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放課後、俺は井上に話したいことがあると、普段使われていない部屋に呼び出された。
人気のないところに呼び出すからにはよほど重要な話なのだろう。
数分も待たないうちに現れた井上の手には、何やら小さい紙袋が握られていた。
「俺、バレンタインに好きな子に告白したくてさ。そん時に逆チョコ渡そうと思うんだけど、作ってみたから食べて感想聞かせてくれないかな」
井上に渡されたのは、小さなハート型のチョコレートだった。
手作りのチョコレートを渡したいほど好きな人とはどんな子なのだろうか。
前に話していた、ずっと想い続けている人なのだろうか。
そんなことを思いながらチョコレートを口へ運ぶ。
「にがっ…女子ならもっと甘い方が良くね?」
「そうかな。佐藤的にはどう思う?」
「俺?俺も甘い方がすきだな」
思いの外チョコレートは苦く、口の中にまだ苦さが残っていたが、そんなことより井上が誰かに告白する、それだけで心は苦い想いでいっぱいだった。
こんなことを思ってしまったら、もう認めるしかなかった。井上に恋をしているのだと。
明日からどんな顔で会えば良いのだろうか。