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16話「鬼の指令」

「桜ちゃん落ち着いたー?」

「こいつはあとでちゃんと調教しておきますから」


 おいコラ。調教ってなんだよ。初対面でこんなちびっこいのと会ったら勘違いするだろ。俺の反応が正常な反応だ。これを大人って認識するのは無理があんだろ。


「……まぁいいであります。それよりも、そこの黒い無礼者が蓮の力をもらっている鬼人でありますか?」


 あ、こいつ結構、根に持ってやがる。


「そだよー。この人がソラ! 私が力をあげてる鬼人!」

「……」


 桜……さんをつけたほうがいいのか? 桜さんは俺のことをじっと見てきた。ジロジロと観察するように。視線がくすぐったいんだけど。


「ふむむ。確かに普通の鬼人とは違うでありますね」

「え? わかんの?」

「鬼ならわかって当然であります」


 そういうもんなの? 俺は鬼じゃないからわからない。


「特殊な能力を持つ鬼狩。体の一部のように扱える鬼狩と聞いているであります。やっぱり、鬼から外れた鬼の力をもらった影響みたいでありますね」

「……俺、その言い方嫌いなんだけど」


 鬼から外れた鬼。蓮のことをそう言われるのは、なんか嫌なんだ。


「おっとこれは失礼したであります」


 ぺこりと頭を下げる桜さん。仕草を見ても、やっぱり子供にしか見えない。本当に年上なのかよ。


「閻魔にも俺のことは知られてるの?」

「それはそうであります。蓮に人間の魂をとっ捕まえろと言った張本人でありますから。状況は常に把握してるでありますよ」


 とっ捕まえるって言い方もやめろよ。虫みたいだから。


「蓮にも報告をもらってるでありますしね」

「えっへん」


 蓮。別に胸を張っていばるところじゃないぞ。仕事なんだから当たり前は当たり前だから。でも可愛いから許す。


「ところで桜さん。なにか御用があったんですか?」


 あーそうだそうだ。無駄な話してる場合じゃない。紅葉ナイス。

 閻魔の側近が、俺たちになんの用で来たんだ? 側近が動くなんて、ただ事じゃないだろうに。


「……少し、緊急事態になったであります」


 桜さんはベンチに座り、自動販売機を見上げた。


「とりあえず、喉が渇いたのでオレンジジュースを頼むであります」

「緊急事態なのにのんびりしすぎでしょ」


 思わずつっこんじまったよ。ていうか、やっぱり子供じゃないの? 年齢偽ってね?


「私はイチゴオレ」

「私はミルクティー!」

「なんでみんなして俺に言うの!?」


 しぶしぶ全員分の飲み物を購入。こんな近くにあるんだからみなさん自分で買ってください。俺をパシる必要ないだろ。


「ふぅ……さてと」


 オレンジジュースを両手でグイグイ飲んでから(やっぱり子供みたい)、桜さんは少しだけ真面目は顔を作った。


「閻魔様からの指令であります」

「指令?」

「そうであります。蓮、紅葉、黒い無礼者の三人に直々の指令であります」


 黒い無礼者はいい加減にやめろ。


「――閻羅様が天邪鬼を復活させようと、人間の魂を一つ持ち出し、人間界に出たであります。場所はこの町。天邪鬼復活のために活動しているものと思われるであります。それを私と共に阻止すること、それが指令であります」

「「!?」」


 蓮と紅葉はそれを聞いて、驚いていた。でも、俺にはなんのことかわからない。閻羅? 天邪鬼? なんだそりゃ。


「なぁ知らない単語が二つほど出たけど、なにそれ?」

「天邪鬼って……本当なんですか!?」


 ナイスシカト。ナイススルー。


「ソラ。閻羅様はね、閻魔様の弟だよー」

「え? 弟?」

「うん。実質、地獄でNo2だよー」


 地獄でNo2って……そんな奴が人間界になにをしに……って、あ、そうか。あまのじゃくとかいうのを復活させるとか言ってたっけ。


「じゃああまのじゃくは?」

「大昔。地獄で百数匹の邪鬼が集まって生まれた邪鬼のことだよー。天に届くほど大きな体から、天邪鬼って名づけられたの。あまりにも力の強い邪鬼だから、閻魔様と……えっと、赤鬼? って呼ばれてる鬼が、二人で地獄の底に封印したんだー」


 閻魔と……赤鬼?

