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15話「鬼の目的」

「……」


 社会人になってから、自分の適正睡眠時間ってのがわかるようになったんだよな。自分にとって、一番次の日調子が良くなる感じのな。どうやら俺は六時間半~七時間が一番良い睡眠時間らしい。まぁその通りに寝られることなんてほとんどないけど。社会人ってのは辛いな。

 だからかな。ここ最近、適正睡眠時間を守ってるおかげか、体の調子が良い。

 ……俺、もう死んでるけどな。


「あー……睡眠の取り方って大事だよな。学生の頃は若さに任せて(まだ若いけど)体力尽きるまで活動してたからな。睡眠とか二の次だった」


そんな社会人になった俺は(今死んでるけど)、平日の昼間に公園でっぼーっとしてるわけだけど、別にニートやってるわけじゃないぞ。ちゃんと目的があってぼーっとしてるんだ。

まぁ、周りから見たらニートの兄ちゃんにしか見えないだろうけど。


「……来たな」


 体がぞくぞくする感覚。もう慣れてきたな、この感覚も。蓮みたいに魂の痕跡を感じてるわけじゃないけど、邪鬼の力を持ってるせいか、俺にはわかるんだ。

 邪鬼と子鬼が近づいてくるのが。


「……1、2、3……もっと居るな。ずいぶんな団体だ」


 数も少しならわかる程度にまで、この感覚も鋭くなってきた。

 さぁて……。

 逃げるか。


「鬼さんこちら! 手の鳴るほう……うおっと!?」


 手を叩いてると、空から子鬼が一体、俺に向かって急降下してきた。今はただの人間と変わらない俺は、必死に逃げる。でもこれだけじゃないんだよな。子鬼は他にも数対居る。

 昼間の公園は人が少ないからな、こうやって獲物を釣るには絶好の場所だ。


「伏せなさいよ!」

「うわっ!?」


 俺が逃げる方向から、紅葉が黒鎌を構えながら走ってきた。そのまま黒鎌を……危ね!? こいつ、今俺のことまで斬ろうとしてなかったか!?


「!?!?!?!?」


 黒鎌が子鬼の腹部を切り裂いて、断末魔の声をあげながら子鬼はその場に倒れた。


「屍はあんたが処理してよね」

「……なんで偉そうに言うんだよ」


 紅葉は医療型の鬼だから、子鬼を倒してもその体は消滅しないで残っちまうんだったな。でも、俺もこのままじゃなにもできないぞ。


「ソラ!」


 声と共に、俺の横にふわりと着地した蓮。そして笑顔そのままに、俺の唇を奪ってきた。


「よーっし! 行っちゃおう!」

「……蓮。するときはするって言ってくれ」


 不意打ちはマジで理性飛びそうになるから。

 蓮から鬼の力をもらって、黒い皮膚が俺の体を包み込む。鬼人化完了だ。蓮からもらった名前、俺の鬼狩『黒鬼』だ。


「蓮。よろしく」

「うん。いっくよー」


 俺が軽くジャンプするのに合わせて、蓮が黒角を振りかぶる。そして俺の足に向けて振りぬいた。打撃音と共に、俺はその衝撃で加速して子鬼へと、文字通り飛んで行った。その勢いのまま……攻撃態勢にはいる。


「鬼拳!」


 拳を巨大化させて、子鬼の巨体を殴り飛ばす。俺の必殺技、『鬼拳』だ(蓮命名)。そのまんなの名前だけど、蓮が言うのは「必殺技は叫びやすくないと!」ってことらしい。どこの戦隊シリーズだろう……。


「げっ」


 俺がふっ飛ばした子鬼の後ろで、赤目をギョロギョロとさせて光らせてるもう一体の子鬼。あれは能力タイプの定番。目からビームだ。完全に俺を狙ってるな。えっとこういうときは……。


「鬼壁!」


 鬼拳を解除して、今度は皮膚を体全体囲むように壁として精製。さらに高質化。邪鬼と戦ったときに初めてやったけど、防御としてかなり優秀だ。名前は『鬼壁』。もちろん、命名は蓮。そのまんまです。はい。


「おっとっと」


 衝撃音と共に、軽い反動がくるけど、鬼壁はびくともしない。鬼壁を砕きたかったら五体ぐらいでビーム撃つんだな。魂も食ってない子鬼なんかの力じゃ無理無理。

 子鬼が俺に気をとられてるうちに、


「えい!」


 蓮が背後から子鬼を攻撃。黒角が子鬼の後頭部を殴打。よろけた子鬼に、蓮はさらに追撃。


「えい! やぁ! とお!」


 ……やりすぎじゃね? 子鬼。ボッコボコなんだけど。


「後ろ! ぽけっとしないでよ!」

「ん?」


 気が付けば、別の子鬼が俺の背後に接近してきてた。その動きに合わせて、紅葉が黒鎌を構えて、横なぎに振り払う。


「てりゃあ!」

「うぉあぁ!?」


 だから危ないっての!? さっきから俺ごと斬ろうとしてるしか思えないんだけど! あわよくば邪魔者排除って感じで!


