買い食いするな。


「食べたいのー?」

「違うから。仕事中に買い食いなんてしたら上司に怒られるぞ」

「閻魔様も仕事しながらプリン食べてるよー?」


 上司を見て部下は育つとはよく言ったものだ。

 まぁ歩いてるだけだから……確かに買い食いもしたくなるけど。

 分かれて探すってことも考えたけど、俺は生粋の鬼じゃないから魂の痕跡なんてわからないし、そもそも一人じゃ鬼人化できない。単体で動くメリットがないんだ。


「あぁぁぁぁっ!?」

「な、なんだ!? どうした!?」


 急に蓮が叫んだ。

 なんだ!? 邪鬼か? 小鬼か? 出たのか! とうとう出たのか!


「忘れてた……」

「は? なにを?」

「閻魔様にプリン百個送るのを!」


 くだらねぇ。そんなことで大声出すなよ。


「こっちにくるときに頼まれてたんだったよー」

「つーか、プリンぐらい地獄にないのか?」

「現世界のプリンのほうが甘くて美味しいんだってー。基本的に食べ物はこっちのほう美味しいよ~」


 いやいやでも百個って……どんだけ食べる気だよ。本当に仕事中に食ってるんだな。


「ちょっと買って送ってくるからここで待っててくれる?」

「俺も行くか?」

「すぐ終わるから大丈夫だよー。使い魔急便だしねー」


 そう言うと蓮は近くにあったスーパーへと走っていった。

 ……百個って簡単に終わるか? けっこう重いぞ。いくらプリンでも百個となると。売り場に百個も置いてないだろうし。プリンを箱買い? 聞いたことねぇよ。

 まぁ、力仕事で俺が蓮に敵わないのは実践済みだけど。朝、部屋を片付けてるとき、俺が持てなかった重いダンボールを、蓮は軽々と運んでたし。そこは鬼と人間の差か。俺も鬼人化したくなったほどだ。


「……」


 いきなり一人になると、やることもない。

 駅前にある小さな公園。そこでベンチにぼーっと座ってる青年。

 ……傍から見たらニートだよな? 俺。

 平日だから人なんてほとんどいないし。だからこそ、なんかそんな気持ちがすごく湧いてくる。なんだろう……居心地が悪い。


「……平和だな」


 公園で遊んでる小さな女の子。それを横で見ている笑顔の母親。

 いいよなぁ。親子ってもんは。

 ウチとは大違いだ。あれだよあれ。あれが親子の形ってやつだ。

 昔は俺もあんなだったのかなぁ……いつからウチはあんなになったのか。


「……いや、違うか」


 ウチは昔から変って言えば変だった。


 特に親父。


 普段はどっちかって言うと温厚だけど、酒を飲むと頭がおかしくなる。

 あとはひたすらに金にだらしがない。俺が子供の頃、俺、兄貴、母さんで実家に里帰りしてる間のことだ。当時借家に住んでて、親父に家賃を払っておいてくれとお金を置いていったんだ。

 ところが親父は、その金を別のことに使い込んでいた。

 あまりの出来事に、母さんが泣いてたのをよく覚えてる。

 親父の両親、つまりは俺のじいちゃんとばあちゃんに連絡して、怒ってもらったんだ。そして家賃はじいちゃんとばあちゃんが立て替えてくれた。

 まだあるぞ。俺がお小遣いとしてじいちゃんとばあちゃんにもらった金。それを飲みに行くからくれと言ってきたことがある。

 そんときの親父の言葉が「言うこときかないとわかってるな?」だ。父親が子供に言う言葉じゃないだろ。

 当時ガキだった俺は怖くて金を渡すしかなかった。

 大人になって考えてみると、親父は仕事をやめて酒をずっと飲んでるから頭おかしくなったんじゃない。

 昔からおかしかったんだ。そういう人間だったんだ。そう思う。

 まぁ、今は変なこと言ってきたら、すぐにでもぶっ飛ばすつもりでいるけど。今ならガチで殴り合っても楽勝だ。仕事しねぇで弱りきってるジジイなんか。

 正直、母さんの実家に帰ろうかとも考えてたんだ。

 母さんを連れて。

 親父と兄貴はどうでもいい。

 実家に連れて行けば、親戚が周りにいっぱいいるから、絶対に面倒を見てくれる。母さんは兄姉が三人いるからな。とりあえず母さんを連れて行って面倒を見てもらって、俺だけ戻ってしばらく一人で暮らして、ある程度金を貯めたら面倒を見に行くって感じで。