 赤鬼ってのが何者かわからないけど、閻魔が手に負えずに封印したってこと? それ激やばじゃん。なんでそんなの復活させようとしてるんだよ。


「その閻羅ってのが人間界のこの町に出たって? そいつを探せばいいのか?」


 最近、子鬼もかなりの数出てるってのに。さらに仕事が増えるのは正直勘弁してほしいけどな。


「……私たち、もう会ってるわよ」


 ……は? もう会ってる?

 いつどこで? 俺はそんな奴と会った記憶ないぞ。

 ここ数日でそんな怪しい奴……。


「……」


『閻羅。お前……なぜこいつをわざわざここへ来させた?』

『なんのことでしょう。僕はあなたの邪魔になるようなことはしませんよ』

『……協力関係にはあるが、俺はお前を完全に信用したわけじゃない。それを忘れるな』


 閻羅。そうだ……邪鬼がそう呼んでた。


「……おい。まさか」

「そうよ。例の邪鬼と一緒に居た、あの白髪の男が閻羅様よ」


 あの白髪の男が閻魔の弟……。そういえば、初めて会ったとき、紅葉はあいつのことを知ってるような感じだった。それに閻魔の力が込められた結界の札を、簡単に破ってたな。

 じゃあ……一緒に居たあの邪鬼は……。


「桜ちゃん。閻羅様、人間の魂を一緒に持ってきたって言ったよね?」

「そうであります」

「……」


 蓮はなにかを確信したかのような表情になった。

 俺も……蓮ほどの確信はないけど、一つの考えが頭をよぎった。

 人間の魂を持って人間界に出た。それはつまり、俺みたいに……。


「人間の魂に閻羅様の力を与える……ってところでしょうか?」


 俺と蓮の答えを、紅葉が口にした。

 人間の魂に鬼が力を与えることで、鬼人になる。それと同じように、閻羅が自分の力を与えたら……。


「正解であります。閻羅様は自らの力を人間の魂に与えることで、邪鬼であり、鬼人でもある存在を作り上げたであります。それが……蓮が追っている邪鬼であります」


 邪鬼でもあり、鬼人でもある存在……。

 閻羅が言ってた「あなた自身も『普通』ではないことをお忘れなく」って言うのは、そういう意味だったのか。


「交戦済みなのでわかっていると思うでありますが、普通の邪鬼とは成長速度も能力も桁違いであります。すでに鬼狩の生成も済ませているとのことでありますが、ここまで成長している邪鬼でさえ、普通の鬼単体ではきつい相手であります」

「そこまで成長する前に大体倒しちゃうもんねー」


 確かに、最初に戦ってから数日しか経ってないのに、あいつはかなり成長してた。力も知能も。あれは元々人間の魂で、閻羅から力をもらったからか。


「……地獄から外れた存在」

「え? ソラ。なにそれー?」

「あいつが、閻羅が自分のことをそう言ってた。どういう意味なんだ?」


 蓮が鬼から外れた存在なら、自分は地獄から外れた存在。そうやって言ってた。閻魔の弟なのに、地獄から外れた存在ってのはどういう意味なんだ?


「……閻羅様は、地獄から追放された身であります」

「追放?」

「地獄の果て。永久時空間に幽閉され、本当ならば出てくることはないはずだったでありますが……ある日、永久時空間から脱走したであります」


 地獄から追放……それで地獄から外れた存在、か。


「追放って、追放されるほどのなんかをやったってことか?」

「閻羅様はね、地獄の鬼たちを次々と手にかけたのよ」

「地獄の鬼の半数が殺されちゃったんだよね……そのせいで、地獄は絶賛鬼不足になっちゃったって閻魔様が言ってたよ」


 地獄の鬼たちを、閻魔の弟が手にかけた?

 つーか、そのせいで鬼不足になっってんのかよ……それで俺は蓮に拾われたわけだけど。


「でも、なんで閻羅は地獄の鬼たちを殺したんだ?」

「鬼の魂を集めるためであります」

「……なんのために?」

「あんたね。聞いてばっかじゃなくて自分でも考えたらどうなの?」


 無茶言うな。ちょっと前まで人間界の一般人だった俺に、地獄の事情なんて考えたところでわかるはずない。


「それこそ、天邪鬼を復活させるためであります」

「え?」

「天邪鬼を復活させるためには、かなりの数の魂が必要であります。それを手っ取り早く集めるために、地獄の鬼たちを手にかけたのであります」


 そこまでして、なんで天邪鬼って奴を復活させたいんだろうな。つまりは……地獄を敵に回すってことだろ?