「はい! 処理役お願い!」

「処理役言うな!」


 文句を言いながらも、黒鎌に体を切り裂かれた子鬼に向かって、生成した刀を振りかぶる。皮膚で作った『鬼刀』だ。皮膚を上乗せして高質化して『鬼太刀』にもできる。


「おらぁ!」


 子鬼の体を一刀両断。活動限界になった子鬼の体は光になって消えて行った。


「……ソラ。やっぱり、今日も居るよ」


 あらかた子鬼を倒したところで、蓮が今までの戦いを遠巻きに見ていた。一つの影を指さした。


「……やっぱりあいつが子鬼たちの指揮官って感じなんだな」


 黒い子鬼。ここ数日、子鬼たちが群れで活動してるところには、必ず現れる。

 普通の子鬼は全身が白。白い角に赤い一つ目だ。でもあの黒い子鬼は、全身が黒。普通の子鬼じゃないのは見てわかる。


「今日は逃がさねぇぞ」


 いつもは子鬼を全滅させると一目散に逃げるんだ。でも、今日は逃がさない……。


「って、うぉ!?」


 そんな俺の思考とは裏腹に、黒い子鬼は巨体を素早く移動させ、逃げるんじゃなくて……俺たちに向かってきた。攻撃態勢だ。


「あら。向こうから来てくれたじゃないの」

「……なんで今日に限って?」

「目的を達したからかもねー」


 目的? なんだそりゃ……でも、あの黒い子鬼を生み出した張本人のことはわかってる。蓮の力を狙ってきた……あの邪鬼だ。なにか目的があってやってるのはわかる。


「一発で沈めるから。あんたあれやってよ」

「え? あれすっげぇ疲れるんだけど」

「恰好良いからやってやってー」

「おう。任せろ」


 蓮に乗せられて、やる気満々の俺。不服そうな紅葉の目線は見えないふり。


「私と紅葉ちゃんで足止めするから!」

「失敗しないでよね」


 蓮と紅葉が一足先に黒い子鬼の左右へと走る。子鬼はただただ真っ直ぐ突っ込んでくるだけだ。なんだ? 意外と知能は低いのか?


「えい!」

「やぁ!」


 蓮が黒い子鬼の額を打ち抜いてバランスを崩させる。その隙に紅葉が足に黒鎌の刃を突き立てて、動きを封じた。


「……高質化」


 そこに、巨大化させた腕を、さらに高質化させた俺が突っ込む。

 俺にとって、一番体に負担がくる技だ。その名も『鬼鉄拳』。


「おりゃあぁぁぁぁぁ!」

「!?!?」


 まともに俺の鬼鉄拳を受けた黒い子鬼は、全身にヒビが入って、衝撃で体を地面へとめり込ませた。まだ止めは刺してない。それにはある理由がある。


「ちゃんと手加減したんでしょうね?」

「たぶん。まだピクピクしてるから生きてんだろ」

「たぶんってなによ。適当な仕事しないでよね」


 仲間ごとぶった切ろうとした奴がなに言ってんだ。

 止めを刺さなかった理由は、この黒い子鬼の正体を探るためだ。普通じゃない子鬼。邪鬼が何のために生み出した子鬼なのか。体を調べればわかるかもしれない。


「念のため手足ぶった切っておきましょう」

「……ドS」

「なんか言った?」


 言ったけど、聞こえなかったことにしておいてください。

 医療鬼の紅葉は、子鬼と邪鬼の細胞を使うからか、その生態も詳しいらしい。俺にはさっぱりだけど。見ればわかるもんなのかな? 本当に。


「……お姉さま。この子鬼、魂から作られていません」

「え? そうなのー?」

「魂から作られてない?」


 普通。邪鬼は食べた人間の魂を使って、子鬼を生み出す。そして、子鬼を倒せばその魂は元の体に戻る。邪鬼も同じく、邪鬼を倒せば食べた魂は全部元に戻るんだ。

 でも、この黒い子鬼は魂から作られてないって?


