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17話「鬼の修行」

「けっきょく俺が作るの?」


 流れ的に俺が作る流れじゃなかったじゃん。蓮がなに食べたい? って聞いてたから蓮が作る流れだったじゃん。なんで俺がハンバーグ作ってるの? ハンバーグってけっこう面倒なんだよ? 肉こねたり焼き加減調整したり……。


「まだでありますか?」

「はいはい! ただいま!」


 うぐぐ……急かすなよ! ハンバーグは焼き加減で味が全然変わるんだぞ! どうせなら美味しく食べてもらいたいじゃないかぁ!


「暇でありますから、さっきの話の続きをするであります」


 え? ちょっとまって! 俺ハンバーグ作ってるのに、このタイミングでさっきの続き? 片手間で聞いていい話なの? そんなわけないよねぇ!

 俺の心の声が虚しく響く。響くだけで、桜さんには届かない。本当にさっきの話の続きを始めた。


「結論から言うと、閻羅様が動き出すのは……一週間後であります」

「え? なんでわかるのー?」

「天邪鬼を復活させるという目的から考えて……まずは魂を集めること。それが重要であります。逆に言えば、魂が一定数集まらなければ、閻羅様は天邪鬼復活に動くことはない。ということであります」

「それが一週間後ってことですか?」


 なんでそんなことわかるんだろうな。

 最近子鬼の数が増えてたのは、閻羅が魂を集めることに躍起になってたからなのか?

 でも、それならちょっと気になることがある。そしてやっとハンバーグできた!


「俺たち、子鬼を倒しまくってるけど、そしたら魂集まらないんじゃねぇの?」


 ハンバーグをテーブルに置きながら、俺はその疑問をぶつけた。

 子鬼と邪鬼は魂を食べる。でも食べた魂は、子鬼と邪鬼を倒せば元に戻る。蓮はそう言ってた。だったら、閻羅が魂を集めることは不可能なはず。


「邪鬼は別でありますよね?」

「……」


 邪鬼とはあの交戦以来、戦ってない。

 確かに、それを考えると……邪鬼が魂を食べて集めてるって線は充分にある。

 でも、邪鬼の目的は蓮の力を奪うことだ。なら魂を食べてるとしても、それは自分の力をさらに上げるため。この前の二人の会話を聞いてる限り、あの邪鬼が閻羅のために動くとはあんまり思えない。

 あ……そうか。


「あの黒い子鬼か?」

「正解であります」


 邪鬼が魂からじゃなくて、自分の力で直接生んだ黒い子鬼。

 あいつらは俺たちに気配を察知できない。とすれば、黒い子鬼がその役目を担ってるのかもしれない。邪鬼自身は動かないでも、閻羅の目的に協力できる。

 協力関係。邪鬼はそう言ってたからな。


「じゃあ最初に俺たちの近くをうろついて、子鬼たちを指揮してた黒い子鬼は?」

「おそらく、ではありますが……魂の循環であります」

「魂の循環?」


 それは初耳だ。循環ってどういうことだ?


「一度邪鬼や子鬼に食べられた魂は、再び体に戻ると、濃さが増すのであります。それを循環と呼ぶであります」

「……濃さって鬼との相性のことじゃないの?」


 蓮がそんなことを言ってた。鬼との相性が良いことを、魂が濃いって言うんだって。


「似たようなものであります。濃さとは相性の良さ。つまり、邪鬼との相性の良さであります」

「……?」


 なんかよくわからない。つまり、どういうことなんだ?


「一度食べた魂を、また同じ邪鬼が食べれば……濃さ、つまり、相性が良くなって、力の倍増に繋がるのよ」

「……じゃああの黒い子鬼は、純粋に、邪鬼の力を上げるために俺たちに子鬼を倒させてたってことか?」

「そういうことね」


 一度魂を食べて、その魂で子鬼を生む。そしてその子鬼が倒されて戻った魂をまた食べる。それが魂の循環か。

 くそ……人間の魂をなんだと思ってやがるんだ。

 ってことは……子鬼を指揮してた黒い子鬼が、自分の役目を終えたと言わんばかりに俺たちに向かってきたのは……。

 もう成長する幅が無くなったから?

