(7)
その笑顔も心も全て俺のものにしたい。
そう思うようになったのはいつからだっただろう。
バレンタインデー前日。
井上は学校を休んでチョコレートを作るという柄にもないことをしていた。
なぜそんなことをしているのか。
それは明日、ずっと想い続けてきた人に告白するためだった。
「佐藤…」
佐藤の様子がおかしいと思ったのは、数日前のことだった。
話かけても目が合わない。態度もどこかよそよそしいものだった。
自分は何か嫌われるようなことをしてしまったのだろうか。
心当たりがないわけではなかった。
最近の自分は以前より彼に触れる回数が増えた気がする。意図的にやっているわけではないが、彼に触れたいと思う気持ちが日に日に増して、気付けば肩や腕に触れていたこともあった。
それが原因かもしれない。
佐藤が誰かと話しているのを見るだけでその相手に嫉妬した。普段一緒にいる友人でさえ、嫉妬の対象になった。
先日、佐藤の熱を額で計ろうとした時のことだった。あの時の彼の避けかたは尋常ではなかった。それほどまでに嫌だったのだろうか。
だが、自分でもやり過ぎたと思った。
普段の佐藤ならあからさまに嫌がるということはしない。
やはり俺は嫌われたのだろうか。
嫌われていたのだとしても、自分の想いを伝えたいと思った。
佐藤を好きだという気持ちを伝えられないまま、友人ですらなくなってしまうのは嫌だ。
そう思い、バレンタインデーに告白することを決意したのだった。