「でも、失敗して閻魔に地獄から追放されたと……でもどうやって逃げたんだ?」

「それはわからないでありますが……閻羅様は永久時空間の中で、力を蓄えていたようであります。自分の力で、無理やり空間から出たのかもしれないでありますね」


 聞けば聞くほど、閻羅のやばさが伝わってくる。そんな奴、俺たちの手におえるのか?


「閻魔が直接捕まえたほうがいいんじゃねぇの?」

「それは無理だよー。私たち鬼と違って、閻魔様の力は強すぎて、現世界に出るだけで影響が出ちゃうの」

「影響?」


 確かに地獄の大王がこっちの世界なんかに来たらなにかしらの影響があってもおかしくないけど。


「影響ってどんな?」

「うーん……天変地異でも起こっちゃうかな?」

「うん。絶対にこっちの世界に出てくんなって閻魔に言っておいてくれ」


 それだけで世界が終わりそうだ。


「ん? でも地獄でNo2の閻羅はこっちの世界に出てきたんだよな?」

「自分の力を制御しているようであります。こっちの世界での閻羅様の力は、おそらく通常の半分以下。だから、私たちにも止められる可能性は十分にあるであります」

「閻魔は力を制御して出てこれないの?」

「力が強すぎて無理であります」


 力が強すぎるってのも考えもんだな。No1とNo2でかなり力の差があるってことか。なんか閻羅より閻魔のほうが怖くなってきた。

 うーん……なんかあの邪鬼を倒せばいいって話でもなくなってきた。話が大きくなってる。

 ……俺も、いつまで鬼人化して戦えるかわからないし、早くケリつけないとな。


「……!?」


 俺たちに向かって落下してくる大きな影。気配に気づいて、俺たちは同時に上を見上げた。

 あれは……黒い子鬼! くっそ! 話に夢中で気づかなかった。こいつは魂から作られてないから、蓮にも痕跡がわからないみたいだし。ましてや最近子鬼の気配を少し感じるようになったばかりの俺にはわかるはずもない。


「うおっと!?」


 落下しながらその巨大な足で俺たちを踏みつぶそうとしてきた黒い子鬼。俺以外は簡単にかわす。俺は鬼人化してない状態だから少し危なかったぞ。ちくしょう。


「……なんでまたこいつが来るんだ?」

「知らないわよ。来るわ!」


 黒い子鬼が、地面にめり込ませた足をもう一度踏み砕き、俺たちに向かって突進してきた。速い!? さっきの黒い子鬼よりも全然速い。普通の子鬼の速さなんて比べものにならない。


「ソラ!?」

「わっ!?」


 鬼人化してない俺は、蓮に抱きかかえられながらその突進をかわした。そのすれ違いざまに、紅葉が生成した黒鎌を、黒い子鬼の腹部に振りぬく。


「くっ……」


 ガキィン! という金属音が響く。黒鎌の刃は簡単に弾かれた。こいつ……前に戦った、能力で融合するタイプの子鬼並みの硬さだ。ギロリ、と黒い子鬼の目が紅葉をとらえる。


「蓮!」

「うん!」


 蓮にキスをして、素早く鬼人化した俺は、腕を巨大化させて高質化。今日二発目で正直やりたくないけど、そんなこと言ってられない。正面から黒い子鬼に鬼鉄拳を叩き込んだ。


「げっ!?」


 でも、倒しきれなかったどころか、黒い子鬼はその場で耐えた。両腕で俺の鬼鉄拳を受けて、足でふんばってる。ダメージと言えば、わずかに、両腕にヒビが入った程度だ。おいおい……今のところ、俺にとって最強の技なんだけど。