 逆に言えば、邪鬼はそれだけ強くなってるってことになる。

 ……。

 守れるのか? 俺が蓮を……。


「さっきのパワータイプっぽい黒い子鬼はなんだったのかなー?」

「私に対する威嚇のようなものだと思うであります。閻羅様からの」


 閻魔の側近がこっちの世界に来たんだ。警戒するのは当然か。

 ってことは、閻羅も俺たちが仕掛けてくることはわかってる。止めるにしても、一筋縄じゃいかなそうだな。


「じゃあ閻羅が天邪鬼ってのを復活させるための魂を集め終わるのが一週間後だって言える根拠は?」

「閻魔様は今、この町にある魂の数を把握してるであります。それを逆算すればわかるであります」


 なるほど。閻魔が町の中にある魂の数を把握してれば、天邪鬼の復活に必要な魂の数に達するときがわかるってことか。


「子鬼にされたり、邪鬼の力になってる魂はカウントされないでありますから、町にある魂は、閻羅様が集めている魂以外にないであります」


 最近、テレビで廃人になった人のニュースが多く取り上げられてる。

 すでに、この町で百人以上がそうなってるんだ。さすがに警察も動いてるみたいだけど、どうにもならないだろうな。

 どうにかするには……あの邪鬼を倒して、閻羅を止めるしかないんだ。


「じゃあ一週間後まで待機ってことー?」

「いちおう、警戒はするであります。さっき言った通り、閻羅様は蓮と黒い無礼者に興味を持っているであります。魂が集まる前に、接触してくることがあるかもしれないであります」


 そういえばそんなこと言ってたな。だから俺たちと一緒に行動するって。

 一週間後に確実に閻羅は動く。基本はそのときに確保。でも、その前に接触してくる可能性もある。そのときも確保。

 これからの動きは大体わかった。どっちにしろ、警戒は解けないってことだな。


「さて……では、私にはそれまでにやることがあるであります」


 桜さんはハンバーグをペロリと食べて立ち上がった。おもむろに黒柱を生成して……なぜか俺に切っ先を向けてきた。


「はい?」

「この黒い愚か者を、鍛えるであります」


 なぜ、いきなりそうなった。


「まてまてまてまてまて。ていうかまず、その呼び方やめて。俺はソラだから」

「ではソラ。今から私と修行であります」


 だから。なんでそうなる。


「……なんで? ていうか、俺の事情知ってるんだよね? 俺はあんまり鬼人化を――」

「だから、でありますよ」


 桜さんの意図がわからない。つまり、どういうことだ?


「力を無駄に使いすぎないように、力の使い方を覚えるでありますよ。そうすることで、鬼人化したときの魂への負担が減るであります」

「そうなの?」

「まぁ、あくまで減るだけでありますが。使い続ければ……いずれ消滅することに変わりはないであります」

「……」


 確かに、全力で力をただ使ってるだけじゃ。魂への負担は半端ないだろう。これは俺にとって、願ってもないことだった。

 それに……さっき思ったばっかりじゃないか。

 俺は本当に蓮を守れるのか?

 鬼でNo1の実力を持ってる人が修行してくれるって言ってるんだ。乗らない手はない。


「よし。じゃあよろしくお願いします」

「……正直言うと」


 桜さんは急に、感慨深い表情をした。少しだけ。ほんの少しだけ、大人に見える。


「あなたの力は未知数であります。閻羅様や邪鬼と戦うとき、あなたの力が、おそらく重要になるでありますよ」

「……買い被りですよ」

「それは、私が決めることであります。ではさっそく行くでありますよ」


 桜さんはさっさと外に出て行ってしまった。ちょ……黒柱は一度解除して。ご近所で噂になっちゃう。


「ソ、ソラ……大丈夫?」

「桜さん。マジで強いから、あんたの体ぶっ壊れるかもしれないわよ」


 怖いこと言うなよ。

 でも、どっちにしろ俺はこのままじゃ駄目なんだ。

 この前みたいに、蓮に助けられるだけじゃ。

 蓮があんなにボロボロになるのは見たくない。

 強くならないと……。


「頑張るよ。蓮を守りたいから」

「え?」


 あ。思わず心の声が。

 しばし、蓮と見つめ合う。うお……なんか気恥ずかしい。心の声だから直球で出ちまった。


「あ、いや……邪鬼を倒さなきゃいけないってことで、えぇっと――」


 不意に、蓮がキスをしてきた。


「……!?」

「えへへー。頑張ってね!」


 キスをされたから、鬼人化する。

 でも、なんか今のキスは鬼人化するための手段って感じがしなくて……。

 ちょっと。いやかなり。

 ドキドキしてしまった。


「い、行ってくる」


 蓮の顔を見ていられなくて、逃げるように桜さんを追う。

 蓮を守るため……。

 俺が戦う理由はそれだけだ。

 そのために強くなりたい。そう思うのは当然のことだ。


「……やっぱりあそこか」


 桜さんの後を追って行くと、前に蓮と特訓した、住宅街から少し離れた所にある丘に向かってるのがわかった。人があんまり通らないから、桜さんが黒柱を振り回しても大丈夫だ。

