(2)
「今日チョコくれた子に告られてさ、付き合うことにしたんだ。一緒に帰るからしばらく幸太とは帰れないと思う。悪いな」
「……」
「泣くなよ」
「…嫌、だ」
「嘘だよ。本当は俺、幸太のこと…」
頬に伝う冷たい感覚で目が覚めた。夢を見て実際に涙を流していたらしい。目を軽く擦り体を起こす。時計を見ると、いつもならもう学校にいる時間になっていた。ベッドから飛び下りると急いで支度を済ませ、家を後にした。
教室に着くと始業の鐘が鳴り終わるところで、廊下の向こう側から先生がこちらへ歩いてくるのが見えた。どうやら遅刻せずに済んだようだ。
席に着いてから今朝見た夢のことを思いかえす。先刻は急いでいて深く考えなかったが、妙な夢だった。
井上に彼女ができた時のことなど考えたこともなかったが、確かにいつ彼女ができてもおかしくはない。
しかし、それでなぜ自分がショックを受けていたのか、そして目が覚める直前の井上の言葉が気になり、授業にも集中出来なかった。こんな夢を見るなんて自分でもどうかしてると思う。
「…う、佐藤」
体を揺すられ、ようやく自分が井上に名前を呼ばれていたことに気づく。慌てて返事をすると、間の抜けた声が出た。
「へ?何」
「へって、お前なー。帰ろ。まったく、今日ぼーっとしてたけど大丈夫か。熱でも…」
「うわっ、何でもない。帰ろ」
勢いよく椅子から立ち上がり、帰る支度をする。
驚いた。井上が額で計ろうと顔を近づけてきたのだ。俺が急に立ち上がったせいか、井上も驚いた顔をしていた。その後にやっぱり今日変だなと笑って言った井上の顔に少し違和感を感じたが、すぐに気にならなくなった。
家に帰ってからも頭から井上のことが離れることはなかった。
夢のことを考えていたとはいえ、今日の自分の態度はやり過ぎだと思った。
これでは意識しすぎてまるで俺が井上のこと…。
それ以上は考えたくなかった。