「ソラ! 危ない!?」


 蓮が叫んだのと、黒い子鬼が俺の鬼鉄拳を無理やり押しのけて巨腕を振り下ろしてきたのは同時だった。やっぱり動きが速い。巨大化と高質化を解除して、防御の体勢に入る。


「鬼壁!」


 皮膚を壁に具現化して、巨腕をなんとか防御。でも、衝撃で後ろにふっ飛ばされる。なんつー馬鹿力だよ。衝撃が腕まで突き抜けてきやがった。


「やぁ!」


 吹っ飛んだ俺と入れ違いに蓮が突っ込む。黒角を回転させながら勢いをつけて、黒い子鬼の脳天をおもいっきり打ち付ける。傍から見てても痛そう。


「わ、わわっ!」


 それでも黒い子鬼は怯まず、黒角を手で掴み、そのまま蓮を投げ飛ばした。


「蓮!?」


 投げ飛ばされた蓮を受け止める。あぶね……投げられただけでよかった。黒角を傷つけられたら、また蓮は動けなくなっちまう。


「ありがと……ソラ」

「こいつ……さっきの奴と全然スペックが違うぞ」


 さっきの黒い子鬼は、他の子鬼を操って指揮するって能力があったけど、それ以外の身体能力は普通の子鬼と同等がそれ以下だった。でもこいつは……明らかに強い。普通の子鬼とは比べものにならない。


「たぶん、さっきの奴と違って、戦闘に特化した型なのね。普通の子鬼で言うとパワータイプと同じみたいね」

「……じゃあさっきの奴は能力タイプってところか」


 厄介だな。あの邪鬼の力で生み出された黒い子鬼。

 これも……閻羅から力をもらった邪鬼だからできることか。


「下がってるであります」


 桜さんが俺たちの前に出た。

 え? いやいやおいおい……下がってろ? 一人で戦うつもりか?


「おい! 一人じゃさすがに――」

「問題ないであります。すでにあいつの動きは把握したであります」


 問題ないって……俺たち三人がかりでこれなのに、桜さん一人でどうするつもりだよ。


「大丈夫だよー。ソラ」

「え?」

「閻魔様の側近をやってるのよ? 桜さんは。弱いとでも思ってるの?」


 蓮と紅葉は、桜さんを落ち着いた様子で見ている。

 絶対に大丈夫。そう本気で思ってるみたいだ。

 確かに閻魔の側近ってことを考えると……かなり強いんだろうけど。


「……桜さんってどのぐらい強いんだ?」

「えっとね……たぶん、鬼の中では桜さんより強い鬼は居ないと思うよー」

「実質、鬼のNo1よ」


 激強だった。


「『黒柱』の錆になるであります」


 桜さんが生成したのは……大きな剣。大剣型の鬼狩だ。黒い刀身がまるで大きな柱みたいだ。だから黒柱か。

 ……ていうか、桜さん本体よりでかくね? あんなの振り回せんの?

 あ、でも鬼狩は使用者本人には重さを感じないようになってるみたいだから、大丈夫なのか。いやそれにしても……体とバランスが悪すぎる。振ったら体ごと揺さぶられそうだけど。


「!?!?!?!?!?」


 黒い子鬼が目玉をギョロリと動かし(気持ちわりぃ)、桜さんを攻撃対象としてロックオン。巨体を震わせながら突っ込んできた。


「……黒の太刀、第一刀」


 落ち着いた声。桜さんは黒柱を両手で握り、刀身を背中に担ぐようにして構えた。

 ……というか、刀身の先が地面に着いてる。もはや構えてるのか、置いてるのかわからない。


「――黒月」


 なんて、俺が正直少しだけ桜さんを小馬鹿にしていたときだった。

 桜さんの姿が、消えた。

 正確には、黒い光になって(そう見えただけだけど)黒い子鬼の目の前まで一瞬で移動してた。そして跳躍。黒柱を肩から振り下ろす形で一回転。

 斬撃で黒い円が描かれる。まるでそれは、黒い月。

 なるほど、黒月か。納得。


「!?!?!?!?」


 俺たちの攻撃を受けてもなんともなかった黒い子鬼。

 でも、桜さんの斬撃で、体を一刀両断された。声にならない断末魔をあげて、光になって消滅していく。

 い、一撃? マジかよ……強いなんてもんじゃない。これはマジで、怒らせない方がよさそうだ。俺も狩られる。


「さっすがー! 桜ちゃん!」

「お見事です」


 確かにお見事。この人が居れば、俺たち必要ないんじゃないかってぐらいの強さだ。

 でも、それでも俺たちに協力しろって指令。まぁもともと蓮が追ってた邪鬼ってのもあるんだろうけど。


「……なんで俺たちなの?」

「なにがでありますか?」

「いや、なんで協力させるのが俺たちなのかなって」


 大体、そんなにやばい状況なら、地獄の鬼総出でもいいぐらいだと思うんだけど。鬼不足とか言ってられないと思うんだけど。


「鬼から外れた鬼」

「……」

「閻羅さまは、蓮に……あなたに興味を持っているらしいのであります」


 閻羅が、俺と蓮に?