 丘に着いて、向き合う形になる。

 向き合って、初めて気が付いたけど……。

 あんなに小さな体なのに、黒柱を構えるその姿は、ものすごい威圧感がある。

 なるほど。鬼のNo1は伊達じゃない。

 体を走る恐怖感がぬぐえないな。


「行っておくでありますが」

「はい?」


 桜さんは黒柱を素振りしながら、俺を睨むように見てくる。

 あ、あれ? なんか……後ろにゴゴゴゴゴって効果音が見えるんだけど。


「やるからには、手加減しないであります。ビシバシ。体が壊れるまで鍛えるでありますよ」


 俺の体壊す気満々なんだけどこの人。

 紅葉の体がぶっ壊れるってのは、冗談じゃなかった。

 この人。やばい。


「本気で、かかってくるであります」

「……」


 言われなくても、本気で行く。

 でないと、俺の身がマジでやばそうだ。



☆★☆★☆★



「ソラ。大丈夫?」

「死んでるんじゃないですか?」


 生きてる……生きてるよ……なんとか……。

 いや。マジで死ぬかと思った。いや。死んだと思った。三途の川見えた。天使がお迎えに来た。地獄からお呼びがかかった。いやまぁ俺もう死んでるんだけどさ。

 あの人。マジで手加減無しでしごきやがって。

 もう俺もマジでガチで戦らないと勝負どころか闘いにもならない感じだったぞ。鬼鉄拳連打したらもうね。腕が壊れそう。でも連打しないとたぶん死んでた。

 そもそも、桜さんの戦い方が独特だった。

 自分の体よりも大きな黒柱を、なんて言うか……軸にして体をくるくると反転しながら攻撃と防御を同時にしてくるんだ。あの大きな刀身は、攻撃を防ぐ盾としても使える。大剣は攻撃と防御を同時にできるという面で、すごく優れた武器だ。もちろん、使うのが桜さんだからってのもあるけど。

 けっきょく、俺の攻撃は桜さんに一発も当たらなかった。悔しい。


「まぁ、それなりに危なかったでありますよ」

「……嘘つけ」


 余裕で立ち回ってたくせに。

 まぁまだ一日目だ。絶対に、一矢報いてやる。見てろよ。


「ところで、晩御飯はまだでありますか?」

「当たり前のように俺に言いますか?」


 疲労困憊の俺に鞭打つようなことを。


「私が作るよー」


 さすがにと、ここは蓮が名乗り出た。ありがたい。俺、もう動けないもん。腕とか筋肉痛がやばい。足は今にも攣りそうだ。めっちゃ痙攣してる。


「私も手伝いますよ。お姉さま」


 あ。この野郎……俺のときは手伝ってくれなかったのに。差別だ。人種差別……いや、鬼種差別だ。

 キッチンに向かう二人の姿を見送って、俺は体を起こした。いてて……マジでいてぇ。


「体が痛むのは、力を使うときに、無駄に魂を酷使しているということであります」

「……力を使いこなせば、体も痛まなくなるってこと?」

「もちろんであります」


 この痛みと共に強くなるってことか。格好良く考えれば。

 俺の黒鬼は、普通の鬼狩と違って特殊な能力がある。普通の鬼狩はただ鬼を倒すための武器。能力なんてない。戦闘鬼と医療鬼で特性の違いはあっても。

 それは俺が蓮から鬼から外れた鬼の力をもらってるから。

 使いこなせれば……。

 確かに、大きな戦力になれるかもしれない。


「明日からはただ力を使うだけではなくて、コントロールを意識するであります。考えて戦うでありますよ」

「……了解」


 考えて戦う、か。

 ちょっと前までただの一般人だった俺に無茶言うなぁ。

 でもやるしかないな。

 いや、やりたい。

 蓮のために。

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