 まぁ、今となってはどうなるかわからないけど。俺、死んじまったし。


 なにが言いたいかと言うと……。


「羨ましいな……」


 あの親子の家がどんな事情かなんて俺にはわからない。もしかしたら見た目以上に苦労してるってこともある。

 それでも……ああやって笑ってられるだけで、羨ましいと思う。


 ……しんみりとしちまった。


 今は仕事に集中しよう。俺は蓮を手伝うことだけ考えてればいい。


「……?」


 おもわず立ち上がる。その理由は……。


「今の感覚……」


 体がビリビリと震える感覚。体が危険信号を送っているような。

 これは……昨日、小鬼に襲われたときと同じ感覚だ。

 まさか――。


「――!?」


 俺の思考が答えにたどり着いたとき、目の前ですでにそれは起きていた。


「きゃあ!?」


 茂みから現れた巨大な影。そいつが親子の――母親の体を太い腕がガッチリと掴んでいた。

 白い巨体に赤い一つ目……間違いない。小鬼だ!


「お母さん!?」

「来ちゃ駄目! 逃げて!」


 母親が子供を制止した直後、小鬼が大きく口を開けた。そして……母親の顔から生気が消えていく。

 あれは……魂を食べてやがるのか!?


 魂を食べて、用済みとなった母親の体をその場に捨て、小鬼は一つ目をギョロリと動かして子供を見た。


「あ……う……」


 子供は恐怖で動けない。

 くっそ!? 助けないと!?

 でも蓮がいない。蓮がいないと俺は鬼人化できない。

 蓮を呼びに行く? いや、間に合わない!? 母親は魂を食べられただけだから、小鬼を倒せば元に戻るって蓮が言ってた。でも、あの子がこのあとどうされるかなんてわからない! 蓮を呼びに行ってる間に手遅れになったら――。


「考えてる場合かよ!?」


 俺は大きく息を吸って、両手を構えた。

 蓮がやっていた、あの方法で小鬼の目をこっちに向ける!


「鬼さんこちら! 手の鳴るほうへ!」


 おもいっきり手を叩きながら、あの言葉を叫ぶ。

 ……別に言葉はいらなかったか?


「――!?」


 小鬼が一つ目を俺へと向けてきた。よし。あとはとりあえずこの場から引き離さないと……その内、蓮が魂の痕跡を感じて来てくれるはずだ。それまで時間を稼ぐ!


「こっちだ!」


 手を叩きながら走り出す。小鬼の動きの速さはわかってる。普通の追いかけっこだとすぐに追いつかれる。それはわかってるけど、とにかく走るしかない!


「……って、あれ?」


 小鬼が動かない。おかしいな。手を叩いてるのに。

 なんて俺が思っていたら……小鬼の腕が、飛行機の翼のように変化した。


「なっ!?」


 そして、助走もなにもなく――こっちに向かって飛んできた。

 飛べるのかよ!? 卑怯だぞ!


「――!?」


 飛びながら、小鬼の一つ目が赤く光り出す。そして……目からビームのような物が撃ちだされた。俺に向かって一直線に。


「うぉたぁ!?」


 地面を転がってなんとか回避。

 あっぶねぇ!? 当たるところだった! あんなの食らったらひとたまりもねぇぞ!


「あんな攻撃……昨日の小鬼はしてこなかったぞ!」


 もしかして、小鬼にもいろいろタイプがあるのか?