 あんまり気持ちの良い話じゃないな。


「だから、あなたと蓮と行動を共にしていれば、閻羅様に遭遇する可能性が高くなるということであります。大人数で動けば警戒されてしまうので、閻魔様は私一人に指令を下したのであります。実質、協力する立場なのは私なのであります」


 なるほど……少数精鋭って奴ね。別に俺が精鋭だとは思わないけど。

 閻羅が俺と蓮に……ね。

 あの邪鬼は蓮の力を奪うって言ってた。もしかしたら……閻羅も似たようなことを考えてるのかもしれない。そもそも、あの邪鬼を作ったのが閻羅なら、充分に考えられる。

 いや……。

 むしろ、その考えそのものが、元々閻羅の考えたことかもしれない。

 どっちにしろ、蓮を守らないといけない。

 俺の魂が燃え尽きるまで。


「んで? 具体的にどうするんだ?」

「まずは閻羅様がこの町から出られないようにするであります」


 え? そんな方法あるの?

 桜さんは腰の鞄から、一本の黒い杭? みたいなのを取り出した。なんだこりゃ?


「あ、『地獄の杭』だー」

「……なにそれ?」

「閻魔様の力が込められた杭よ。地獄と現世界に一本ずつ打ち込むことで、一時的に地獄と現世界を繋げて、隔離することができるの」

「……つまりどういうことだ?」


 わからねぇって。俺は地獄出身じゃないんだから。繋げて隔離? そうするとどうなるんだよ。


「つまりは、この町を地獄と繋げることで、現世界から隔離するのであります。その時点で、閻羅様は地獄とこの街しか行き来できなくなるであります。もちろん、我々もでありますが」

「……この町が地獄の一部になるってこと?」

「そうであります。一時的にでありますから、安心するでありますよ」


 なるほど。確かにそれなら、閻羅はこの町から逃げられないな。逃げても地獄しか行くところがないんだから。

 さっそく桜さんは地面に杭を打ち込んだ。こんなところに打ったら目立つんじゃ? と思ったけど、その心配はなかった。打った杭は、地面に同化するように消えて行った。


「完了であります」

「これって一般人も町から出られなくなるの?」

「まぁそこは仕方ないであります。町の外では時間が進んだことにはなっていないから、戻したときのことは大丈夫であります。この町は……後で人間たちの記憶を捻じ曲げるから問題ないでありますよ」


 問題すっげぇある気がする。怖いことをさらっと言うな。記憶捻じ曲げるとか。


「まぁでも、地獄って便利だな」

「閻魔様がいろいろ道具を作ってるからねー」


 閻魔、ね。一度はお目にかかりたいもんだ。地獄で一番偉い奴なんて、普通に人間として生きてたら会うどころか存在すら本気にしてないし。


「ではまず……」


 お? 次の行動か。そんなにのんびりしてられないもんな。

 黒い子鬼が連続で襲ってきたし、閻羅と邪鬼が今もずっと動いてることは間違いない。俺たちもすぐに行動しないとな。


「蓮の家に行くであります。お腹が空いたであります」

「ちょっとまてい」


 さっきから言ってることとやってること真逆じゃね? のんびりしすぎだろ。


「なんでありますか?」

「いや、そんなのんびりしてていいんすか? 閻羅たちがあまのじゃくってのを復活させようとしてるんでしょ? 復活されたら不味いんでしょ?」

「現世界どころか地獄もやばいでありますね」

「だったら……」

「大丈夫であります。すでにちゃんと、手は考えてあるであります」

「え?」


 ドヤ顔。なんでドヤ顔されたのかわからないけど。ていうかその顔、子供にしか見えない。絶対言わないけど。


「手って? どんな手を?」

「ご飯を食べながら説明するであります」


 なにがなんでも飯を食べるつもりか。

 まぁ閻魔の側近がこう言ってるなら大丈夫なんだろうけど。いちいちつっこむの面倒だからやめておこう。


「桜ちゃんなに食べたいー?」

「ハンバーグであります! 野菜抜きでお願いするであります!」

「……」


 やっぱり、年齢偽ってね?

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