(4)
友人を好きになった。それも男だ。
俺の気持ちを知ったら井上はどう思うだろう。
気持ち悪がられて、今の関係さえ続けられなくなってしまう、それだけは嫌だった。
この気持ちを伝える気はない。
友人でいられなくなるのが恐いということもあるが、井上はバレンタインに好きな子に告白しようとしている、そんな時に悩みの種を増やしたくはないのだ。
とにかく今は、友人として彼の恋を応援しなければならないと何度も自分に言い聞かせた。
翌朝、井上が学校を休むということを担任から聞いて知った。
いつもなら俺にも連絡してくれる。なのに今日はそれがなかった。
具合が悪くて寝込んでいるのだろうか。
それとも、昨日チョコレートを食べた時俺の気持ちが態度に出ていて、それで俺の気持ちに気付いてしまったから俺に会いたくないと思ったのだろうか。
自分の気持ちを恋と認めてから不安ばかりが頭に過る。
しかし、悩む暇を与えないとばかりに俺の回りに数人の女子が集まってくる。もちろん目当ては俺ではない。井上が何故休んだのか聞きにきたのだ。
「なんで井上君来てないのー?」
「風邪でも引いたんじゃない」
「大丈夫かなぁ、明日来れるといいんだけど」
適当に会話をしていたが、井上の心配をしているのか、明日に控えたバレンタインデーの心配をしているのか分からない人もいた。
井上が好きになったのはこういう人ではない。
そう信じたかった。