「じゃあこいつはどうやって生まれたんだよ?」

「気が散るから黙れ」


 俺の声は雑音扱いですね。


「……おそらく、こいつは邪鬼本体の力をそのまま具現化した子鬼です。ポテンシャルはそこまで変わりませんけど、その代わり、他の子鬼たちの脳に直接指示して操る能力があるみたいです。まるで、邪鬼本体みたいに」

「……そんなこと、普通の邪鬼にはできないね。やっぱり、あの邪鬼……なにかおかしいよ」

「……」


 なにかおかしい。


『あなた自身も普通ではないことをお忘れなく』


 邪鬼と一緒に居た、白髪の男がそう言ってたな。

 わからないことだらけだ。けっきょく、なにが起こってるんだよ。鬼たちが今までやってきた、ただの邪鬼退治じゃないってことは確かだけど。


「じゃあ今まで子鬼たちが集まって行動してたのは、この黒い子鬼のせいってことか?」

「そだねー。魂から作られたんじゃないから、私にも魂の痕跡が感じ取れなくてわからなかったんだね」


 うーん。さっきも思ったけど、つまりは、俺たちに見つからないように姿を隠して子鬼たちを操ってたってことだろ? なのに、なんで最近は俺たちの前に現れて、しかも今日は闘いを仕掛けてきたんだ? 蓮は目的を達したからじゃないかって言ってたけど……目的。黒い子鬼の、邪鬼の目的か。


「……あいつは蓮の力を奪うって言ってたけど、この黒い子鬼も、それと関係してるのかな?」


 俺の知ってる邪鬼の目的はそれだけだ。こいつも、その為に作られたのか?


「……違うと思うわよ」


 紅葉が年齢に似合わない難しい顔をしたまま、俺の考えを否定した。


「お姉さまの力を奪うために、邪鬼はこの間、本体自ら襲ってきた。それは、子鬼じゃその目的が果たせないから。子鬼単体なんて、お姉さまの敵じゃないし、数が増えたって同じ。こいつの能力は、その目的には全く役に立たないわ」


 なるほど。確かにそうだな。子供のくせに、見解はしっかりしてやがる。

 ってことは、やっぱり邪鬼には、蓮の力を奪う以外に、なにか目的があるってことか。問題は……それがなんなのかってことだけど。



「ほほー。なかなか鋭いでありますね」



 突然の甲高い子供の声に、俺たちは周りを見渡す。

 ……あれ? 誰もいない。


「どこを見てるでありますか! 私はここであります!」


 あ、いた。俺たちの目線の遥か下に、ちっこい女の子が。

 ……誰?


「あ、桜ちゃんだー」

「……蓮、知り合い?」

「閻魔様の側近よ」


 側近? それって地獄でけっこう高い位ってことだよな? うそ……こんな子供が?

 腰まで伸びてる長い金髪に、クリクリと丸くて青い瞳。子供独特の丸い顔。金髪に青い瞳って……典型的な外人の幼女っぽい。幼女って単語使うと危ない奴みたいだな。ゆういつ子供っぽくない所は、銀色の鎧を着ているところか。鎧って言っても、下はスカートだけど。動きにくくないのか? あれ。


「……閻魔の側近の子供が俺たちに何の用なんだ?」

「「あ」」


 ん? 蓮と紅葉の声が重なった。驚きに口をポカンと開けてる。え? なんで?


「……」


 そして金髪幼女は、背後にゴゴゴゴゴ……って効果音が見える。もしかして……怒ってらっしゃる?


「ソラ。桜ちゃんにそれは禁句だよー」

「それ? どれ?」

「子供って単語」

「お前みたいだな」

「うっさい! ていうかあんた、早く謝りなさいよ。桜さん、これでも二十歳を軽く超えてるんだからね」

「……え?」


 マジで? 年上? うっそ……この幼女が?


「子供……子供と言ったでありますか? 今」

「……」

「私のことを子供と言ったでありますね」

「……」

「私は今年で二十六であります。経験豊富な大人の乙女でありますよ」


 あ、ガチで年上だ。俺より六つも年上だ。

 ていうか、悪寒が……これ、マジでやばい奴だ。


「ごめんなさい」


 幼女に土下座する成人男性。

 ……これ、傍から見たらどうんな風に見えるんだろう?

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