 昨日の小鬼はどちらかと言うと単調で、ただ突っ込んでくるって感じの動きだった。腕もあんな風に変化しなかった。肥大化させてパワーを上げるのはあったけど。

 くっそ! 公園を出ちまった! どうする? あんまり人がいないところまで引き付けないと……。


「昨日の丘だ!」


 ここからなら、昨日特訓した丘が近い。そこまで持ってくれよ! 俺の体力!


「うおっ!?」


 また目からビームを撃ってきやがった。あいつ、俺の魂食う気ねぇな! 殺る気まんまんじゃねぇかよ! 破壊行動強すぎだろ!

 丘が見えてきた。最後の直線、全力でダッシュ! なんとか丘を駆け上って、反対側の小川が流れるほうへと下ろうとしたとき、


「うわっ!?」


 俺の足元にビームが直撃。衝撃で俺の体は吹っ飛び、丘を転げ落ちる。


「いってぇ……」


 痛みでしばらく立てなかった俺の前に、小鬼がズシン! と大きな音をたてて着地した。

 あー……もう逃げられないな。やべぇかも。


「お、落ち着いて話そうぜ? 俺はまだ戦う準備ができてないって言うか……今は戦いたくないって言うか……とにかく、今の俺と戦ってもつまらないって言うか……」


 時間稼ぎのトークタイム。

 小鬼は……首をかしげた。お? 聞いてくれてる?


「……んなわけないか」


 小鬼の一つ目が赤く光る。ビーム発射準備OK。

 話を聞いてくれるわけなかった。

 やっべぇ。まじ殺られるかも。


「――!?」


 小鬼の背中を駆け上がって、小さく飛んだ一つの影。見覚えのある得物を構え、大きく振り抜く。


「えぇい!」


 小鬼の頭を横から打ち殴り、巨体が回転しながら吹っ飛ぶ。

 ふわりと俺の横に着地したのは、蓮だった。


「ごめん! 遅くなっちゃった!」

「……今、俺は死を覚悟してたぞ」


 はは。腰抜けてる。

 蓮の手を借りながら立ち上がると、妙なことに気がついた。

 蓮が……今ぶっ飛ばした小鬼を見ていない。まだ倒せてないのに、どうしたんだ? 周りを警戒するように見渡す。そして、


「鬼さんこちら! 手の鳴るほうへ!」


 例の小鬼を引き付けるための行動を取った。


「どうしたんだよ? もう小鬼は目の前にいるぞ?」

「……もう一匹いるよ」

「え?」


 蓮がそう言った直後、丘の上空に、突然黒い穴が開いた。まるで別次元から開いたようなその穴から……もう一体の小鬼が出現した。


「に、二匹!?」

「小鬼が群れをなすなんて珍しいね……基本的に、単体で行動するはずなんだけど」


 冷静に分析してる場合じゃないだろ!


「それに今の穴……小鬼にはあんな力ないはず。まるで誰かがここに送ってきたみたいな……」

「だ、誰かって……」

「私たちが探してる邪鬼。しかいないよねー」


 ……え? それって。


「向こうも俺たちに気がついてるってことか?」

「かもしれないね。まぁ問題はないけどねー」


 小鬼二匹を前にしても、蓮は全く動じていない。

 今までも、こんな状況はたくさんあった。そんな風格が、今の蓮にはある。


 俺も……。


「……蓮、あの飛行機野郎は俺に相手させてくれねぇか?」

「大丈夫? まだ力は定着してないよ? 鬼狩の生成だって……」

「蓮が今ダメージ与えてくれたからな。蓮が一体相手してる間に、注意を引くぐらいはできる」


 蓮を全力で手伝うって言ったんだ。これぐらいはやってやる。


「……うん! じゃあ任せるね!」


 蓮は俺にキスをした。

 さすがにまだ慣れないけど、俺もいちいち動揺してたら駄目だ。

 ……でも、まだもう少し、慣れるのに時間がかかる。たぶん、今顔真っ赤だ。


 俺の体を黒い皮膚が包む。


 あの飛行機野郎め。さっきは散々とやってくれたからな。


 俺だって男だ。


「やられっぱなしじゃ気が済まねぇ」


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